表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/58

第四十八話

 何かの気配がして、魔王は瞼を開いた。

「ん?」

 それは、ライアンに付けた刻印の消失と同時。


 ――目の前に、五人の人間が突如現れたのだ。

「……ゾ」「させません」

 魔王が動く前に、聖女が領域を張る。

 闇を断絶する聖なる防壁だ。


 《ゾ・セ・アリエ》


 これで、魔王は配下を召喚できない。同時に、アトリーの魔術が戦いの開始を知らせる。


 《ゾ・ファ・アフィス》


 巨大な獄炎の球体が魔王を襲う。

「不意打ちとは……ずいぶんと卑怯じゃないか」

 魔王が咄嗟に防御しながらぼやいた。

 両端からスピカとライアン、真っ正面から勇者が迫ってくる。

「不意打ちはおまえの専売特許ではない」

 魔王は勇者の袈裟斬りをあえて軽く受け、血と自身の魔術を媒介に高等魔術を高速で行使する。波状の炎は、三人に距離を取らせた。

「チッ、相変わらず無茶苦茶ね……」

 空中に血の魔術印を描くなど、咄嗟に出来ることではない。アトレイアは、冷や汗をかいた。

「なるほど」

 魔王は、顎に手を添え考える。

 聖女は領域の維持に手一杯だ。厄介な継戦維持は出来ないだろう。引き換えにこちらも部下を召喚できないが。

「うーむ、一度に四、いや三人を相手取るのは骨が折れるな」

 魔王は、とてもそうは思えないトーンで呟き挑発する。

「寄生パーティーはさぞ楽だろう……()勇者よ」

「ああ、皆が優秀だからな」

「ふむ……もっと不仲だった印象なのだが……」

 それに、テレポートは結界で封じていたはず。ということは、原因はあの聖女のデタラメな魔術だ、と魔王は当たりをつけた。

「私の魔力……ライアン、どうした。私を倒すんじゃないのか?」

「ああ、僕はずっとそのつもりさ。使えるものは何でも使う。ずっとね」

「ふむ…暗示も機能しない、か」

 これは、手痛い幕開けだ。

 やはり、ガミジンとレラジェに私の目をつけておくべきだったか?いや、それだと勇者に存在を感知されていた。あの男、探知だけは全盛期以上だから実に厄介だ。それより、どうして勇者が戦えているのかもまだ分かっていない。

「まあ、問題はない。私の勝利に変わりはない――再演といこうか」

 魔王は召喚の魔方陣を出した。

「無駄だ、聖女の領域はどんな悪でも通さない」

「元々中にある者は召喚できるだろう?それ」

 すると、魔方陣の中からもう一人の魔王が出てくる。その代わり、もとの魔王の魔力が減った。

「つまり、分身だな」



 もとの魔王は、剣を携え俺達三人に迫る。しっかり、あの剣を構えていた。

 今度は俺達が対応する番だ。一方、分身は魔術でアトリーと戦うつもりのよう。

「分身は予想外だが、やることは変わらない――作戦開始ッ!」

  再び、ライアンとスピカが挟み撃ちの形で剣を持った方の魔王に迫る。作戦はシンプルだ。ライアンとスピカが隙を作り、本命を俺が突く。本当は、俺とライアンが魔王と正面切って戦うはずだった……のだが。


「私が魔王の注意を引きます!」

 作戦会議中、スピカがそう名乗りを上げた。

「だって、セオドアさんにしか倒せないんですよね、だったらできるだけ不意打ちの形にした方が良いです」

「いや、それはそうだが」

「それに!セオドアさんが忍めば魔王の意識が散ると思います」

「一理あるな」

 まさかのライアンも賛同してきた。

「まて、いいかスピカ、相手は魔王だ。おそらくスピカが出会った中で一番強いし、狡猾だぞ?」

「私はお守りになりにきたわけじゃないです」

「気は進まないが、やるしかないのか……」


 というわけで、俺は二人とは一定の距離をおいて全体を視野に入れていた。魔王が隙を見せた瞬間、致命的な一撃を入れるために。

「ふむ、勇者のくせして紛れるとは…なんとも情けないな」

「何とでも言うがいいさ」

 だから魔王が長期戦の構えをとったことにすぐ気づき、内心舌打ちした。もしかしたら、右膝のタイムリミットに気づかれたかもしれない。だからといって、戦い方を変えるわけにはいかない。意図を感じ取ったライアンが動いた。


 あいつがまっすぐ槍で突っ込む。魔王が左右どちらかに躱した途端、槍を一瞬で手元に呼び寄せ、避けた方向に振り払った。並の相手ならこの時点で致命傷を負わせている。だが、魔王は何年もライアンの近くにいた。俺より遙かにライアンの癖やスタイルを知っている。案の定、魔王は、慣れたようにライアンを裁いてしまう。右手に持った剣で槍を滑らせながら魔力を吸い取り、返す刀でライアンの胴を狙った魔王。かろうじて、そこにスピカが滑り込み、代わりに剣を受けた。

「おも……ぐっ!」

 しかし、膂力の差が出たかスピカはすぐに吹っ飛ばされてしまった。

「おや、よく見たら新しい仲間ができたのかい?なんとも頼りないが……ね!」

 俺は背後から奇襲を仕掛けたが、読まれていたのか直前で振り向かれてしまう。

「……後ろに目でも生えているのか?」

「そんなに勇者の薄汚いオーラを振りまいていてはな」

 振り下ろした俺の剣に、奴は正面から返しつばぜり合いとなる。

 魔王が顔を寄せ言った。

「あれは君の弟子だろう?戦い方ですぐ分かった」

「……!」

「だが……ふんっ、ライアンといい、君たちは本当に」

 魔王が続けようとした刹那、ライアンが突っ込んできた。

「相変わらず口の減らない奴めっ!」

「君こそあの牙はどうした?すっかり丸くなってしまって」

 互いに距離を取る。 

 体勢を立て直しながらも、無言で俺を見るライアン。

「ああ、頼む」 

 目配せしたライアンが吹き飛ばされたスピカの方へ向かった。

 ちゃんと伝えてくれればよいのだが。



 魔王城へ突撃する前、俺はライアンから呼び出された。

「おいセオドア、スピカの戦い方どう思う?」

「似ているな――俺に」

 スピカの戦い方は、まず相手の出方を観察し隙を突いて致命打を与える。そう、俺の戦い方にそっくりだった。ともすれば、それを模倣しているのだろう。

「だが合っていない」

 ライアンの言葉は冷たい。

「……そうだな」

 しかし、彼の言うとおりスピカは速さと鋭さが持ち味の高速アタッカーだ。だから、相手に合わせるより自身のフィールドを押しつけた方が強い。しかし、それを今の俺が指摘して良いものだろうか。彼女をさらに傷つけてしまわないか、俺は不安だった。

「フンッ、情けない。ろくに、弟子にアドバイスすらできないとは…なら僕がやってやる」

「…頼むよ」

「フンッ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