そのⅣ
これは独占欲ではないだろう。
けれど、それ同様の喪失感もまた、私を縛りつけるのだ。
毎週日曜日に投稿していきます。よろしくお願いします。
星を眺めたあとの帰り道は、決まって近くのコンビニに行くのがいつの間に習慣になっていた。
「それで、愛歌はどれにするの?」
「あ、えっと……じゃあこれで……」
「りょーかい」
最近はそこで温かい飲み物を選ぶことをしている。
もし小腹が空いてるときなんかは、ちょっとした焼き菓子やパンを買ったりするが、今日はお互いそんな気分でもなくて、私は微糖の缶コーヒーとホットココアを手を持ってレジに向かう。
愛歌もついて来るのかと思いきや、やっぱり私に会計を任せてそそくさと店の外に出て行ってしまう。
それは今に始まったことではなく、あるときからそういう風になってしまった。
そうなった起因は分からないが、そうなっている原因はなんとなく察している。
「はい、会計お願い」
「あいよ。あれ、冬崎さんは? さっきまで一緒にいただろ?」
「あぁ、たぶん外で待ってる」
私がレジカウンターに商品を置いては、店員と軽いやりとりを交わす。
当然、私もいつもこんな感じで生意気な客を演じているわけではない。知らない人だったらちゃんと「お願いします」と言っている。
でも、こいつは知り合いだし、というかもう幼なじみみたいなもんだし……ね?
「今日も遅くまでバイト?」
今は他にお客はおらず、私は彼に至って変わり映えしない問いかけを投げかける
「まぁ、21時までだな。高校生だしその時間までしか働けん」
「そっか。そんで明日の朝は?」
「4時に起きて店の手伝い兼修行だな」
正直、彼の話を聞いている私からすれば、こんな時間もまだ働いていて、そんな時間に起きては自分を磨こうと思う心理に理解が追いつかないのが感想だ。
「まぁ、なんともお忙しいこと……おつかれ」
「おう、サンキュ。そういうお前はどうなんだ?」
「どう、とは?」
「最近、もう絵は描いてないのかよ?」
「………………うん」
「そうか。まぁ、俺があれこれ言うのも変なお節介だからな。とりあえず風邪には気をつけろよ」
腐れ縁の副産物というものなのか、彼は私のめんどくさい事情を知っていて、それをほんのたまに気にかけてくれる
それに、あまり追求してこないところは彼による気遣い。
その優しさは素直に嬉しいが、同時に、自分の惨めだと自覚させられて悲しくなる。単なる自己嫌悪に過ぎないが、でも私と彼にはそんな差があるように感じてしまう。
「うん、ありがと」
「あ、あとさ……」
「ん? なに?」
「あぁ……いや、なんというか……」
「なに? 外で愛歌が待ってるから言いたいことあるなら早くしてほしいんだけど」
「……いや、なんでもない」
「そ? ま、なんかあるならまたメッセでもして。んじゃ、バイト頑張って」
「あ、あぁ……」
たぶん、おそらく……というかほぼ確実になにか言いたいことがあったと思うけど、私は外で待つ愛歌の方が気になり、彼の続きはおあずけすることにした。
なんか、嫌な気がしたから……。
「愛歌、お待たせ」
「あ、透華……」
「ん、これココアね」
「ありがと……」
店を出て彼女の元に行くと、少ししょぼくれた様子で彼女は立っていた。
その理由は体調が悪いとか、歩き疲れたとかそんな身体面のことではないのは言うまでもない。
今日もまた、彼のせいだ。
「ちょっとくらい話せばいいのに」
「え……?」
「進也と」
「は、恥ずかしいわ……」
「乙女心は難しいもんだね」
一応、乙女側に位置する私も、彼女の奥手な対応にはじれったさを覚える。
まぁ、好きってものは色んなものを縛りつけるもんなんだろう。
今のような彼女を見るたびにそんななんてことない本質を見ているような気がする。
彼女が彼を好きになったのは……。
いつなんだろう、分からない。でも、気付いたころには分かったことだった。
彼ーー片山進也という男は。
