第十六話
村に帰り精霊の顛末を聞かせると、村総出で祭りを開くことになった。実は、この時期になると毎年精霊祭を開くことがしきたりになっていたそうで、今年は魔物の活性化と俺達の戦いに合わせて延期してくれていたらしい。このような理由があって、倒した翌日には準備が間に合ったのだった。
村の中心にある広場で宴は開かれた。中央には大きなキャンプファイアが用意され、夜空との対比が何とも幻想的で煌びやかだ。
「おお、見事だな」
「そうでしょうそうでしょう!うちの村自慢の料理ですっ」
その周りには肉や魚、山で採れた山菜を使った様々な料理が並べられている。村民から渡された皿に盛って、早速一口いただいてみる。
「ああ、うまい。臭みがないし、ニンニクのきいた濃いタレともよく合う」
それに、肉自体はあっさりした味だからいくらでも食べられる。
「やっぱりおばあちゃんの味が一番ですっ」
「それは嬉しいねぇ、腕によりを掛けた甲斐あったものだよ」
噂をすれば影がさす。
「あ、サラサおばあちゃん!」
「あんたたちのおかげで村は救われたんだ、ありがとうね」
サラサは冗談めかす風でもなく、礼を言った。
「……っ、当たり前だよ!みんな私の家族なんだから」
サラサは、その後俺の方を向き口を開いたが、村人達の声に遮られる。
「スピカや、あっちで話を聞かせておくれ」
サラサを皮切りに、向こうで談笑していた村人が続々と集まってきた。なんと言っても、スピカは今回の主役。皆、話を聞きたいのだ。
「スピ坊、みんな待っとるぞい!」
「あ、連れてかないでぇ、セオドアさーん~っ」
村の人達に連れていかれるスピカの勇姿に敬礼を送りつつ、この豪華な料理に舌鼓を打つ。
「この村のお祝いは気に入ったかい?」
サラサは、黙々と箸を進める俺に尋ねてきた。
「ああ、初めての味だが好みだ」
もらったワインを一口。程よい酸味が肉々しさを中和させた。サラサは、目を細めると、しみじみ言った。
「それはよかった……なあ、セオドア。あんたのおかげさね」
彼女の目は、いつの間にかスピカの方へ向いていた。村人に囲まれ、楽しそうに笑うスピカを見ると、やはりあのときの決断が間違いではなかった、そう思えた。
「スピカが頑張ったからだ」
「謙遜するんじゃないよ、あの子だけじゃ無理さ」
サラサは、きっと気づいているのだろう。おそらく、俺の正体に。
「実際、彼女の才能は唯一無二だ」
「こんな村で眠らせるには勿体無いと思わないかい?」
きっと、彼女の本音だ。
「それに、あの子はあんたの心を埋めてくれる」
「っ!?」
「――怖いんだろう?人を信じるのが」
「……」
どうしてそう思ったのか、聞く直前に遮られる。
「セオドアさんっ!おばあちゃんと何話してたんですかっ」
動揺する俺に気づかず、なんとか抜け出たスピカが勢いよく向かってきた。
「なんでもないよ…さて、ばばあはそろそろ寝ようかね」
「暖かくして寝るんだからねっ!」
くつくつと笑いながら向こうに行ってしまうサラサ。
「セオドアさん?」
不思議そうに見つめるスピカ。まあいいか、俺は静かに息を吐き、表情を作った。
「スピカ――乾杯」
「乾杯っ」
かつんっと、ジョッキをくっつける。
「欲しい光景は見られたか?」
聞くまでもないが、ここはあえて聞いてみることにした。
「それはもう――最高のがっ」
そう言う彼女の横顔は、穏やかで優しげだ。
「それは良かった」
「セオドアさんのおかげですっ」
「いや、スピカががんばったからだ」
「いやいや、セオドアさんがいなければ成し遂げられませんでしたっ!」
「「……」」
「ははっ」「ふふっ」
顔を見合わせていると、どちらともなく吹き出してしまった。
ひとしきり笑い合うと、しばらく互いに口を開かなかった。キャンプの火は、変わらず赤々と燃え続けているが、先程まで響き渡っていた皆の笑い声は少しずつ落ち着き祭りの終わりを漂わせた。この時間が、一番満足で一番寂しい。
「セオドアさん…」
ジョッキの中も後一口まで減った頃、スピカが呟くように名前を呼んだ。
「どうした?」
「――私の部屋に来てくれませんか?」
「ブーーっ」
……中身を吹き出してしまった。
「セオドアさん!?」
「ケホッケホッ、器官に入った……っ」
「もうっ、どうしちゃったんですか!」
こっちのセリフだよ。
「あー、服に掛かってしまってますよ?ワインは落ちにくいんですから、とりあえずうちに上がってください」
「それはまずい…」
彼女の家に住まわせてもらっている身でまずいも何もないのだが、この流れは良くない。
「いいから、さっ、いきましょっ」
手を引かれ、無理矢理連れて行かれるのであった。
◇
しかし、いざ部屋に案内されると、彼女は中々話し出さない。
「そ、それでですね……その、あの……」
冷静になって考えれば、なんとなく内容は分かる。
「セオドアさんの過去を知りたいです!」
「やはり、そうなるか」
「その…セオドアさんは、勇者様ですよね?」
改めて、スピカは尋ねた。きっと、部屋に呼んだのも誰かに聞かれないよう配慮してくれた結果なのだろう。
「……流石にあからさまか」
「すいません…」
「いや、一緒に戦う以上こうなる可能性はあったわけだ」
答えあぐねる俺を、スピカは何も言わずに見つめてくる。どこまでも真っ直ぐで、村思いの優しい少女だ。そして、遠い日の俺にどこか似ている。まだ何も知らなかった俺に。
「……いいよ、話すよ。あまり気持ちのいい話ではないけれども」
一つ咳払いをして、俺は遠い過去に思いを馳せる。




