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HINT FILE 1 : 簡単な暗号の使い方〈上〉

色々と書きたいことを書いていたら、なんと一万文字を突破してしまいました・・・。

「こんなサイドストーリのようなものに・・・」と思う方もいるかもしれませんが、僕にとってはこっちもかなり大事なので、それだけ力を使っているんです。

ちなみに、そろそろ次の事件のトリックのアイディアがうっすらと見えてきました。

この話は次の物語のトリックのヒントのようなものなので、HINT FILEとしました。そしたらなんとも長くなってしまい・・・。

そのため、こちらを〈上〉としました。つぎのは〈下〉です。

では、初めて一万文字を超えたこのFILE、ご堪能ください。

放課後。


「ま、まさか涼美ちゃんがブラコンだったなんて・・・。」

「ちょ、ちょっと信じ難いですよね・・・。」

「あ、ああ・・・。」


俺、春夏、紅葉の三人は今朝の出来事に、未だに呆然としていた。

一人話題から取り残された時雨は頻りに何があったのか聞いてくるが、今の俺達にそんなことを説明する余裕はないと言って無視する。


「授業中はあんまり気にならなかったんだけどさ、よくよく考えてみると・・・ねえ?」

「え、ええ・・・。ちょっとまずいですよね・・・。」

「法的には問題ないけどな・・・。それがまた問題というか、何と言うか・・・。つーか、授業中は本当に気にならなかったんだよな。完全に忘れてた。」

「授業中って、秋冬さん授業受けてないじゃないですか。」

「あ、そうだった。訂正、サボり中は気にならなかった。」

「秋冬らしいね。」


三人が笑い出す。一人取り残されて寂しかったのか、時雨は教室の隅っこで丸まっている。


「おーい、時雨、どうした?」

「・・・全然余裕じゃんか・・・。俺にも何があったか教えてくれよ。」


なんだか可哀想に思えてきたので、説明してやった。そして、話し終わると、


「ぶははははは!」


盛大に笑われた。


「・・・これもあるから言いたくなかったんだよ・・・。」

「そうか、涼美ちゃんがか!」

「笑い事じゃないです、重大な問題ですよ!」

「そうよ!義兄妹ってことは四六時中同じ屋根のした生活するってことよ!つまり、秋冬を落とすチャンスが多いってこと!」

「は、春夏が難しい言葉を使ってる!紅葉、時雨、明日は嵐だ。傘持って来いよ。」

「そんなわけないでしょー!」

「ま、まあまあ、春夏さん落ち着いて。そんなことより秋冬さん、涼美さんは?」

「ああ、あいつなら舞の稽古があるから先に帰ったと思うよ。」

「え、涼美ちゃん舞なんかやってたか?」

「最近始めたんだよ。後は三味線も始めたな・・・。学校が終わったら7時までぶっ通しでやってるよ。」

「た、大変だね、涼美ちゃん。そんなに習い事やってて・・・。」

「ま、自分からやりたいって言ったんだから、好きにやらせればいいだろ。」

「それもそうですね。」

「そういうことだ。じゃ、俺達もそろそろ帰るか。」

「ん〜・・・。でもさ、このまま帰るのも退屈じゃない?」

「そりゃまあ、そうだけど・・・。」

「だからさ、これからどっかに遊びに行かない?隣町に新しい本屋とゲームセンターが出来たらしいから、商店街で買い物を兼ねて行こうよ!」

「お、いいんじゃないか?」

「私も別に問題ないですよ。」

「あ〜悪い。俺この後塾で行けないから、三人で言ってこいよ。」

「塾?お前が?」

「悪いか?俺だって一応進学するつもりだからな。そろそろちゃんと勉強しないとまずいだろ?」

「あ、そう。でもいいのか?」

「ああ。その代わり、今度なんかおごれよ?」

「はいはい。じゃ、お言葉に甘えて行ってくるよ。お前も頑張れよ〜。」

「おう。」


というわけで、時雨を除いたいつものメンバーで隣町に行くことになった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



