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第二十九話

 息を潜めながら、二人の会話を聞いていると。

「どういうことだ?」

 先程から、アトレイアの様子がおかしい。

 なぜか、ライアンを俺と勘違いしているのだ。

『……ははーん、読めてきたぜ?カラクリがよぉ』

 一方、ガスパールは得心が行ったように何度も頷いた。

「なにが?」

『だから、おめえの過去には不自然な部分があっただろ?』

「不自然ってなんだ」

『ほら、あの日姫さんが急にキレ散らかしたって話だよ』

「あ」

 言われて気付く。あの時、俺にゴミのようなまなざしを向けてきた訳。それは。

「まさか……あの時も」

『そういうこったろうな。きっと、お前の姿で嫌われるようなことでもしたんだろ』

「今すぐ行って」

『まあ、ちょっと待てや』

「……おい離れろ」

 顔に張り付いてきたガスパールを、無理やり剥がす。

『その前に、あいつがお前の姿になった目的を調べた方が良いぜ』

「それは……そうだな」

 確かにその通りだ。そうして、しばらくの間話を聞いていると何やら予想外の方向へ話が進んでいく。

「王家の秘宝……」

『……』

 しかし、アトレイアがブレスレットを取り出した瞬間。

『おい、今すぐ行ってきたほうがいい』

 差し迫った表情でガスパールがそう呟いた。

「何か分かったのか?」

『分かったから急かしてんだよ!後で説明するから早く言ってこい!』

「……わかった」

 釈然としないまま、俺はあいつらに向かって飛び出したのだった。



 俺の問いかけに、ライアンはこう答える。

「やっときたな――偽物」

 どの口が、と言い返す直前、脳がけたたましく警鐘を鳴らした。

「ッ!」


《勇者化――全身》


 半ば無意識に勇者化した瞬間。

 槍が俺を射貫かんと飛んできた。

『おいおい、マジかよ……』

「騙されるな■■■■■!こいつは偽物だ!ボクと一緒に戦ってくれ!」

 明後日の方向を向いたライアンが誰かにそう告げるのだった。



 槍を放ったセオドアが、振り返りながら呼びかける。

「騙されるなアトレイア!こいつは偽物だッ!」

「えっ、えッ!?」

 アトレイアは先程から惑わされっぱなしであった。いきなり現れたもう一人のセオドアは、年の経過を感じさせる佇まい。けれど、よくよく考えてみればそちらの方が自然なはず。かと思えば、今まで話していたセオドアが偽者だと言って戦い始めてしまった。しかも、新しいセオドアもなぜか若返り応戦しているではないか。

 正直、訳が分からない。

「どういうこと……?」

 立ち尽くすアトレイアだったが、ここで彼女の頭に名案が浮かぶ――そうだ、本物を見分けるなら彼と私しか知らないことを言えば良い。

 彼女は声を張り上げた。

「覚えているわよね!あの日の誓いのこと――二人で何を約束したかを!」


『私たち、強くなって……いつかみんなを見返しましょっ!』


 本物の彼なら覚えているはずだ。信じたアトレイアに対し、二人の反応は。


「……」

「……?」


「え」

 一人は頭にハテナを浮かべ、もう一人に至っては完全に無視だ。

「あいつは魔族の生き残りで、勇者に化けているんだ!アトレイア!僕と一緒に戦ってくれ!」

 挙げ句の果てに、無かったことにされてしまう。


 …これ二人とも偽者なのでは?

「……つ」

 恥ずかしさで泣きたい気持ちを何とか抑える。そうだ、私はシストニア王国王女、アトレイアだ。

 気持ちを切り替え、激しい戦いを繰り広げる二人のセオドアを観察していると、新しく来たセオドアの肩に……なんかいた。

「なにあれ……?」

 視線に気付いたのか、小さな龍の姿をした生き物と目が合う。

『ヒエッ』

 だけど、すぐ隠れてしまった。

「……怪しい。きっと、あいつが何かしているのね」

 アトレイアは、龍を連れた方のセオドアに杖を向けた。



「あいつは魔族の生き残りで、勇者に化けているんだ!■■■■■!僕と一緒に戦ってくれ!」

 ライアンが明後日の方を向いて、何か訴えている。誰に向かって言るのか、さっぱり分からないがもっと分からないのは。


――俺が何のために戦っているのか、だ。


 魔王城に来たのは目的があったはず。たしか、ライアンに呼び出されたからなのは覚えているんだが……。

『おいセオドア、今は何も考えずに戦った方が良い』

 そう言うガスパールは何か知っていそうだ。教えてもらおうとした矢先。

『ヒエッ』

 ガスパールは怯えたように、縮こまった。

”どうした?”

『いや、なんでもねえ…言っても分からねえからな』

 中々に気になることを言ってくれるが、

「ハアッ!」

 ライアンの突きを躱すのに苦労して会話に集中できない。

 その時だった。

『おいセオドア右ッ!』

 ガスパールが叫んだ。右?右には誰も……。

「ガハッ!」

 ()()()()()()()()横腹に強烈な一撃が入る。俺はもろに食らい吹き飛ばされた。

「??!?」

 何が起こった!?状況が分からない。

「ハッ、やっぱりな。君、見えてないんだろ!」

 ライアンが駆けてきて、考える隙も無い。

 俺はライアンの動きを注視するが、あいつの挙動に不審な点はない。

「ぐあっ!」

 なのに、不可視の攻撃が今度は背後から襲ってきた。不味いっ!つんのめった身体そのままに。

「フッ」

 直後に来たライアンの突きを、倒れ込むようにして躱した。

「チッ」

「ハアッ……ッ、ハアッ……ッ」

 これは非常にまずい。当たるまで気配すら感じられない攻撃など生まれて初めてだ。冷や汗が止まらない。

”ガスパール、聞こえるか?”

『おお、やばそうだな』

”ああ、だがお前にはあの攻撃見えているのだろう?何とか教えてくれないか?”

 最初の攻撃を、ガスパールは見事に予見していた。俺だけが見えないということは、幻惑魔術か何かにかかっているのだろうか。それすらも分からない。

『わーったよ、やってやるぜ』

 再びライアンが突っ込んでくる。

『くるぞ!右ッ、あ、今の位置で言うと左か……今度は上だっ、じゃなくて正面っ……てこれ追尾弾かー!』

”つまりなんだ!?”

「グッ!」

 避けきれず被弾した。だが、それでもライアンの追撃だけは何としてでも避ける。

”……視覚共有とか出来ないのか?”

『そんな便利な能力あるわけねえだろ!』

 味覚は共有しているのに……何か対策を考えなければ。

 依然、俺の劣勢は変わりなかった。



『このままじゃセオドアがやられちまうぞ……』

 接敵するは槍の英雄。それに、国随一の魔術師はセオドアだけの透明人間になった。

 いつ倒されてもおかしくないセオドアだが、辛うじて持ち持ち堪えているのは。

「アトレイア、もっと強く撃ってくれ!」

 王女が本気を出せていないおかげだろう。

「分かってる……ッ!だけど、やっぱりどうしても彼の姿だと威力が……なんて卑怯なの!」

 どれだけ、王女が話してもセオドアには届かない。

『俺様が何とかしねえと……』

 ガスパールは一か八かの賭に出る。

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