過去世
リュカは、父親から辺境の地へ赴くよう言われ、険しい道のりを馬で駆けていた。
崖があり野盗がでる危険な山越え、命の危険がある道程。供を一人だけつけたリュカは馬に乗って進んでいた。
リュカは濡れ衣をはらすために辺境伯に顔を見せにいく必要があった。
辺境伯が治める地で禁断の薬を栽培、加工し各国へ輸出していた組織があるという。辺境伯の治める土地は広大で目が行き届きにくい、それをいいことにひそやかに犯罪が行われていた。
その薬は使用が過ぎると廃人になるが、少量の投与では恐れを知らず力が引き出されるため兵士や傭兵に使用されることも多かった。痛みをマヒさせる効能もあるため、病院でも使われていたが、それはきちんと国や領で管理されなければならない。それ以外の栽培、加工、販売、使用は全て犯罪となる。
それが摘発された時、サンテール家の関与が浮上した。もちろん、否定し反論したが辺境伯卿から訴えられた。
先に捕縛された者からリュカの名が挙がったのだ。婚約者のアマリアをはじめ友人たちはみんな信じてくれたが、家族はリュカに疑いの目を向けた。
リュカが子供のころから、両親は兄との扱いに差をつけていた。要領がよく両親に甘えて取り入るのが上手な兄、それに比べて気を遣ってしまい甘えるのが苦手なリュカにはいつも厳しくあたっていた。勉強を頑張っても剣技を頑張っても褒めてはもらえなかった、ただ親にとって可愛げがなかったというだけで。
家ではそんな扱いであったが、学校ではその人柄から慕われ信用されて友人はたくさんいた。親の育て方のせいで兄は何事も自分の方が優位にならないと気がすまず、友人が多く慕われていたリュカの事が気に入らなかった。
だから疑いがかかった時、兄はリュカを糾弾した。貶めることで自分が優位に立つつもりであることがよく分かった。しかし自分が犯罪者となれば家名に傷がつく、家を上げて疑いを晴らすのが先ではないのかと苛立った。
調査は一向に進まず、リュカの悪事を決定づける証拠が出ないかわりに、無関係だと証明することもできなかった。巻き込まれたくないからと多くの友人たちが一人、また一人と離れて行った。
そして・・・アマリアが兄と結ばれた。二人には、リュカの事でお互いに憔悴し、慰め合ってこうなった。お前のせいだと責められた。
リュカはすべての人間が敵に見えた。こんな苦しい時に限って次から次へと災難がやってくる。打ちひしがれて、疑いを晴らす気力もなくなりかけたとき、日頃冷たい父親から声がかかった。
辺境伯のもとへ行き、顔合わせをして来いと。リュカとされている首謀者は辺境伯領に何度も出入りをしていたそうだ。その目撃証言とリュカが違う人物だと証明してくればすぐにでも疑いが晴れるのではないかと珍しくアドバイスをしてくれた。
そして険しい道を馬で駆け、休憩していたところ唯一の供が切りかかってきた。
「何を!」
「可哀想だな、お前。辺境伯で禁止薬物を製造していたのは確かにサンテール家だよ。お前の父親と兄貴は、全ての罪をあんたに押し付けて殺そうとしてるのさ。」
「まさか!・・・うそ・・だろ?」
「この旅の途中で殺すよう命じられている。辺境伯にはお前が罪の意識で自決したと報告済だろうさ。」
「そんなことしたら・・・家名が・・・」
「傷がつくと?自分たちが犯罪者として裁かれるより、家名に傷がつこうが次男一人切り捨てる方がいいだろう。あんたが可哀想だとは思うけどこれも仕事なんでな。」
剣で切りかかられ、あっけなく崖の下に突き落とされた。
あいつらを絶対許さない―――その思いを最後に意識を失った。