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第十八話

 数日後、俺達は村に別れを告げ、クロムの町にいた。

「わああ!」

 目を輝かせているスピカは完全にお上りさんそのもの。スピカが村を離れることについて聞くと、精霊が守ってくれるとのことらしい。

「し、師匠……こんなにたくさん人が……!」

「足を止めると邪魔になるぞ?」

「あ、すいませんっ」

 都会ほど、人の流れがはっきりしているものもない。つっかえては怒られてしまうので、止まりがちなスピカを促して歩かせる。ただ進めば進むで……。

「師匠、あれ何ですか!」

 カラフルな店に目を奪われたスピカ。

「ケーキ屋じゃないか?」

「ええぇ……!」

 感嘆する彼女の目は、それはもう輝いていた。

「じゃああれはっ?」

「冒険者ギルドだな」

「ギルド!?」

 その後も、幼子のような質問は続いていく。

「あれは!?」

「宿屋だな」

「あれは!」

「教会だな」

「あれは!!」

「町の掲示板だな」

 どこかデジャビュのような感覚を覚えながら、一つ一つ紹介していく。

「これが都会……!」

 静かにつぶやいたかと思うと、いきなり走って行き、非常にせわしない。

「元気だ……」

 興奮しっぱなしのスピカをなんとか宥め、俺たちは宿屋に向かった。

 


「師匠。これからどうするんですかっ」

 宿屋でこれからのことを話し合う。

「金を稼ぐ、だな」

「お金ですか?」

「まさか……いや、いいかスピカ?ここでは物々交換をあまりしない」

「さ、さすがにそれくらい知ってますよっ」

「よし、じゃあその綺麗な石をしまってくれ」

「これがお金ではない……っ?」

 スピカは、驚いた表情でそれをしまった。

「しばらくここで過ごすからな、ここは手っ取り早く冒険者ギルドに行くか」

「冒険者!絵本で見たことあります!」

「それなら良かった、じゃあスピカの登録を済ませに行こう」

 立ち上がった俺につられ、彼女も腰を上げた。

「師匠はもう登録してるんですか?」

「昔していたが今は無理だな、俺はお尋ね者だ」

「ああ、だから街に入る時一回別れたんですね」

 まともな方法で俺が街に入ることはできない。まあ、ここは大きい町だしそうそうばれやしないだろう。

 それはさておき、たどり着いた冒険者ギルドは、町から出やすいよう門を過ぎてすぐ傍にあった。少し表情の硬いスピカに思わず微笑み戸を開けば。


「おい!なんで報酬こんだけなんだよ!?」「うおおおおお!魔物を狩るぜええええッ!」「それじゃ、今日と言う日にかんぱーーい!!」「このクエスト受けてみようぜ!」「全部ないなったあああああ」


 そこは喧喧諤諤たる雰囲気に包まれていた。

「変わらないな、冒険者ギルドは…」

 新たな生活の幕開けを感じつつ、俺達は中へ入っていった。扉の向こうは、町とはまた違った騒がしさに溢れている。町の賑やかさとも、闇ギルドのギラついた雰囲気とも異なる圧倒的な活力だ。ちょうど、依頼が更新されたのか様々な冒険者が掲示板に集まっていた。

「すごい…ですね……」

「すぐに慣れるさ」

 スピカを受付まで連れて行くと、これから行う魔力測定や実力試験の説明を受けた。

「それじゃ、あとは頑張れ」

「期待してくださいっ!」

 まあ、彼女なら大丈夫だろう。俺は、吸い寄せられるようにギルドを見回った。かつて勇者だった頃、路銀稼ぎに冒険者として活動したことがある。何一つ変わらない光景にノスタルジーを感じた。

 掲示板に貼られた以来に目を向ける。掲示板にはたくさんの依頼が貼られており、『迷子の犬捜索』や『薬草採取』などの簡単なクエストから、グリフォンやらサイクロプス等の『上級魔物討伐』まで様々だ。

「精霊の沈静化は……ないか」

 スピカがこなせそうな依頼を探しながら、道中で狩った魔物を売り、ギルドを出た。


 気の向くままに散策していると。

「そこのあんちゃん」

 三角錐のカップを持ったおじさんが俺を呼び止めた。

「どうだい、氷菓子は?」

「氷菓子?」

「ああ、冷たくて美味しいよ!」

 渡されたのは、乳製品を冷やして固めたものだった。氷魔術を応用して出来た魔道具で作ったお菓子らしい。

「……うまいな」

「だろ?」

 スピカにも買ってやろうか。が、すぐに溶けると聞き、今度一緒に行けば良いかと思い直す。

「しかし、この氷菓子、クセになる」

 その後もぶらついていれば、いつの間にか町が一望できるところまで来ていた。

 ベンチからの眺めは中々といったところで、この町の様子がよく分かる。

「良い街だ……」

 たくさんの人が、道を行き交い生活している町は、まるで生き物だ。子供達が走り回る様子も見え、まさに穏やかな昼下がりといった雰囲気。

「驚くほど平和だ…」

 先ほど、甘いものを食べたせいか、眠気が襲ってくる。うとうとしていたのだが、やがて意識がまどろみの中に沈んでいった。



「セオ」

 意識ははっきりしないが、誰かに呼ばれた気がする。懐かしくて、暖かい。安心するような、声。

「わたし、この旅が終わったら…」

 次第に明らかになる光景、誰の声かも分かった。アトレイアだ。ああ、そうだ――これはあの旅の…あの夜。二人だけの見張りで。

「そんなのいや、だってわたし……」

 彼女は、いつの間にか焚き火じゃなくて俺を見ていて。

『……ぅ』

 時折、ノイズが走る。

「そしたら、あなたと…」

 俺も、彼女から目を離せなくなって、それで。

『……しょうっ』

 彼女の少しひんやりした手が、俺の手の甲をなぞり、絡まって――。

「師匠っ!」

「ハッ!?」

 大きな声がして、目を覚ます。眼前には、心配そうな弟子の顔。

「あ……ああ、おはようスピカ」

「もうっ、こんなところでお昼寝なんて…もう夕方ですよ」

「なんだと?」

 辺りを見回すと、夕暮れに染まった町の景色が広がっていた。

 とても大切な夢を見た気がする。

「スピカ、夕焼けが綺麗だぞ」

「もうっ、またごまかしてっ!知らないですからね、夜寝られなくなった……って、たしかに綺麗ですね」

「だろう?」

 しばし、二人で見ていると、

「師匠っ、じゃじゃーん」

 スピカが冒険者ライセンスを取りだした。

「おお、おめでとさん」

「はいっやりました」

「なんかおいしいものでも食べに行くか」

「行きましょ行きましょ」

 スピカと並んで歩く。

「さっき美味しそうなアイス?を見つけた」

「なんですかそれっ」

「甘くて冷たかった」

「冷たい!?」

 さっき見た夢は思い出せなかったが、それでも良かった。

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