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第四十六話

 風呂場を出た俺は、すぐさまライアンをモカロネの元に連れていった。

「モカロネ、どうだ」

「なあ」

「これは……明らかに」

 動揺を見せたモカロネに、嫌な予感は膨らんでいく。

「おい無視するんじゃない」

「どうかしたの?」

 事情を聞きつけたアトレイアも駆け寄ってきた。それを見せると、たちまち彼女も。

「ちょっと、あんたこれ……」

「いや、その前に」

「あれ?みなさんお集まりです……っ!?」

 なんだなんだと寄ってきたスピカも、この表情だ。

「スピカ、わかるか?」

「はい、どう見ても」


「ねえ、全員で見る必要があるかい?」



 モカロネは、ライアンの脇腹に刻まれた黒い跡を指差しながら結論づけた。

「これは魔王の刻印に間違いありません」

「やはりそうか……」

 俺があの時風呂で見たのはこの刻印。その後、ライアンは頑なに俺がつけた傷だと言い張ったが、どう見ても違う。

「これのせいね……」

 1人、アトレイアだけが腑に落ちたような頷きを見せる。

「なにがだ?」

 彼女は人差し指を突き立て言った。

「どうしてあの魔族が私達の居場所を知っていたのかってことよ」

「っ!?」

 スピカが驚いた表情で固まる。

「ああ、たしかに…」

 言われてみればそうだ。あの魔族達は、確実に俺たちがエルフの里へいると分かっていた。

「ま、なんにせよ原因が分かって良かったわ」

 安心したのか、柔らかな笑みをこぼすアトレイア。

「そうか、それで君は……」

 別れる間際、彼女が放った言葉を思い出す。


『気をつけるのは――外だけじゃないわ』


 彼女はただ一人内通者の存在に勘づいていたのだ。あの表情にも納得がいく。ただ、案ずる俺とは逆に、モカロネは喜色を隠さず言う。

「アトリーの言うとおり、悪いことばかりではありません。これは、チャンスです」

「何か案があるんだな?」

「ええ、とっておきが」

 どや顔のモカロネに、一抹の不安を感じた。しかし、続く彼女の言葉に俺はその疑いを撤回することとなる。


「――これで魔王城に乗り込めます」



 流石にライアンがはだけていては格好がつかない。俺達は場所を移してモカロネの話を聞いていた。

「私の力なら、魔王を奇襲できます」

「ほんとですかっ」

 スピカが元気よく反応する。それに気分を良くしたのか、モカロネはふんすっ、と小ぶりな鼻の穴を膨らませて続けた。

「ええ、ご存知のとおり私は治癒した者の居場所を追うことが出来ます」


「そうね、この間知ったばかりだけれど」

「ああ、もっと早く知っておきたかった」

「迷惑をかけられた」

 珍しくライアンまでがつっこむ。

「まあまあ、そんなに褒めないでください」

 彼女は意に返さず続ける。

「ですが、実はこれは正しくなくてですね、正確には魔力を解析しているのです」

「なるほど、治癒の過程にあるのね」

 さすが魔術師、アトレイアはすぐに気づいた。

「そうです、だからライアンの体に刻まれた魔王の魔力を解析すれば」

「直接魔王の元まで飛べる、のね」

「はい、それなら結界にも阻まれません」

「すごいすごいっ!」

 スピカではないが、これは朗報だ。一気に、決着がつく。何だか、物語の途中を飛ばしている気もするが、なにせこれはある意味二週目のようなもの。今度こそ決着をつけなければならない。

「よくやったモカロネ」

「えっへん」

「ならば、このまま魔王討伐の作戦会議をしよう」

 皆が頷く。この中では、スピカだけが魔王と戦ったことがない。整理も兼ねて、俺達は現状の魔王を報告しあうことにした。



「まずは幻惑魔術だな、アトレイアとモカロネさえかかる程の強力なものだ」

 ただし俺には効かなかった、なぜなら。

「対象の一番大切な人物に見せかける魔術ね…ほんと良い趣味してる」

「そ、そんなのどう戦えば……」

 スピカは不安そうな顔を覗かせた。それを知ってか知らずか、アトレイアが胸をたたいて言った。

「私に任せなさいっ」

 魔王に敗れたあと、悔しさのあまり大急ぎで模倣したらしい。流石、国随一の天才魔術師。

「私も幻惑魔術を使って相殺させるわ」

「……」

 しかし、それを聞いたスピカは、喜ぶどころか目を見開いて動かなくなった。

「ふふんっ、すごすぎて声も出ないのかしら?」

「は、はい……」

 何やら、様子がおかしい。

「幻術はいいとして、奴は近接も遠距離も両方いけるぞ」

 脱線しそうなところで、ライアンが話を戻した。

「その場合はアトレイアとモカロネが対処するか?」

 呟いた俺に、モカロネは真面目な顔でこう答えた。

「いえ、私はこの戦闘に参加できません」


「「「「え」」」」


 彼女の耳を疑う発言に、一同が困惑する。

「冗談、だよな?」

「いえ、私は戦場に結界を張ります」

 その発言で気付く。

「ああ、そうか。そうだよな」

「え、どういうこと?」

 アトレイア含め、皆が不思議そうな顔をした。

「魔王から敗走した時、意識を保っていたのは私とセオドアだけでしたね」

「あの時、魔王は大量の魔族を召喚していた」

「なんと……」

 遅れて気づくスピカ。

「なので、私は魔王以外が入られないよう結界を張るのです」

「ってことは私が魔術全般相手するのね……いいわ、やってやろうじゃない」

「心配しなくとも、こちらには3人も近距離がいる。こちらで圧をかければいい」

「言っておくけどねライアン、私まだアンタを許してないんだからね」

「……行動で示す」

「ふんっ、偉そうに」

「ま、まあまあお二人とも……っ、セ、セオドアさんが一番近距離で戦ったんですよね!」

 スピカの気の利いた一言リフトオフ。

「そうだな……後は、力を抜く剣も持っていた」

「力を抜く、ですか?」

「ああ、剣を交える度に魔力やふんばりを吸い取られるような感覚がしたんだ」

「避けた方が無難だな」

「ああ、そこは三人で連携し合うしかないな」

「攻撃も慎重にした方がよさそうです」

「他には――」

 その後も、俺達は些細なことでも意見を出し合い作戦を進めていった。

 これが、最後の戦いになるのだ。

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