電車内にて。


「そういえば最近時雨の奴大声で喋らないよな?何でだ?」

「ああ、それなら少し前に私のお見舞いに来てくれた時にお母さんが『そんなに大きな声で言わなくても聞こえるわよ』と言われたからだと思います?」

「・・・それって時雨君今の今まで私達が大声じゃないと聞こえないって思ってたってこと・・・?」

「・・・そうみたいだな。」


こうして俺達は改めて、時雨がバカだと再認識した。

時雨、進学は諦めたほうがいいかもしれないぞ・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「着いた!」


春夏が一番に駅を出て、空に向かって叫ぶ。周りの人達は何事かと一瞬足を止めたが、すぐにまた歩き始めた。


「春夏、落ち着け。電車には十分くらいしか乗ってないぞ。」

「え、嘘だよ、一時間以上乗ってたじゃん。」

「・・・。」

「・・・活発な春夏さんにとってはじっとしている時間は長く感じるみたいですね・・・。それも相当・・・。」


こうして俺と紅葉は改めて春夏も時雨と同じくバカだと再認識した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「で、どうする?」


商店街に着いたと同時に、俺は春夏に聞いた。


「三時半か・・・。晩御飯にするにはまだ早いから、やっぱりまずは買い物でしょ。」

「・・・ちょっと待て、お前何時まで遊ぶつもりだ?」

「十時くらいまでかな?」

「・・・それはやめたほうがいいと思いますよ。家の人も心配しますから、長くても六時までにしましょう。」

「・・・分かったわよ・・・。その代わり、目一杯遊ぶからね!」

「「はいはい。」」


俺と紅葉が同時に答える。


「それじゃ早速行こうか!まずは買い物!」


そう叫ぶと、春夏は店の名前もろくに見ず、手当たり次第といった感じで店に入っていった。


「あ、春夏さん!」

「ったくあいつは・・・。紅葉、とりあえずあいつの入った店にはい・・・。」


俺は店の看板を見て硬直してしまい、言っていたことを最後まで言えなかった。

紅葉がどうしたのかと聞いてくるので、呆然としたまま看板を小さく指差した。

俺が指差す看板を見て、紅葉も「・・・あ。」と小さく呟いて、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「・・・紅葉。」

「ひゃ、ひゃい!」


相当動揺しているのか、裏返った声で返事をしてきた。


「・・・とりあえず春夏を連れ戻してきてくれ。」

「わ、わ、分かりました!」


そう叫び、紅葉は早足でその店に入っていった。

・・・え、何で俺が行かないのかって?

・・・入れるわけないだろ・・・。・・・ランジェリーショップなんて・・・。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ごめんごめん、お店の中に下着がいっぱいあったから洋服屋さんかと思って。入ってすぐに下着コーナーなんて変わってるな〜とは思ったけど、紅葉ちゃんに言われるまで気づかなかったよ。」

