通りすがりの方々
私は耳が良いらしい。
事務所での関係ない雑談も結構拾って覚えている。電話対応中でも背後の方で社員同士の話は聞こえているし理解できる。
仕事に関係する話は結構覚えておいて、プライベートな事は忘れる様にしてるんですけどね。
だから数年前の話でも、あの時課長がこう言って、主任がこう話をして結論こうなったでしょ?とか、会話の流れで説明をする。大体うっすら皆さん覚えているのか解決するので納得してもらってはいるんですけどね、ただ外部メモリー扱いはちょっと嫌だなぁと便利扱いされるとムッとします。
まぁそんな私なので、スーパーや、商店街やらで通りすがりの無関係な人たちの会話もちらほら脳内を通り過ぎる。
たまに笑いのツボに入る会話があったり、「つ、続きを、知りたいっ」と追いすがりたい気持ちになる話もあったりします( 追いかけたりはしませんよっ人間としてね、尊厳ありますからね)。
先日のスーパーでの父娘の会話が面白かった。
歳の頃は小学校低学年位のお嬢さん。お父さんはマスクしてるのでよくわからないけど四十にはなってないかなぁって感じの年代。
娘が「パパ、これ、新発売のお菓子だって!」とはしゃいだ声をあげる。
「うん、買わない」と即断のお父さん。
「まぁそう言わないで、一回落ち着こうか」
その娘の返しに思わず咽せた。
背後だったのでお父さんの様子は伺えなかったけれど、ため息をついている気配は感じた。
きっとパパは落ち着いてお断りしているんだと思うよ?お嬢ちゃんと思いつつ、二人と距離が離れたのは残念。
もしかしたらあのご家庭では夫婦喧嘩なんか発生した際に奥さん相手にご主人が落ち着こうとかって声掛けしているのかなぁとか想像して微笑ましく思ったり。
スーパーではセルフレジもあるんだけど、お店お店で仕組みが違う。
買い物しながらスキャンで読み込み最後にスキャンを転送してレジを済ます店もあるし、レジに読み込み画面があってそこで改めてバーコード読ませる店もある。
レジ通しだけお店の人がやって支払いは専用機でお客が行うと言うのもある。
そこはレジでバーコード読み取りをするお店だったんだけど、隣の方が固まっている気配を感じて横を見た。
その店はバーコード通していない籠を置く台で重さを検知していて、隣に移動した商品の重さとで整合性が取れないとエラー音がして会計がすすまない。
「どして、すすまぬ、ワタシ困る」
そう呟く言葉に、変な言い回しだなと思ってよく見たらどうも日本人では無さそうで。私の視線を感じたのか彼もこちらを縋るような眼で見てくる。英語もよく分からない私は普通に答えるしか無い。
「品物、いっこだけ持つ。ピッとしてこっち置くー、次いっこだけ持つ。順番。二つ持つよくなーい」
背後で笑う気配があって振り返ると、お店の方が立っていた。
「ご説明ありがとうございます、後はこちらで説明いたしますね」
普通とは言えない妙な片言日本語説明を聞かれたー!と恥ずかしく思いつつ、店員さんの生ぬるい優しい眼差しにえへへと笑いレジを済ませて帰りました。
レジから離れる寸前隣の彼が「ありがとねー」と言ってくれてちょっと救われた気持ちでした。
近所の公民館前広場で老人会の皆様が毎日ラジオ体操を行っている。普段は行きかうことはないのだけど、ごみ収集の日には朝起きたら出しに行っているので顔を合わせる方がいる。
仲良しらしい老女二人が結構大きい声でおしゃべりしながら集合場所へ向かっていた。
「息子がろくでもないから嫁に迷惑ばっかりで、この間嫁に言ったのよー」
「あらー何て?」
「アタシがあの世に行くときには息子連れて行くから、もうちょっと辛抱してねって」
「あら、連れて行くんなら安心だわねぇ」
「そうでしょ?そしたら嫁ったらねぇ」
「連れて行かないでとか言われたのぉ?」
「違う違う、いつ連れて行ってくれますか?だってさ!あははは」
「待ち遠しいんだわねぇ、で、あんたいつあの世行くの?香典の用意も必要だし予定聞かせてよー」
「それがねぇラジオ体操で健康維持出来てるからねぇ」
笑顔です。
お二人とも楽しそうにお喋りしております。殺伐とした内容なのに。
これは家庭円満なのか、それともこの方が達観しているだけなのか。謎です。
通りすがりの方々の言葉に笑ったり突っ込んだり、背後の人間関係を考えたりと楽しんで過ごさせて頂いています。ありがとう!
そんな私も通りすがりの方を楽しませたことがあったと思い出したので語る。
中学校へ自転車で通学をしていた私は、漕ぎながらよく鼻歌を歌っていた。
通学路は結構ダンプとかも行きかう道だったのですが南にたんぼが北に川が流れていたりして民家が少し離れていた。だからか追い越していく車や対向車が時折通っても一人っきりのような感覚になっていたのだと思う。
鼻歌がちょいちょい熱唱になっていたらしい。
珍しく押しボタン信号が赤になってて横断歩道手前で一時停止をしたところ横を軽四トラックが並んだ。
いい季節で窓が開いていて、運転席のおじさんが顔をこちらに向けてにっかりと笑う。
「気持ちよさそうに歌ってるね!」
え!と驚いたのだけどすぐに信号が点滅黄色に変わりトラックは発車してしまい私は取り残された。
いつから!どこから聞こえていたの、本当に聞こえていたの?と内心パニック。
学校について友達に話をすると「おじさん笑顔だったんでしょ、良かったじゃん」と慰めてくれた。そして通りすがった同じクラスの男子が追撃。
「確かに音乃って良く歌ってるよな。焼却炉行くときいつも歌ってるだろ」
……知りませんでした。
まぁでも人に笑顔を届けていると思えば良いかと内心言い聞かせ、その日一日頑張って過ごし、その後自転車漕ぎながら歌う事には留意した思い出です。