第十四話
精霊の代わりに群がってきた魔力動物は――何故か巨大化した。
「……何事だ?」
一番小さいはずの鼠ですら、二メートルはある。それが、数十体も俺に集まってきていた。一刻も早くスピカを助けにいきたいが、先に倒さなければ合流したところで意味がない。
それに、この巨体では振り切るのも難しいだろう。上から行く手もあるがお生憎様、優雅に飛ぶ鷹やらフクロウやらが猛禽類特有の鋭い眼光でこちらの動きを監視している。
「出し惜しみしている場合じゃないな」
スピカがいる手前、本当はやりたくはないのだが背に腹は代えられまい。緊急事態だからな。言い訳は……後で考えよう。
「これが最後の戦いだ」
《勇者化――全身》
俺は、全盛期へと若返る。
深く腰を落とし、神経を研ぎ澄ました。
そして。
「――フッ」
まず、向かってきた十体の魔力動物を一太刀で斬り伏せる。そのまま。
飛んできた兎を切り飛ばし。
静かに襲ってきたフクロウの羽をへし折り。
突進してきたイノシシの首を入れ替わりながら切り飛ばす。その後も、鼠、牛、虎、兎、龍、蛇、馬、羊、猿、鷹、狼、猪……矢継ぎ早に向かってくる魔力動物たちを斬って斬って斬り伏せ。
「……」
数十秒後には、辺りは俺以外に誰もいなかった。余韻もなく、彼女のもとへ駆け出す。そして、今にも倒されそうなスピカを発見し。
「――やっと言ってくれたな」
助けられたというわけだ。
◇
「キエェェェェェェ!!!!」
「少し……黙っていろッ!」
精霊との鍔迫り合いに押し勝ち、体勢の崩れた奴を蹴り飛ばした。飛ばされた精霊は、蹴られた箇所が崩れかかっており、修復にも時間が掛かっている。ん?この感じ…そろそろか?この隙に、振り返ってスピカが無事か確認する。
「スピカ……大丈夫か?」
「セオドア……さん?」
ようやく、助けを求めた彼女だったが、その頭上にはなぜか疑問符を浮かんでいた。
「……疑問形?」
「だって、その……お顔が…」
遅れて、気付く。
「あ」
「と、というかその姿どこかで……」
「これは……それよりスピカ、まだいけるよな?」
「は、はいっ!」
「さっき蹴った感触だと、あの精霊もそろそろ限界みたいだ。もともと、代替わりと言うほどだ、無尽蔵なわけではないみたいだな」
根を払いながら、スピカに回復ポーションを飲ます。
「ですが、私…その…魔力量が限界に近くて」
残念ながら、このポーションが治してくれるのは軽微な傷だけだ。魔力を回復してくれるような良いポーションは高すぎる。
「心配するな、俺もだ」
「ええ!?」
「だから、これが本当に最後になる。全てを出し尽くしてあいつに一撃入れろ」
もう、スピカに戦う力は残されていない。精々が後一発、といったところだろう。
「わかり、ました……」
しかし、スピカはどこか自信なさげに俯く。さっきやられかけたのが響いているのか。
「……」
何も言わずにスピカの頭を撫でてみる。
「わわっ」
びっくりしたように頭を押さえ、何事かと俺を見上げた。
「大丈夫だ、スピカならできる」
「ッ、どうして、そんなことが言えるんですか……」
「君は俺に似ているからだ…特に諦めの悪さが、な」
「っ!?」
一方、離れたところでは、精霊がようやく身体を修復し終えた。
「さ、やるぞ――スピカ」
「もう、かなわないですよ――師匠には」
「師匠…….!?」
「ふふっ、お返しですっ」
固まる俺を置いて、精霊は何故か魔力剣を解いた。代わりに、地中から這い出た根が、精霊に巻き付き形を成していく。
「木の根で武装ですか……」
木の根を鎧のように纏った精霊は、これまた木の根でできた剣と丸盾を持って勝負を仕掛けてきた。
「みたいだな」
こうして、俺達と精霊との最後の戦いが始まった。
◇
「キエェェ!」
「ハッ!」
精霊が繰り出す剣の振り抜きに対しバックステップで躱す。そのまま、踏み込みと共に片手剣を突くが丸盾に防がれてしまう。
「キキッ」
「ッ!」
小刻みにステップを踏み、相手に狙いを定めさせない。かつ、突然地中から湧き出す木の根に対応すれば……来た!左右から木の根が飛び出し、生気を吸い取らんと伸びてくる。
あえて前に飛び出し精霊に攻撃を仕掛けるが、精霊は足下の木の根に吸い込まれ消える。左右どちらかの木の根から出現するはず。最初は戸惑ったが、生える瞬間魔力の流れが乱れる事に気付けば簡単……右だろう。
「キエッ!?」
出所を潰すべく、剣に魔力を込め素早く振り下ろす。モグラ叩きならぬ、モグラ斬りだ。
「…浅いッ」
ギリギリのところで勘づかれ、致命傷とはならなかった。
「キエェェェェェェ!!!!」
すぐに再び引っ込んだ精霊が叫ぶと、地中から多数の気配が。慌てて、その場から飛び退く。直後、うねる木の根が波打つように辺り一帯を叩き付けた。
「キェェ……」
「ハアッ…ハアッ…」
……おかしい。
この姿なら、圧倒できると思ったが…この精霊かなり強いのでは?
「ハアッ…それなら魔王討伐に参加してくれたらいいものを」
伝承が正しいなら、過去の村人はこの精霊を鎮めたということだ。昔の人はどれだけ強いのやら。いまになって、一人で戦っていたかと思うとゾッとしないな。正直、魔王を倒して勇者化を手に入れた今、倒せない敵などいない。そう、思っていた。やはり世界は広い。それも、教えてくれたのがこんなのどかな村の土着神のような存在だとは。
剣を構え直した際、スピカの魔力が消えた。
「「……ッ!」」
そういうことか。エリートゴブリンと一緒だ。なら俺がすべきなのは。
「こい、精霊」
手で挑発のジェスチャーをすれば。
「キエェェェェェェ!!!!」
伝わったのか単なる鳴き声か。発狂した精霊が勢いよく向かってきた。
相手の袈裟斬りを半身で避け、流れるように剣を振り下ろせば精霊が丸盾でパリィした。これをあえて受け仰け反る。明確な隙に、精霊がまんまと斬りかかってきた。
「っ!」
俺が斬られる直前、精霊の背後に迫っていたスピカが鎧ごと精霊の心臓部を貫こうと突貫する。
「キエェェェェェェッ!?」
精霊も反応が間に合わない。
「ハッ!」
スピカの剣が鎧に届いた瞬間。
「うそ…」
――パリンッという音がして、刃先が砕け散った。
スピカより先に武器の限界が訪れたのだ。それでも――諦めない!
「スピカ!受け取れッ!」
スピカに向かって剣を投げる。一直線に飛んでくる一振りをスピカがキャッチし、振り上げる。
「ハアぁぁァァアアア!!!」
そして今度こそ、スピカは精霊の首を斬り飛ばした。