「看板にちゃんと書いてあるだろ!」

「書いてない!りん・・・げりえ?うん、『りんげりえ』としか書いてないじゃない!・・・それにしても変わった名前のお店だね。」

「あれは『Lingerie』!『ランジェリー』って読むんだよ!」

「それに、その横にちゃんとカタカナで『ランジェリー』って書いてあるますよ?」

「う゛ぐ・・・。」


何も言えなくなった春夏をよそに、俺は紅葉と話を進める。


「じゃあ今日の買い物は洋服か?」

「そうですね。そろそろ暑くなり始めると思うので、涼しい服も必要ですし。」

「じゃあどこに行く?」

「特に好きなブランドはないので、適当に歩いてよさそうなお店に入りましょう。」

「了解。春夏、いくぞ。」

「・・・は〜い。」


俺達は数分歩いた後、小さな洋服屋に入った。


「で、どんなのが欲しいんだ?」

「涼しい服って言ったらやっぱりスカートでしょ?」

「私もスカートですね。ちょっと長めの。」

「え〜?また長いスカート?いい加減短いの買ったら?」

「で、でもミニスカートって落ち着かないじゃないですか・・・。」

「そんなのは慣れよ、慣れ。紅葉ちゃん可愛いんだからもうちょっとお洒落したいいじゃない。」

「な、何言ってるんですか春夏さん!わ、私可愛くなんて・・・!」

「謙遜しないの。秋冬もそう思うでしょ?」

「へ?ああ、まあ、そうだな。」

「あ、秋冬さんまで、ご、ご冗談を・・・!」

「いや、別に冗談じゃ・・・。それに、俺は二人とも可愛いと思うけど・・・。」

「「へ?」」

「ほかの女子に比べたら結構可愛いと思うぞ?」

「な、な、何を・・・?」

「あ、秋冬、話が脱線しちゃったよ!服の話をしてたんでしょ!?」

「あ、そうだったな。」

「・・・秋冬、私達の気持ちちゃんと分かってるの?」

「分かってるさ。」

「じゃあ何のために煽てるの?」

「煽てる?俺がいつお前らを煽てたんだ?」

「だって今『可愛い』って・・・。」

「お前、もう少し人の褒め言葉は素直に受け取るもんだぞ・・・。」

「え、じゃあさっきの『可愛い』って言ったのは・・・?」

「もちろん本心だよ。」

「な、何キザなこと堂々と言ってるのよ!?」


そう俺に怒鳴ると春夏は踵を返して服を選び始めた。


「・・・キザだったか、俺?」


隣にいた紅葉に聞いて見る。


「そうですね、少なからずキザでした。」

「・・・わざとじゃないんだけどな・・・。」

「分かってますよ。春夏さんも分かってるはずです。ただ、素直になれないんだと思いますよ。」

「・・・そうだといいけどな・・・。」

「大丈夫ですよ。さ、行きましょう。」

「・・・そうだな。」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「・・・私が可愛い、か。」


春夏さんと秋冬さんが何やら話している。春夏さんの顔が少し赤いのを見ると、どうやらさっきのお礼を言っているようだった。

私は二人から視線を外し、ミニスカートが並んでいる棚のほうを見る。


「・・・私も頑張ってみようかな・・・。」


そう呟いて、私はその中の一つにそっと手を伸ばした。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「どういう心境の変化だ?」

