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第二十七話

「ハアッ!」

 遠距離からあの槍マシンガンをどうにかする方法はない。飛ぶ斬撃は、距離が伸びるほど魔力を食うし、威力が落ちるから効率的ではない。俺に出来ることは、ギリギリまで近づき槍の特性を殺すのみだ。ジグザグに高速移動し、フェイントを織り交ぜながら何とか槍の連続砲弾を避け、少しづつ前に進む。

「チッ、ゴキブリめ」

 そして、ついに剣の間合いへ辿り着いた。そう簡単に懐へ入れさせてくれないが、俺はこいつと旅をしてきたんだ。癖の一つや二つ知っている。

「このっ…うっとうしい!」

 たとえば、ライアンは横に槍を振り払った後ほんの僅かに硬直する癖とか。わざと槍を横に振らせて低姿勢から這うように近づき、右手で持った剣を振り上げる。

「グッ」

 右脇腹を狙ったはずだが、奴がギリギリで後ろに跳んだことでクリティカルとはいかない。さらに、着地と同時に召喚した槍で突いてくる。

「セオドアァァアアア!」

 突き出された槍が俺の剣を弾き飛ばし、両手が空いた。

「……」

 しかし、俺は剣を無視しつつライアンの懐に潜り込み、伸ばしきった腕を抱え込む。相手の勢いを利用しながら、自身の側に引き込んだ。そのまま、背負って肩越しに投げる。極東のマスター直伝、背負い投げだ。

「小癪なッ」

 ライアンも、投げられるままでは終わらない。投げ飛ばされながらも槍を呼び寄せ、逆さ姿勢のまま振り下ろした。

「ッツ!」

 下から上に振り上げられた槍は、俺の肩を切り裂いた。だが、流石に反撃で手一杯だったのだろう、ライアンも受け身が取れない。

「カハッ」

 背中を打ち付けたライアンと肩を斬られた俺は双方すぐ立ち上がったものの、どちらも動かない。しばし、空白の時間が生まれた。


「――うるさいッ!そんなことは分かっているッ!」


 突然、ライアンがどこかに向かって叫ぶ。

「……?誰に言っているんだ?」

 誰と口論している……?ここにはガスパール含めて俺以外いないはずだ。

「なぜ、ボクが……っ」

 だが、ライアンは俺の疑問には答えず睨み合う。

「まあいい、気は済んだ」

 槍を突然下ろしたかと思えば。

「アトレイアに会いたいのならここへ来い」

「アトレイア?誰だそれは」

「はあ、面倒だ――君、今どうして戦っているか分かっていないな?」

 こいつ、何を言って……俺が戦っているのは――あれ?

「フッ、せいぜいそこで無意味に考えているといい」

 言いたいことだけ言って、ライアンは背を向け歩き出してしまう。

「おい、どこに行ッ!?」

 追いかけようとした瞬間、顔の横を槍が通り過ぎる。カランッと言う音がして、振り返ると消えた槍の代わりにある魔道具が落ちていた。おそらく、槍に引っかけてこちらに飛ばしたのだろう。

「なんだったんだ……いない」

 既に、ライアンの姿はない。それを拾ってみる。これは……。

「簡易テレポート?」

 あらかじめ設定した座標にテレポート出来る魔道具だ。この道具に魔力を込めれば、次の瞬間には設定された座標に飛ぶことが出来る。一体どこと繋がっているのか。すぐに調べようとはせず、しばし考えているとガスパールが戻ってきた。

『……おい、王女様の居場所分かったぞ』

「場所?誰のだ」

『あ?お前が探して来いって……ああ、対価ね、めんどくっせ、誰が作ったんだよこの仕様ッ』



「はぁ」

 宿に戻り勇者化を解いた俺は、ベッドで落ち込んでいた。

『な?もういいじゃねえか…あの手紙渡せなかったのは悪かったけどよぉ』

 そうなのだ、この精霊アトレイアを見ただけでそのまま帰ってきたという。何より……。

「記憶の喪失がここまで厄介だとは……」

 ライアンとの戦闘が始まってから、まるでアトレイアを認識できなかった。

『んな落ち込んだって仕方ねえよ、あの女のことなんてもう忘れちまえ、なっ?』

 ニヤつきながら、耳元でしきりに忘れさせようと囁いてくるガスパール。

「なぜ嬉しそうなんだ……そういうわけにはいかない」

『でも、あの女王様に会う方法がねえんじゃ……』

「まだ王女だよ…それに関してはこれに賭けるしか…」

 俺が嵌めていた指輪をとってガスパールに見せると。

『それは…なんだ…?』

 一気に冷めたように目を丸め、動きを止めた。

「ライアンが投げてきたんだ…たぶん、設定した座標にテレポート出来る魔道具だ」

『う、嘘だろッ!?』

 愕然とした表情でガスパールは狼狽えた。

 俺は、手に持った指輪型の魔道具を填めた。

『で、でもよっ!そいつは絶対罠だぜ?明らかすぎる』

 ここまで狼狽えるガスパールは珍しい。

『それに!契約を解消しちまえば俺様とは別れちまうんだぜ?良いのかよ!』

「逆に惜しまれると思っていたのか……うそだ、そんな顔するな…なぜ、おまえはそこまで契約にこだわるんだ?」

 俺は、今一この精霊の目的がわからなかった。

『そりゃあお前、契約は精霊の存在意義だろうが』

「じゃあガスパールは何かしたいことはないのか?アップルパイをたらふく食べたいとか」

『契約がなけりゃ、味覚共有できねえんだよ』

「そ、そうか……それは悪い」

 不貞腐れたガスパールだったが、ふと空中でとぐろを巻いた。

『俺様の…やりたいこと…』


――君をここから出してあげる。


『ああ、俺様は……』

 小さな龍の姿をした精霊は、やがて言う。 

『俺様は――解放されたい』

「解放?俺からの……ってわけじゃないよな?」

『おまえからだよ……ってうそうそ、さっきの仕返しだッ…悪かったよ、もっと根本的な話さ』


『俺様はな――消えたいんだ』


 そう言ったガスパールは。無機質な龍の顔をしているのに、何故かひどく寂しそうに見えた。



 セオドアとの戦闘後、自宅の姿見に映った自身を見てライアンは驚いた。脇腹に黒いアザのようなものがあったからだ。

「ッ!この傷は……ッ!」

『きっと、勇者につけられたのさ』

 禍々しく、不気味な声で答えたのはライアンの肩に乗っている黒い悪魔。

「勇者と呼ぶなッ!あんな腐れ平民などを」

『大丈夫、全ては上手くいくさ……種は蒔いたのだから』

「ああ、分かっている……!」

 金髪の槍使いは、憎悪に包まれた目で鏡を睨んだ。

「待っていろ……セオドアァ!」

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