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3/9

まずは母 2

「父上・・・。」

「ノエル!どうした?」

 久しぶりに息子が話しかけてくれたことにホッとした。

「母上が・・・」

 そう言ってノエルは泣きだした。


「アマリアがどうした?」

「僕にご飯を食べさせてくれてたハンナをぶったの、そして屋敷から出て行けと言ったの。僕、ハンナがいないとごはんが食べられないよ。」

しくしくと泣きまねをする。

「ご飯、食べられたのか?」

「うん、ハンナが一緒に食べてくれたら食べられたの。ハンナがいなくなるの僕嫌だよ。」

「大丈夫だよ、ハンナはどこにもやらないから安心しなさい。」

「父上、本当?本当に本当に母上からハンナの事守ってね?」

「わかった。」

 ノエルの頭を撫でる。ノエルは部屋を出ると無表情に戻り、父に撫でられた頭を乱暴に自分の手で払った。


 あんなに可愛がっていたノエルから「汚らわしい」と拒否をされた。そして心底軽蔑するような目で見られたことがショックだった。

 一体ノエルの身に何が起きたのか心配でたまらない。

「どうした?」

「ノエルが・・・」

「ああ、やっと口をきいてくれたな。」

「え?」

「食事が摂れたそうじゃないか。ハンナの事は大目に見てやりなさい、彼女のおかげでノエルがもとのノエルに戻ってきたのだから。」

「・・・ノエルが・・・そう言ったのですか?」

 自分には一言捨て台詞を吐いただけなのに、父親とは会話したというのか。アマリアは胸が痛んだ。

「あなた・・・私、あの子に何かしてしまったのでしょうか。」

 ポロポロ泣くアマリアに

「しっかりしなさい、お前がそんなのでどうする。あの子が甘えたくても甘えられないではないか。」

「わたくしが悪いとおっしゃるの?!」

「そんなことは言っていないだろう。とにかく、ノエルは少しずつ話して、食べるようになってきている。今はしっかり見守ってやるしかないんだ。ハンナはメイドとしてはまだまだだがそれがかえって子供にはしゃべりやすいのだろう。ハンナに八つ当たりはするな。」

「・・・わかりました。」

 アマリアはぐっと我慢して、自室で泣いた。


 それから毎日、ノエルは自室で食事を摂り、いつもハンナが一緒に食べてくれるようになった。

「坊ちゃんのおかげでいつも美味しいもの食べられて幸せです。皆から羨ましがられているんですよ~。」

 ハンナは一緒に食べることを喜んでくれている。

「僕もハンナと一緒に食べることが出来てうれしい。」

「今日はお昼からの勉強が終わった後、どうされますか?」


 家庭教師による勉強が始まっており、今は国の歴史や一般教養、マナーを学んでいる。その後は数学や地理や産業、領地経営など増えていく。

 過去の記憶があるノエルにとっては簡単で、家庭教師から優秀と判定されていた。

「ハンナは、今日は昼で仕事終わり?」

「はい。」

「じゃあ、今日は庭で運動でもするよ。」


 以前のノエルは母のアマリアが大好きで、時間があればアマリアに抱き着き、一緒にお茶をしたり、本を読んでいた。今は近寄ることもなく、話もしない。

 父や祖父母にも以前ほど甘えたりはしないが、会話はする。それだけに、セレスタンや祖父母たちはアマリアが陰でノエルにきつくあたっていたのではないか、だからノエルはアマリアだけを避けているのではないかと疑い始めた。


 ノエルは家庭教師が帰ると、庭に出て木剣を振った。

 そこにアマリアが、無理に笑顔を浮かべてやってきた。

「頑張っているのね、お菓子があるの。休憩しない?」

 ノエルはため息をつくと剣を下ろし、家に向かって歩き始めた。

「ノエル!待って!お母さまに悪いところがあれば直すわ!だからどうしてお母さまを避けるのか教えて!あなたの事愛しているわ。」


 それでも黙って返事をしないノエルの肩を掴む。

「どうしてなの?!」

「・・・触んなよ。気持ち悪い。」

「お、お母さまに向かって!どうしてあなたは!」

 ノエルはちらっとアマリアの後方を確認すると

「・・・あばずれのくせに母親ぶるな。」といった。

 思わず、アマリアは思いきりノエルの頬をぶった。


「アマリア!お前は!」

 後ろから走って駆け寄ってきたセレスタンはノエルを抱き上げる。

 ノエルは大声で泣きながらセレスタンにしがみつく。

「もしやと・・・まさかと思っていたが、お前がノエルを虐待してたなんて!お前はしばらく部屋で謹慎だ、ノエルに会うな、わかったな?!」。

「ち、違います・・・虐待だなんてしておりません!」

「目の前でノエルを叩いておきながら、しらじらしい!」

「あれはノエルが・・・わたくしを侮辱したのです。」

 アマリアは泣いて夫に縋ろうとする。


「こんな小さい、母が大好きだったノエルがか?ともかく、今後ノエルはお前には会わせない。」

「あなた!わたくしを信じてください!」

 セレスタンは泣いてしがみつく息子の背を撫でながら踵を返した。

 アマリアは妻に手を差し伸べず去っていく夫の後ろ姿を見送った。そして夫の肩口から顔を出し、こちらを見てにやりと笑ったノエルを見た。


 全身が震えるような恐怖を感じ、アマリアは悲鳴とも叫び声ともわからない甲高い声を上げながら走り寄りノエルに再びつかみかかった。セレスタンは、錯乱して暴れ息子を害そうとする妻を押さえつけ使用人に部屋に閉じ込めるように指示した。


 セレスタンは赤く腫れた息子の頬を冷やすようにメイドに命じた。

「ノエル、もしかしていつも母様に叩かれていたのか?」

「・・・うん。」

「そうか、気が付かなくて済まなかった。これからはもう大丈夫だからな?」

 ノエルを抱き寄せて慰めた。


(まずは一人・・・)


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