第三十話
「グッッ!!」
ライアンに集中したいが、どこから来るか分からない攻撃がそれを阻む。本当に厄介だ、この不可視な攻撃は……。
今一威力が込められていないのは気になるが、ライアンの狙いは分かっている。きっと、不可視の攻撃で俺の体勢を崩し、その隙に致命打を与えたいのだろう。
それに、今回はノータイム槍投げ戦法を使ってこない。地下道のような一本道とは違い、動ける範囲が広いためだ。つまり、俺にとって唯一の勝機は、一発でいいから不可視の攻撃を完璧に躱すこと……!
それなら、油断したライアンに一撃を入れられる。
だが、残された魔力的に時間はあまり残されていないようだ。
何か方法はないだろうか。
「ハアッ……ッ、ハアッ……ッ」
『おい、セオドア』
そんな時に、ガスパールが話しかけてきた。
”なんだガスパール……ッ”
『さっきはああ言ったが、やっぱりおまえがここに来た理由考えてみろよ。今なら――変えられるぜ』
”どういうことだ…?”
『いいからほらっ!――セオドアは何のために戦っているんだ?』
「俺が、戦う理由は……真実を知りたいからで」
言われるがまま、ガスパールの質問に答える。
『何のために?』
「それは…スピカと…」
――今度こそっ、一緒に旅をしましょう!
『そうだ――それがお前の願い』
「これが、俺の……」
「おい偽者ッ!ぼおっとしている暇はあるのかいッ!」
ライアンの熾烈な攻撃に耐え、不可視の攻撃に苦しみながら、それでも彼女との思い出が溢れてくる。
『今一度問うぜ?お前の願いはなんだ?』
「俺は、あの子と……」
少しおてんばで、真っ直ぐで、こんな俺を師匠と慕ってくれる……茶髪で、ポニーテールの……。
「入浴です」「わあ、勇者様と同じ名前なんですね!」「また…きてくださいね」「ええ、私は皆に育てられました。だから絶対この村を守るんです!」「本当は助けたかったんじゃないですか」「たす、けて…っ」「もう、かなわないですよ――師匠には」「これが都会……!」「いいえ、違います。セオドアさんだから、人を助けるんです。そこに勇者は関係ないです」「師匠ですよ――ずっと」
「師匠っ!」
――おかしい。
「初めまして、私の名前は■■■ですっ!」
――名前が思い出せない。
◇
セオドアの様子がおかしい。先程から動きに精細を欠いている。まさかバテたわけではないだろう。だが、これは好機だとライアンは判断した。アトレイアと目を合わせる。
「アトレイア、頼む!隙を作ってくれ!」
「ええ!分かってるわ!」
ライアンが、今度こそ仕留めようとアトレイアの魔術に時間差を加えて突撃した時だった。
「――アトレイア?」
勇者がそう呟いた。
「何だとッ!?」
「え……」
アトレイアの攻撃を認識した勇者は、ギリギリで魔術を躱し槍を避ける。逆に、隙を突かれたライアンは勇者のカウンターを見事にもらった。
「ゴフッ!?」
◇
ライアンに袈裟斬りを食らわせたと直後。
「くっ、まずい……」
魔力量は限界を迎え《勇者化》が解けた。
そして、ようやく理解した不可視の正体。
「君だったのか……アトレイア」
「……ッ!」
アトレイアの瞳が揺れた。
同時に、急激に老いる身体。当然右膝の痛みも蘇る。立っていられず、俺は座り込む。
「アトレイア……」
「な、何してるんだぁ!アトレイア!早くとどめをッ!」
ライアンも、致命傷には至らなかったが、しばらく立てないようだ。必死にアトレイアを急かす。
「わ、分かってる!でも……」
焦った顔でこちらに手を向けるアトレイア。
その顔は、あの時の冷めた表情とは似ても似つかない。
その時、俺は確信した。
――そうか…彼女に嫌われたわけではなかったんだな…。
死にかけているというのに、俺の心はすっと落ち着いた。
「アトレイア」
「どうして……ッ」
「久しぶりに会えた……」
「ありえない……そんなはずが……っ」
「会えて――良かった」
「……ッ!」
俯いてしまったアトレイア。
「どうしたアトレイア!早くトドメを!」
「ごめんなさいライアン、私には……ライアン?」
アトレイアが、ライアンの方を勢いよく振り返る。
「そ、そんなわけないだろうアトレイア、僕だよ!セオドアさ!」
「?何言ってるのあなた、セオドアはそこにいるじゃない!」
どうやら、アトレイアに掛かっていた幻惑魔術は解けたようだ。
「チッ……もういい、僕がやるッ!」
いつの間にか描いていたのか、ライアンが伸ばした手の先には魔術の陣が展開していた。
「くそっ」
慌てて立ち上がろうとするが、
「ぐっ」
右膝が痛んで上手く立ち上がれない。
「死ねぇぇぇぇ」
ライアンが行使した魔術が、無防備の俺に直撃するその時。
――俺を透明な壁が覆った。
「そこまで~」
状況に見合わない、間延びした声が広間に響く。
「この声は……」
忌々しそうに睨むライアンの視線の先には。
勇者一行最後の一人。
あらゆる聖魔術を使いこなすヒーラー、聖女モカロネその人だった。




