第四十五話
死したエルフの大群を浄化していたアトレイアとモカロネ。ガミジンが姿を消して以降、新しい死体は現れない。それもあって、みるみるうちにその数を減らした。
「これで最後よね」
アトレイアが拘束したエルフの骸を、モカロネが浄化した。
「ええ、早く合流しましょう」
モカロネはここまで何十回も聖魔術を行使しているのにもかかわらず、疲弊した様子がない。すぐさま、テレポート用の魔力を練り上げる。
「そうね、何だか嫌な予感がするわ」
ガミジンがこちらにいないということはつまり、セオドア達の方へ向かったということ。
二人は、急いでセオドアたちのもとへ飛んだ。
◇
俺とスピカは、トドメを刺したライアンのもとへ駆け寄った。
「ハアッ…ハアッ…」
ついに、ライアンは限界を迎え倒れ込んでしまった。
「ライアンッ!?……グッ」
そして、俺も薬の効果時間が切れた。
再度、この薬を使うためには5分のインターバルが必要だ。
「ここは、私が」
スピカが静かに剣を構える。
「はあ……レラジェ、死んでしまったのかい?」
ガミジンに焦った様子はない。それどころか、その口元が徐々に上がっていく。
何を企んでいるのか、スピカが問いただそうとしたその時。
「セオドア!無事なの!」
アトレイアとモカロネがテレポートしてきた。
「ああ、俺よりライアンを頼む」
「ライアン……!あなたがこんなになるなんて」
モカロネが目を見開き、慌ててライアンを治療する。しかし、それを見てすらなぜかガミジンは余裕綽々だ。
「焦らないんですね!」
スピカが呼びかけると、ガミジンは気だるげに答えた。
「いやなに……君達をここまで追い込んだのが、このレラジェだろう?」
ガミジンは、ゆっくりレラジェに触れる。
「そして、はあ…僕の能力を知っているだろう?」
「まさか…」
「死体を生前以上に強化し操る…どういう意味かわかったかい?」
言い終わると同時に、死んだはずのレラジェが起き上がったではないか。
「さあ、絶望の始まりだよ」
得意げに言ったガミジンに、俺とスピカは……。
「「ぷっ…あはははっ」」
思わず笑ってしまった。
「どういうこと…?」
「とうとうおかしくなってしまったのですね」
首を傾げたアトレイアと失礼極まりないモカロネ。
「そうじゃなくってですね」
スピカは軽やかに剣を構える。
期待とは異なる反応に、怪訝そうな顔を見せるガミジン。
「……おいおい勇者と槍使いを苦しめたレラジェだよ?君なんかが相手になるはずが」
「――はい、もう斬りました」
言い終わらないうちに、レラジェを細切れにしたスピカ。
「どうして……!?」
絶句するガミジン。
「だって――この魔族の一番強いところは戦略性ですよ?ただ身体能力が強化しただけなら私だって勝てます」
「えぇ」
「それに、こちらには聖女様がついているんです」
スピカが振り向くと、傷口の塞がったライアンが槍を構えていた。
「その眠たい頭でもっと考えるんだったな」
「はあ……めんどくさ」
ろくに抵抗も出来ず、ライアンの一振りでガジミンは死んだ。
◇
「作戦って、ライアンさんがトドメを刺すって事だったんですか?」
倒してまもなく、全員で村に戻る。
怪我人を解放しながら、スピカが不思議そうに呟いた。
「いやいや、裏の裏って意味だ」
倒れたエルフに肩を貸しながら、俺は昔を懐かしむ。
「裏の裏?……結局表では?」
「小賢しい相手に使う作戦だ。ライアンに注目させて、俺が本命とみせかけて、本当にライアンが本命っていう」
「ふええ」
「まあ、槍については相手にバレていたがな」
ライアンが鼻を鳴らして言った。
「それは、目の前の槍を消えたからな、突然視界にある武器が消えたら否が応でも警戒するさ」
「ふむ……良い作戦だと思ったのだが」
実はこの作戦、前行った時も上手くいかなかったのだ。あの時も結局なんとかなったが、失敗した作戦にこだわるのも、ライアンらしい。
「回りくどいのよ」
アトレイアがため息をつきながら言う。
「ですね」
したり顔で頷くモカロネ。絶対にわかっていないだろう。
「なんだと……っ」
怪我人を一通り介抱し終え、帰路につく最中、ふとアトレイアが言った。
「それより、あなた何があったの?」
ライアンは眉を顰める。
「何がとは何だ」
「すごいスッキリした顔して何がはないわよ、ねえ?モカ」
「アトリー、そういうのは野暮ですよ」
「あなたが気遣うなんて……っ!」
◇
長老から紹介された風呂に向かってみると、ライアンがすでに入浴していた。
「「……」」
当然互いに無言だったが、それでも空気は軽い気がした。
「僕は……謝らないぞ」
「え」
突然、明後日の方を向いたライアンが言った。そうか、そうだったな。魔王を倒してから急にこいつはおかしくなったが、元々このような性格だった。何だかそれがおかしくて、俺は言ってしまう。
「俺にはある」
「ッ!?……言ってみろ」
まさかあるとは思っていなかったのか、ライアンは驚きと警戒心のないまぜになった絶妙な表情で聞き返した。
「昔、ライアンが楽しみにとっておいた酒あっただろう?」
「……ああ、なぜか次の日になくなっていたが」
「あれ三人で飲んじゃった」
「はああああ!?」
あんなにも後生大事に隠していた酒だ。アトレイアが味見だけと言いつつ止まらなくなり、それを見た俺とモカロネもつい。
「ッ!もういい、出る!」
不貞腐れたライアンが立ち上がり風呂場を出ていくその時、俺はある部位に目が離せなくなった。
「おい……これって……っ」
それは彼の右脇腹、ひどく黒ずみ痛々しい様子だった。ライアンは、俺の視線に気付きぼやいた。
「ああこれか……傷跡があるんだがどこでついたのか覚えていなくてね」
「これが……っ?俺には――刻印に見える」
状況が大きく変わる、なせがそう感じた。




