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第十一話

 エリートゴブリン六体を追ったスピカ。

「もうっ」

 彼女はまさにその悪辣さを味わっていた。矢を放ってきたゴブリンは駆けつけた頃にはもうその場におらず、辺りは静寂に包まれている。

「どこに潜んでるの……」

 スピカは焦りに焦っていた。セオドアが六体と言ったのに、彼女自身そのうちの一体ですら気配を感じ取れなかったからだ。

「早く倒して合流しないと行けないのにっ」

 いくらセオドアと言っても、精霊相手にいつまで持ちこたえられるか分からない。故に急がねばならないのだが、全くと言って良いほどゴブリンの気配は掴めなかった。エリートともなれば、戦闘のようなリスクの高い行動を選択しないもの。精霊の攻撃をかわせるような相手には、まず近づいてこない。そして、隙があれば人間を即殺出来る毒をもって遠距離攻撃を仕掛ける。この慎重さと厄介さが、彼らを上級魔物たらしめていた。

「せめて、もう一発撃ってくれたらな…ん?」

 ふと、スピカはゴブリン探しを諦めた。

「…そういえば、ゴブリンはどうやって連携を取っているんだろう」

 これだけ気配がしないとなると、他のゴブリンも仲間に気付かないのではないか。

「でも、中には嗅覚とか聴覚が鋭くて、居場所どころか感情も分かる魔物がいるって、セオドアさん言ってた」

 ただ、ここら一帯は木の根が轟音を撒き散らしているため聴覚は使い物にならなそうだ。それに、ゴブリンは悪臭が凄まじい。よしんば、匂いで位置がわかるとしても攻撃を開始する合図、ひいては感情を伝えるような繊細な真似は出来ないだろう、とスピカは考えた。

「あれ?そういえばセオドアさんはどうして分かったんだろう……というかいつ?」

 もし最初から気付いていれば、スピカに伝えないわけがない。だから、セオドアが気付いたのは精霊との戦闘が始まってからのこと。もっと言えば、最初にゴブリンが攻撃してきたタイミングだ。

「ゴブリンが見えたから?だとしたらどうして全員の気配まで……」

 ゴブリンは相当の胆力があるのか、未だスピカに攻撃してくる気配がない。最初に攻撃したのは、きっと精霊の存在にスピカが気を取られ、ゴブリンには気付かなかったから。今攻撃してこないのは、最初の一発を避けられたから。そんなところであろう。それに、ゴブリンにとって長時間の戦闘は不利になり得ない。ならば。

「よしっ……やってみよう」

 スピカはそう呟くと、剣を掴む力を抜きその場に落とした。それだけでなく、全身を脱力させ周りに漂う魔力、その揺らめく動きに意識を集中させた。

「……」

 ところで、ゴブリンはこのように慎重さを持っているが、決して人間ほど賢くはない。つまり、獲物が自身に害を加えかねる武器を持っていないと分かれば。

「……くる」

 大気を巡る魔力が不自然に揺らいだ。抜いていた力を一気に入れ、今度はその場で飛び上がる。足に向けて放たれた矢は、すんでの所でスピカに当たらず地面に刺さった。同時に、彼女は矢を放つ際に飛ばされた魔力の行き先を捉える。ゴブリンがなぜ仲間の位置を把握しているのか。答えは単純、攻撃を仕掛けるタイミングで微弱な魔力を飛ばしていたのだった。

「分かった……五、あと一体は……まずいっ」

 と言いつつ、着地と同時に矢を放ったゴブリンのもとへ駆け出したスピカ。すぐさま、弓手のエリートゴブリンを視界に捉える。

「絶対山の中で赤いバンダナは止めて方が良いよ?わかりやすいから」

 流石のゴブリンも逃げられないことを悟ったのか、腰に差したナイフを構える。遠距離攻撃をしがちなエリートゴブリンであるが、決して近距離戦が苦手だと言うことはない。少なくともハイゴブリンよりはずっと戦闘スキルがある。はずなのだが……。

「gyagga!?」

「一体目――次ッ!」

 捉えた魔力を追って、スピカは次の標的の元へ跳んでいく。先程掴んだ魔力の方向を覚え、スピカは駆ける。その後、立て続けに四体のゴブリンを屠ると、スピカは喜ぶこともなくセオドアの元へ急いだ。

「お願いっ、気付いて……最後の一体はそっちにッ」

 一方その頃、弟子に安全を願われた師匠と言えば。

「っ…なんだこいつ」

 背後から襲ってきたゴブリンの首根っこを掴み、迫り来る根の盾にしていた。

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