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第五十話

 激しい近接線を繰り広げるセオドア達に対し、アトレイアと魔術特化の魔王は高速で魔術を打ち消し合っていた。

 魔術師の戦い方は、近接戦に比べるといくらか地味だ。しかし、その脳内は、相手の魔力量、技量、精神的な強さを常にはかりにかけ、それらすべてが相手の策略であることも踏まえて自身の魔術を繰り出すという、高度な計算を大量に処理していた。


 アトレイアも、魔王が持つ勇者一行全員を手玉に取るほどの狡猾さ、そして、これまでの戦いから大体の魔力量と技術を計算し終えていた。威力を誤魔化していないとすると、勝負は見えているが、隠しているのはお互い様。

 その上で、勝負は最後の一撃をどう打つか。それがすべてであると分かっていた。なぜなら、互いに出す魔術は魔力や手の動きから分かっていたからだ。


 この勝負、いかに意表をつくかが鍵である。

 アトレイアは、額に汗を浮かべながらも魔王の繰り出す様々な魔術に、即座に対応していた。

「なんともやりづらいな……」

 魔王は心の中で舌を巻く。いくら才能あふれる魔術師とはいえ、自身の魔術速度についてこられるとはさすがに予想外だ。スピカというあの小娘を除けば、魔王の唯一と言っていい動揺が、内心渦巻いていた。それでも、魔王が表情に出すことはない。魔術師の戦いでは、本心の開示が最も弱点になり得ると、経験上知っていた。だからこそ、切り札の使いどころが肝要だ。

 二人は言葉を交わすことはなかったが、その思考は見事に一致していた。



「まずい……」

 俺は焦っていた。

 薬の効果が切れるまで、もう時間がない。アトレイアもライアンも余裕はないし、スピカはもう限界だ。それに、モカロネはとうに限界を超え、顔がいつも以上に白い。

 とはいえこの均衡が崩せないからこそ、この状況だ。俺がなんとかしないといけない。なぜなら、俺は”勇者”なのだから。俺にしか、できないのだから。

 魔王は、簡単に隙を見せるほど甘くない。こちらも、相応のリスクを取らなくては。考えを行動に移すべく、俺は最後の戦いに挑んだ。



 そろそろ時間が切れてもおかしくないのだがな。魔王は、内心で独りごちる。聖女は見るからにやせ我慢の域に入っているし、他の奴らも皆動揺が目に見えている。勇者の膝は正確な時間こそわからないものの、余裕のなさからしてそう長くはないだろう。だが、魔王は考える。

――目が死んでいない。

 用心して、かつ虎視眈々と狙いをつけたそのときだった。

「あ」

 漏れたような勇者の一言とともに、奴の魔力が一気に萎れていった。

「きれたな」

 魔王はそう言いつつも、身構えた。案の定、勇者はそれでも正面から向かってきた。

「ほら、言えよ!『勇者の”俺”が倒すんだ』だろうッ!」

 煽った魔王の後ろからは、同時にライアンが仕掛けてくる。

 魔王は、どちらも視界に入れるよう体を半開きにして構えた。

 しかし、剣を振るう瞬間。

 勇者は笑って答えた。


「――もう俺は勇者じゃない」

「は?」

 そう言いつつ、魔王はライアンを蹴散らす。

 そのとき、背後を狙うスピカの存在に気づいた。

 いや、おかしい。セオドアはまだ死んでいない。だから、勇者の証は移動しない!だが、なぜ勇者は魔力を抜いて……もしや本当にあの小娘へと移ったのか?

「……」

 それは、セオドアの言葉だけではない。この戦いを通し、ずっと成長を続けたスピカという娘、なぜか勇者に似ているこの女だからこそ感じた脅威。

「このッ!」

「きゃあっ」

 スピカを吹き飛ばした後の、魔王のわずかな油断ともとれる硬直。誰しもが待ち望んでいた唯一の好機。

「はああああっ!」

 世紀のはったりをかましたセオドアは、隠していた最後の魔力を込めて魔王の懐に剣を突き刺した。

「ガアアアアアア!」

 セオドアの渾身の一撃に魔王は打ち倒され――なかった。


「なあ」

 刺さった剣のすぐそばから魔王の心臓の鼓動を感じたセオドア。心臓をずらされたようだ。

「”勇者”とは……かくも呪いだよなぁ」

 魔王ヴァネールは、ゆっくりと剣を引き抜く。

「どいつもこいつも、この言葉に惑わされ、狂わされ、踊らされる――本当は、人助けをするような性格じゃないんだろう?」

「ッ!?」

 それは、セオドアがこの二十年間で散々思い知らされてきたことだ。

「これが祝言とは笑わせる」

 魔王は、勇者の右膝を蹴り抜いた。

「があああああ!?」

 呪いの爆弾が再びセオドアを苦しめた。


「おまえが!勇者から!逃げるわけないよなあああ!」

「ッツ、があああ!?あああああ!」

 倒れた勇者の右膝を、執拗に踏みつけた魔王は、しばらくして勇者を蹴飛ばした。

「フン……まあいい、おまえは殺さない」

 ゴミのように飛ばされた勇者を一瞥して、魔王は振り返る。

「セオドアを殺した瞬間、この中の誰かに勇者の証が移動しても面倒だからな…まあ、君はうれしいのかもしれないがな、ライアン」

 挑発されたライアンはしかし無視して絞り出すように発した。

「…立てよ、《《勇者》》」

「ライ…アン」

 そして、まっすぐセオドアを見据え、叫んだ。

「おまえが言うべきは…”俺たちで”だろうがああああ!!」

 それは、魔王が言った『勇者の”俺”が倒すんだ』への返しだ。

「減らず口がッ」

 魔王が吐き捨てた直後。

 ライアンが突如スピカの方へ走り出した。

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