「いえ、別に。ただ、秋冬さんのおかげで少し自信がついただけです。」

「へぇ。じゃ、それは俺が買ってやるよ。」

「え?そ、そんな、悪いです!」

「いいんだよ、記念だろ?」

「そ、そんな、記念だなんて・・・。」

「え、何、紅葉ちゃん秋冬に買ってもらうの?秋冬、私にも買って!」

「別にいいけど、あんま高いの買うなよ?」

「はーい。」

「・・・じゃあ、お願いします。でも、お金大丈夫ですか?」

「ああ、俺は別に使うことないから結構あるんだよ。だから問題なし。それより、お前これちゃんと試着したのか?」

「あ、忘れてました。」

「何やってんだよ?先に試着して来い。」

「あ、はい、分かりました。」


そう言って、紅葉は試着室に小走りで向かっていった。俺はその後をゆっくりついて行く。


「あの内気な紅葉がミニスカートねえ・・・。ちょっと想像できないな・・・。」

「あ、秋冬〜、私も決めたよ!どう、このスカート?」

「着てみなきゃ分かんないだろ?試着して来い。変なの買ったら嫌だろ?」

「私は秋冬にもらったものなら何でも着るけどね。」

「それでも一応選べるんだからいいやつ買えよ。」

「分かった、試着してくる。」


春夏も試着室へ走る。・・・店の中で走るなよ・・・。


「あいつはまたミニスカートか・・・。好きだな、あいつも。」


そして、五分経過。


「終わったよ〜!」

「ずいぶん長かったな、スカートに着替えるだけなのに。」

「女の子の着替えは時間が掛かるんです。それくらい常識ですよ?」

「はいはい、覚えておきますよ。」

「それでは一番、桜火春夏さん、どうぞ〜。」

「自分で言うなよ・・・。」


そんな俺のツッコミは無視して、試着室のカーテンが開き、中から上が制服、下が今選んだミニスカートというなんともミスマッチな格好で出てきた。

しかし、上が制服だという点を無視すれば、明るい赤のスカートは良く似合う。


「いいんじゃないか?」

「どういいの?」

「何かイメージにピッタリって感じで。赤い色が。」

「?まあいいや、じゃあ私これにする。それでは二番、星河紅葉さん、どうぞ〜。」


さて、注目の瞬間だ。似合っているとは思うが、やはり今まで見たことのない紅葉は気になる。

ゆっくりとカーテンが開き、中から春夏と同じように制服に青いスカートというミスマッチな格好で紅葉が出てきた。


「「・・・。」」

「ど・・・どうですか?」


顔を真っ赤にして紅葉が聞いてくる。どうも何も・・・。

俺と春夏は顔を見合わせ、一度頷き、せーので、


「すっげー似合ってる!」「すっごく似合ってる!」

「ほ、本当ですか?」


少しはにかんだ笑みを浮かべた。

新鮮というか何と言うか・・・。とにかく、似合ってることに変わりはない。


「本当だよ!あ〜あ、もったいないな。もっと早く気付いてればよかったのに。」

「そうだな。ま、今日発見できたからいいだろ。それより、とっとと買おうぜ?時間なくなるぞ?」

「あ、そうだった!秋冬、紅葉ちゃん、早く早く!」

「は、春夏さん!着替えるの忘れてますよ!」

「忘れてるんじゃないよ。このまま着て買うんだよ。別にいいでしょ?」

「よくないですよぉ!」

「・・・普通はそこまで必死に説得しなきゃいけないことじゃないんだけどな・・・。」


そんな俺のコメントは、必死に言い争っている二人には届いていなかった。

数分に及んだ紅葉に必死の説得により、春夏は渋々といった感じで着替え始めた。

・・・一応これが常識なんだが・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「次はどこ行く〜?」


今出てきた店の紙袋を嬉しそうに振り回し、春夏が満面の笑みで聞いてくる。


「新しくできたのは何だったっけ?」

「ゲーセンと本屋。」

「お前らどっち行きたい?」

「ゲーセン。」「本屋。」


見事に食い違う意見。まあ、こうなるだろうとは思っていたが・・・。


「先に本屋でいいだろ?本屋に行った後ゲーセンで時間潰して、時間になったら帰ればいいんだし。」

「・・・分かった。」

「よろしい。で、どこにあるんだ?」

「知らない。」

「「・・・。」」


絶句した。というか、絶句以外に選択肢がなかった。


「・・・?どうしたの、二人とも?」

「・・・どこまで本気なのかが分からない・・・。」

「全部本気だけど?」

