第三十五話
二つの魔力がぶつかり合い、二人がかき消える。
この勇者化がいつまで続くか分からないからあまり時間はない。
「ふむ、想定外だが……まあいいか。かかってこい、勝負になればな?」
余裕綽々の魔王めがけ、勢いよく駆け出す。
「――!」
一歩を踏み出した。世界を置き去りにするかと思うくらい疾く。一瞬で距離を詰め潜り込みながらしゃがみ込み、溜めていた力を放つように切り上げる。
「ッ!?」
つばぜり合いになれば、また魔力を吸い取られてしまう。速さに集中して俺は剣を振った。一度、二度、三度……振って振って振って振って振って振って振って。
「グァッ!?」
一撃の威力はなくとも回数が重なればそれは大きな攻撃となる。魔力がなければただの人である勇者なぞもはや眼中になかった魔王は、俺のスピードに見事なまでに反応を遅らせた。苦し紛れに振り下ろした魔王の一撃を避けて魔王の銅を狙った一撃は、魔力壁を壊し突き出した奴の右手を吹き飛ばすに至る。
「ガァ……ハハッ」
斬られた魔王はしかし、狂った笑みでこちらに手首から先のない右手を向けた。銃を構えるかのように左手で右手を押さえながら差し出した切り口からは、間を置かず血の散弾が発射される。
「――!」
だが、それは精霊との戦いでもう見た。それにお前がさっき放った幻惑魔術を見て血の魔術の可能性は頭に置いている。俺は血の銃弾に当たらないようその場で身体を傾ける。魔王は射出の反動で身体を仰け反らせた。
「……」
しかし、ここで追撃は行わない。きっと、これはわざとだ。なぜなら、血を操れるということは……。
「――ッ!」
振り向きざまに、後頭部へ飛んできていた魔王の右手を切り刻んだ。
「さすが勇者様」
おどけて笑う魔王は、テレポートで既に距離を取り終えた後だ。
「ペッ……、しかし凄まじい力だな、是非とも欲しいところだ」
欲しい?まあいい。
「お前を全力で倒す」
魔力の巡りを激化させ。
「やれやれ、ではこれはどうかn――!?」
魔術師との戦いにおいての鉄則。
「距離を取らせない!」
「ガッ!」
一瞬で肉薄し、魔王を蹴り飛ばす。 魔王は勢いで空中に浮かび上がる。
「くっ、これは……どうだ!」
魔王は、自分に向けて魔術を行った。
「ッ……?」
不味いと思ったが特に変化は無い。棒立ちの魔王に向けて剣撃を飛ばした。
「グウ!?、ハアッ……ッ、ハアッ……ッ、な、なぜ…いや!まさか、対価が変わって……」
その後、どれだけ距離を取ろうと駆け寄り魔術を練る時間すら与えない。やがて、俺は魔王を一手ずつ追い詰める。
「クッ……グァァァアア!」
「フッ」
そして、魔王の片足も切り飛ばし奴を地に着けた。
「終わりだ、魔王」
「ハァ…ハアッ……ッ」
ゆっくりと近づく。奴に現実を突きつけるように。とは言っても、俺の魔力は残り少ない。もうこれが最後の攻撃になる。悪あがきが出来ないよう、最速の一撃で。
「事が大きくなる前で良かった」
「マテ……」
「これで俺の役割も、やっと」
腰を落とし、剣の先を目標に定めて。
「まっ、待ってくれもう少しで――」
「終わりだ」
――俺の剣が魔王の心臓を貫いた。その時。
「待っていたッッ!!この時をッ!」
鼓膜を揺らす誰かの声。だが、その言葉は端から血を流す魔王の口からではなく――心臓から飛び出した手のひらサイズの悪魔のよって発せられた言葉で。勝利を確信した笑みで俺の胸にブレスレットを触れさせた。
「何をして……ウッ!?」
「私の勝ちだッ!」
刹那、急激に力が抜ける感覚を覚える。立っていられない……ッ!?
『――セオドアッ!?』
何もない空間からガスパールが現れたが、何やら様子がおかしい。
「ガスパール!!」
『やべえッ!吸い込まれる』
「なんだって!?」
ガスパールは光の粒子と混ざり合いながら、どこかへ引っ張られていく。だが、その疑問を発する前に、ガスパールの声はどんどん遠のき、目が眩むほどの強い光と共にブレスレットへと。
『アアアァァァ!!』
「ガスパールが…吸い込まれた……ッ!」
光が収束し、残ったのは全盛期を失った俺――勇者化はもう使えない。
「ハアッ…ハアッ…」
勇者化を奪われ、意識も失いかける俺の目の前で。輝くブレスレットを持ちながら、魔王は笑う。
「ハッ、ハハッ、ハハハッ!コレだ!コレを待っていたのだ!」
興奮した魔王が見つめるは、中にいるであろうガスパール。
「さあ……の精霊よ!私との…を…くれ…” ……ア”!」
ガスパールの声の代わりに、激しい光が魔王を包み込んだ。
「アアアァァァ!!!力が漲るッ!」
圧倒的な魔力の波動に吹き飛ばされた俺達を、奴は悦に浸って見回す。
「この景色ッ!私が長年求めていた光景だ!素晴らしいッ!」
魔王は、両手を広げ、天を仰ぎながら言った。
「ああ勇者、どうか私の話を聞いておくれ――なに、おひねりはいらないよ?私が語りたいだけなのだから」




