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第十話

 ここ数日ですっかり見慣れたサイン山に入山する俺とスピカ。今日、俺達は精霊を鎮める。

「明らかに、精霊様の魔力が高まっていますね……」

 相変わらずサイン山は不協和音で溢れていたが、俺達に怯えはない。以前とは違い、焦りもなくしっかりとした足取りで横を歩くスピカがこちらを向いた。

「そういえば、セオドアさん髭剃ったんですね」

 言われて、ついつい顎に手を当ててしまう。スピカを助けるために、全身を勇者化させた名残だ。いや、残ってはいないのだが。

「…そうだな、決意の表れというべきか」

「その方が良いと思います」

 意外にも好評らしい。

「剃るのは面倒だ…髭じゃだめか?」

「全然似合ってなかったです!」

「……そうか」

 今度から欠かさず手入れすると決めた。



 閑話休題。道中何回か魔物に襲われるが、充分な休養を取った彼女にとってはあまり脅威にならなかったらしい。

「あれ、弱くなりました?」

 などと、生意気なことまで言い出す始末だ。頼りになる物言いに思わず笑ってしまう。

 しかし、奥に進むにつれ次第に濃くなる異様な魔力。否応なしに戦闘の気配を感じさせる。

「「……」」

 先程から、俺達の間に会話はない。それは、長年の付き合いからくるような落ち着く空気でも、気まずさからくる沈黙でもない。お互い分かっているのだ、決戦の時は近いと。

 そして、その時はきた。

「…いたな」

「はい…!」

 俺達の前にある斜面、その頂上に精霊は佇んでいる。

 美しい見た目の女性と見間違わんばかりの風体だが、うっすら透けていることから彼女が人間ではないことは分かる。

「……」

 精霊の口元に魔力が集まるのを感じた。

「……ッ、耳を塞げ!」

「ッ!」

 刹那。

「キエェェェェェェ!!!!」

 精霊は魔力の籠もった、おおよそ人が出し得ない奇声をあげた。何とか、魔力に耳を集中させ防いだがスピカはどうだろうか。

「おい、スピカ……だめだトんでる……起きろっ」

 バシッと、背中をはたく。

「ハッ、すいません意識が……」

「いい、それより行くぞ!」

「はいッ!」

 そもそも、上を取られている状態では攻撃に移りにくい。二人して、斜面を駆け上がろうとしたのだが。

「……!」

 精霊の足下から、何かが飛び出す。あれは……木の根か!土の中から飛び出してきた太い木の根が俺達を襲う。

「さすが、山の精霊だ。解釈一致な攻撃してくる」

 一本一本、当たればただでは済まない質量を持った木の根を避けながら、感想が口を突いて出る。

「上から木の根が突き刺さってくるのは、中々に出来ない体験だな」

 それは別にしても、真面目に考えればこのような攻撃がある以上、足下への意識を怠ってはいけない。あと、あの根からは嫌な気配がする。接触に注意。実に厄介な相手だ……これは、役割分担が必要だな。

 精霊の第一印象から取れそうな手段を伝えようと、スピカを見たその時だった。

「スピカ!俺が防御を引き受けるから奇襲を……ッ!?――しゃがめ!」

 彼女の後方から、飛来してくる何かが目に入った。

「ッ!」

 今度は俺の警告に間に合ったスピカがその場にしゃがんだ瞬間、彼女の頭があった位置を何かが通り過ぎた。木に刺さったそれを見て俺は舌打ちする。

「矢?……はあ、面倒だ」

「な、なんですか!?今のは」

 射線の奥にチラッと見えたのは、ゴブリンだ。それも、赤いバンダナをしていたからエリートの方。ハイゴブリンよりさらに手強い上級魔物だ。火事場泥棒のような知性がある。さらに、戦闘始まってから仕掛けてきたから逃げられない。きっと、この辺を包囲している。数は……精霊の魔力のせいで掴みづらいがおそらく。

「スピカ!エリートゴブリンだ!数は六!行けるか?」

「やってみせますッ!」

「良い返事だ!俺の合図でいってくれ」

 瞬間的に放出する魔力を高め、精霊のターゲットをこちらに向けさせる。

《勇者化――両足》

「来いッ!」

「キエェェェェ!!!!」

 移動しながら、木の根を自身に誘導させる。

「行けッ」

「ッ!」

 彼女は弾丸のように駆け抜けた。

「やっぱり、思うようにはいかないな」

 スピカが抜けたのを確認し、精霊に向き合う。

「正々堂々、一対一だな」

 さあ、まずは小手調べといこう。

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