「それすらも嘘に聞こえる・・・。ゲーセンの場所は知ってるのか?」

「うん。」


やっぱりそうか・・・。仕方がない、か。


「紅葉、悪いけど今日は本屋はなしだ。行くに行けないからな。」

「そ、そうですね・・・。」


紅葉は苦笑いでそう言い、はあ、とため息をつく。


「そんなに落ち込むなって。今度俺が連れてってやるから。」

「え、ええ!?そ、そんな、悪いですよ!」

「・・・なんでそんなに慌てるんだ?」

「だ、だって、それって、デ、デ、デート、って言うんじゃ・・・。」


最後の方は聞こえないほど小さな声だったが、何とか、辛うじて聞き取ることに成功した。

そしてそれを聞いて、紅葉が俺の言ったことをどう理解したのかを知り、慌てた。


「あ、いや、そういうんじゃなくて、ただ、何か残念そうにしてたからさ・・・。」

「い、いえ、別に嫌じゃないです、というか嬉しいです・・・。その、ぜひお願いします・・・。」

「あ、ああ、また今度な・・・。」


そんな風にお互い照れながら会話をしていると、一人話から取り残された春夏が頬を膨らまして介入してきた。


「紅葉ちゃん!抜け駆けは許さないよ!」

「は、春夏さん!い、いえ、そんな、抜け駆けだなんて・・・!」

「いいから行くわよ!何話してたか知らないけど、顔赤くしちゃってさ!もうっ!」


そう言うと春夏は紅葉の手を引いてゲーセンに続くと思われる道を進んでいった。

そんな二人の後を、俺は慌てて追った。


「ここよ、ここ。」

「うわ、でっかいな・・・。」

「・・・ここ、うるさいです・・・。耳が・・・。」


しばらく歩くと、俺達三人の前に巨大なゲームセンターが現れた。

中には膨大な量のゲームがあり、それぞれから音が出ているのでほとんど騒音に近かった。

普段こんなところに入らない紅葉は、そんな爆音のような音に苦悩していた。


「で、何からやる?レース?アーケード?シューティング?」

「シューティング!」

「またか・・・。」

「秋冬さん、『しゅーてぃんぐ』って何ですか?」

「ゲームの種類だよ。って、そんなことも知らないのか?」

「こんなにうるさい所来たことないんですよ。何する場所なんですか?」

「ゲームセンターなんだから、ゲームする所だよ。」

「・・・私、ゲームなんてやったことないんですけど・・・。」

「ま、そうだろうな。」

「秋冬〜、先に始めちゃうよ?」

「あ、待てって、今行くから!紅葉、お前も迷子にならないようについて来い。」

「子ども扱いしないでください!」


そう言う紅葉を無視して、俺は春夏が立っている場所の横にあるゲーム機の前に立つ。


「準備はいい?」

「いつでもどうぞ。」

「オッケー!それじゃ、行くよ!」


春夏はそう叫ぶと、小銭を入れてゲームを開始した。


「これってどういうゲームなんですか?」

「まあ簡単に言うと人を撃つゲームだな。」

「えぇ!?だ、ダメですよそんなことしちゃ!」

「本当に弾が出るわけじゃないから大丈夫だよ。まあ見てなって。俺と春夏は意外とうまいんだぞ、これ。」

「は、はあ・・・。」


そういって不思議そうに俺の後ろに立つ紅葉をよそに、俺達はゲームを開始した。

ストーリーは春夏が全てスキップしてしまった。


「俺ああいうの見るほうなんだけどな・・・。」

「そんなことしてたら時間の無駄でしょ?今日は時間ないんだからあんなのスキップするに限るわ。」

「ったく・・・。」

「・・・っと、秋冬、始まったよ!」

「はいはいっと!」


ゲームが始まると、俺達は少し真面目モードになった。


「秋冬、右の奴お願い!」

「了解!・・・春夏、上から行ったぞ!」

「分かってる、今倒したから安心して!左の奴もお願いできる!?」

「任しとけ!」


そんな風に互いに声を掛け合いながら、次々とレベルをクリアしていく。

ふと紅葉を見ると、そんな俺達の様子を唖然として見ていた。

そして、十数分後・・・。


「これで・・・!」

「ラストォ!」


そう叫んで二人同時にラスボスに銃弾を叩き込む。ラスボスは悲鳴を上げて崖下へと落ちていった。


「ふう・・・。」

「やった、ノーミスクリア!」

「す、すごいリアルですね・・・。本当に撃ってるように見えました・・・。」

「まあ、最近のゲーム技術は進歩してるから、これくらいはどのゲームも当然何じゃないか?」

「そ、そうなんですか・・・。意外と奥が深いですね、ゲームって。」

「そうか?」