私とは小学生くらいからの付き合いで、お互いの家の距離もさほど遠くなくてよく一緒に帰ったりしていた。
彼の家はパン屋さんで、彼自身も、彼自身の意志でパン作りに励んでいる。
おかげでほぼ毎日誰もが寝ているような時間に起床しては誰もが欲するようなパンを作ることに一心しているとか。
正直……そういう生き方は羨ましいと、歳を重ねるごとに彼が眩しく見えてくる。
もっとも、それが彼らしいと思うから。その生活を送る彼だからこそ、余計に私はどうしようもない劣等感に襲われる。
一体私はなにをしてるんだろうとか。あのころはあんな大きな夢を見ていたはずなのに……とかそんな現実逃避ばかりがまた目的地もない紆余曲折へ誘うのだ。
そんな姿勢を変えない彼に、好意を寄せてしまうのはあまりにも自然で、納得するしかない。
でも、なんだろう……ちょっと胸の奥がむずむずするような悔しさがあった。
「そういえば透華」
「どうした?」
私はこのまま徒歩で、彼女は電車で帰路に着く。その別れ際で彼女はようやく口を開いた。
改札前、いつも私たちが「またね」と明日に再会できるおまじないのような口約束をする場所で彼女は立ち止まり、体をこちらに向けていた。
「透華は今年のクリスマスはなにか予定はあるかしら?」
「え、クリスマス? いや特にないと思うけど……」
唐突のその確認は、さすがに予想外だった。
私にとってクリスマスなんて当分の間はそんなに特別感もなくて、なんなら街中の騒々しさにうんざりするくらいの存在だった。
だから予定なんてものを詰め込むほど楽しい日でもない。
「そう……よかったわ」
「……どこか行きたいの?」
「ええ、まぁ……どこかへ」
彼女は曖昧な口調で、それでも微笑んでいた。
おそらく、私とクリスマスを過ごしたいけど、まだ内容は決めていないような口ぶり。
「別にいいよ」
まぁ、どうせなにもすることはないし、それくらいなら彼女と一日過ごす方が断然有意義だろう。
「ありがとう。またどこへ行くか決まったら言うわ。透華も希望があったら教えてちょうだい」
「うん、分かった」
「じゃあ、また明日ね」
「またね」
軽い約束、でも確かな契りを結んで、私たちは今度こそ背中合わせに歩き始めて家を目指した。
「…………」
なぜ、私はあのときああやって優しく言葉をかけてあげられなかったんだろうか。
「どうせなら、進也を誘えばって……」
そうやって、なんで言えなかったんだろう。
「…………」
いや答えはこのむずむずが教えてくれている。
でも……でも、それを言葉にするのは難しくて、それを届けるのはもっと困難で、私はそこで目を背けたんだ。
「私は優しくないんだ……」
そもそも違うんだ。優しさは与えるものじゃない、与えられるものだけで、不可逆の精神安定剤のようなものだ。
だから、これは優しさとかそんなんじゃなくて。
「ただのエゴだ……」
そう呟きながら、見上げた空は。
昨日と変わらないような気がして。
つい、私は明日が来なければいいなんて思ってしまっていた。
どうも1週間ぶりです。雨水雄です。
随分と早い梅雨もそろそろ早めの切り上げ段階に差し掛かり、ぼちぼちあの暑い暑い夏が追い込みの最終局面に展開しようとしてますね。
とまぁ気付けばもう新年を迎えてから半年が過ぎようとしているんですよ。まだ寒かったあのころが昨日のようですよ……それほど思い出のページ数が薄いということでしょう。
今年の夏はイベントあるのかな……ライブあるのかな……ううん、やっぱまだ懸念材料に不安要素は拭い切れないよね、な靄は濃く散りばめいていますが、それでも雨水は変わりません。
目の前に楽しいこと、それに付随することや派生して生まれるまた楽しいことに飛びついていくだけです。その新鮮感がたちまち習慣となり表現に繋がるので。それがまた楽しい!
みなさんも健康に気を付けて、まだ生きている今を楽しんでください。いずれ過去になる今を彩れるよう、雨水も頑張ります。
さて今週もここまで読んでくださりありがとうございます。
では来週もよければここで。