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第五十四話

 今日は雲一つない快晴だ。

「……」

 だというのに、なぜかスピカは落ち着かなかった。その不安を裏付けるように、精霊が突然つぶやく。

『きます…』

「「っ!?」」

 次の瞬間、山に似合わない豪勢なドレスを着たアリシアと、着せられた感の強いフロックコート姿のセオドアが現れた。

「あらあら、山?」

 サプライズされたかのような余裕の表情で辺りを見渡すアリシア。対照的に、セオドアは感情の見えない無表情でじっとモカロネとスピカを見ていた。

「ずいぶんと手が込んでるじゃん」

「ええ、来ると分かっていれば準備もします」

「……」

「セオドアさん…」

 モカロネとアリシア、スピカとセオドアは互いに見つめ合う。

「山かぁ、別にいきなり燃やしてもいいんだけどね?それはあまりにも品がないし、セオドアに引かれちゃうかもだし?ここは大人の余裕で乗ってあげちゃおうかなっ」

『怖すぎる…あ』

 ドン引きのガスパールだったが、すぐにピンと来た。

「分かっていますね、スピカ」

 モカロネとスピカは目を合わせる。目的をちゃんと目視できたかの確認だったが、スピカはしっかりと見つけていた。

「はい、確認しました」

「では、作戦開始です」

 モカロネが、アリシアに杖を向けた。

「セオドアさんを返してもらいます!」

 吠えるスピカ。

「やってみなよ、できるならね?」

 挑発するアリシア。


「いきます!」

 スピカがセオドアに向かって行き、モカロネはアリシアに向かって術を唱える。

 その瞬間。

「あらら?」

 セオドアとアリシアの間から地面が隆起したかと思えば、大量の根が二人を分断せんと襲いかかった。

「あーそういうこと」

 アリシアは、瞬時に精霊の存在に気付いた。この質量を無詠唱で行えるほど、モカロネは魔術に精通していない。当然スピカではないだろう。

「助っ人がいたんだね」



 三人での作戦会議中。

『さくせんはあるのですか』

 精霊がモカロネを見る。

「アリシアは…認めたくはないですが確かに強敵です」

 スピカの難しい顔を見て、精霊は敵の強さを再確認した。

「いくら精霊様の力添えがあろうと、倒すのは至難の業でしょう」

「それに、全盛期の師匠もいます」

『せおどあ……』

 彼の状態については、すでにスピカから話していた。

「だからこそ、数的有利をつくるのです」

「数的有利、ですか?」

 言っている意味がわからず、スピカは首を傾げる。

「ええ、狙うのはアリシアではなく、彼女の持つブレスレットです」

「あ!ガスパールさんですね!?」

 ようやく、モカロネの後に気づいたスピカ。思わず声を上げてしまうのも無理はない。

『がすぱーる?ああ、あのときの……』

 精霊には心当たりがあった。あの勇者にくっついていた龍もどきだ。もっとも、当時セオドア達は存在を認識していなかったのだが。

「記憶の精霊を解放し、セオドアの記憶を戻す。そうすれば、四人対一人の圧倒的有利な勝負に持ち込めます」

 モカロネは、精霊とスピカを交互に見ながら言った。

「まずは、二人を分断します。次に、私の秘策を発動します」

「ひ、秘策!?」

 好奇心をくすぐる言葉にワクワクするスピカ。彼女は少年ごころを持ち合わせていた。

「テレポートの応用です――互いの位置を入れ替える」

「えっ、モカロネさん相手の位置を入れ替えられるんですか!?」

「できますよ、連続でなければ」

「はえぇ」

 この聖女は引き出しが多すぎる、と思わなくもなかったスピカだったが、今は感謝するにとどめた。

『つまり、わたしのやくめはおいこみとめくらまし……ですね』

 見た目に合わず、冷静に答える精霊。

「察しが良くて助かります」

 モカロネは満足そうに頷くと、まとめにかかる。

「私達がセオドアとアリシアを指定の位置に追い込んだ後、精霊の合図で2人の位置を入れ替えます」

「はい」

「入れ替わり後、彼女の目に太陽光が当たるように木枝の調整をお願いします」

『わかりました』

「スピカは隙をついてブレスレットを狙ってください」

「ということは…私は最初師匠を追えばいいんですね!」

「そのとおり、いいですか、万が一失敗した場合――」



「さてさて、私の相手は…」

 久方の戦闘に思わず笑みが浮かんだアリシアだが、予想に反し根の大部分はセオドアを追っていく。付随して、スピカも誘導するようにセオドアに向かっていった。

「あれ、私じゃないの……?」

「ずいぶんと冷静ですね……」

 口ではそう言いつつ、少しも動揺した様子のないアリシアに、モカロネは訝しげな視線を送る。しかし、彼女の返答はあっけらかんとしたものだった。

「だってこれは彼とのデートだもん」

「……」

 モカロネは無言で杖を向けた。

「ふふ、まずは小手調べかな」

 同様にアリシアも軽く杖を構えた。


 一方、セオドアは迫り来る根を避けながら、スピカを観察していた。

「君はずいぶんと若いが、なぜ俺たちを付け狙うんだ」

 スピカは目を丸くしたが、予想はつく。記憶がないことをいいことに、あることないこと吹き込まれたのだろう。

「……私達は悪者扱いなんですね」

「違うのか?」

 位置についたことを確認し、スピカは急加速する。

「ええ、違います……よっ!」

 セオドアに剣を振るうスピカ。

 作戦を遂行するためにも、とりあえず若返った師匠の力量を確かめなければならない。

「……言っていることとやっていることが違うな」

 スピカの鋭い踏み込みから繰り出される一撃。しかし、セオドアはまるで分かっていたかのように、軽く躱す。そして、踏み込みでバランスの崩れた彼女の胴に剣を振り下ろす。

「っぶな!?」

「ほう?」

 ギリギリで剣を間に合わせたスピカだったが、勢いに負け距離を取らされる。

「やっぱり強い……」

『いちにつきましたね』

 つい夢中になりかけるスピカだったが、根を通した精霊の声にはっとする。

「そ、そうでした!」

『いま、わすれかけていませんでしたか……?』

「そ、そんなことないです!」

「誰と話している……?」

 何やら企んでいるようだが、それでもセオドアのやることは変わらない。それに、彼女の実力ならばいくらでも対応可能だ。

「いきます!」

 あくまで余裕を崩さないセオドアに、スピカは高速で接近した。

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