「キャー!秋冬、見て見て!私達一位よ!」

「最近出来たばっかりなんだったらやった奴も少ないからだろ?」

「それでも他の人の点数を圧倒してますよ?二人ともそんなにうまいんですか?」

「並大抵の奴よりはうまいぞ。ノーミスクリアなんて早々出来るもんじゃないと思うぞ、俺が言うのもなんだけど。」

「す、すごいですね・・・。こういう場所にはよく来るんですか?」

「最近は来てなかったけど、学校のサボり中とかに来たことはあるぞ。まあ、その前も中学の時は時雨とかと来たことあるけどな。」

「そ、それはまずいんじゃ・・・。」

「あ、秋冬、次はこれ一緒にやろ〜!レースゲーム!」

「分かった分かった。紅葉、お前も一緒にやるか?」

「え、でも私がやったらお金の無駄になるだけじゃないですか?」

「元々ゲーセンなんて金を無駄使いするだけだから、全然問題ないよ。それにレースゲームならそんなに難しくないしな。」

「そ、そうですか?それじゃあちょっと・・・。」


紅葉はそういいぎこちない感じでゲーム機に座る。

アクセルやブレーキの位置、基本動作などをある程度教えて、俺も隣の席に座る。


「秋冬さんはレースゲームも上手なんですか?」

「いや、レースゲームは人並みだと思うよ。」

「そうですか、少し安心しました。春夏さんは?」

「あいつはどのゲームも尋常じゃないくらいにうまい。」

「・・・やっぱり安心できません。」

「始まるぞ、準備しろ。」

「あ、はい。えっと、これがアクセルでこれがブレーキ、これでギアを変えて・・・。」


さっき俺が教えたことをざっと復習している。こいつは要領がいい上に真面目だからたぶんいけるだろう。

そんなことを考えている間に、ゲームが始まった。俺は慌てて画面に視線を戻す。

カウントダウンが終わると同時に、他の車も一斉にスタートした。

そんな中を余裕ですり抜け一気にトップに出たのは、やはり春夏の車だった。

あいつのこの才能をもう少し勉強の面で生かせないものか・・・。


「紅葉、どうだ?」

「い、今のところ何とかついて行けてますけど、難しいですね・・・。」

「まあ最初はな。つーか、今日始めてやった奴がここまで出来れば大したもんだぞ?」

「そ、そうですか?」

「ああ。やっぱお前は要領がいいんだな。・・・あ!」


余所見をしている間に、いつの間にか車がカーブに激突していた。

そのせいで、他の車に一気に離され最下位に成り下がってしまった。


「あちゃ〜・・・。」

「だ、大丈夫ですか?」

「これもう復帰は無理だな。お前はどうだ?」

「私は一応まだついていけてます。」

「そうか。春夏、お前は?」

「そりゃもちろんぶっちぎりでトップに決まってるでしょ!」

「ま、そうだろうな。」


しばらくしてレースは終わった。春夏は他の車より三十秒ほど早くゴールした。もはや神業の領域だろう。

紅葉は悪戦苦闘しながらも、何とか最下位は免れてゴールを果たした。・・・ちょっとした敗北感に陥った。

その後、俺達は様々なゲームを楽しんだ。

アクションでは春夏に負け、紅葉にはかなり苦戦しながらも勝利した。経験者の面目丸潰れである。

運試しにと試したルーレットでは、春夏は大当たり、紅葉は悪くない当たり、俺は完全なハズレという結果に終わった。

・・・結局、この日、俺はほとんど色々と負けっぱなしだった気がする。


「はあ、楽しかった。でも、もう時間ね。」

「こういう所には始めてきましたけど、以外に面白いんですね。今度また来ましょう。もちろん時雨さんも一緒に。」

「・・・俺は今日なんだかすごく悲しくなった。」

「・・・大丈夫ですか?かなり元気がないように見えますけど・・・。」

「色々と負けたからちょっと悲しくなったんじゃない?」


春夏の言葉が、俺の胸にグサリと音を立てて突き刺さった。


「・・・俺は悲しい・・・。」

「あ、秋冬さん、しっかりしてください!」

「大丈夫よ、いつものことだから。あ!」


春夏は何かを見つけたのか、急に走り出した。


「今度は何ですか?」

「新しいゲームでも見つけたか?」


悲しみから復活した俺も春夏が消えたほうを見る。


「秋冬、紅葉ちゃん、プリクラ撮ろうよ!」

「『ぷりくら』って何ですか?」

「写真を取ってそれを色々と編集して、シール形式でその場で印刷してくれるんだよ。」

「へえ・・・。」

「そんなに時間も掛からないし、せっかくだから撮ってくか。」

「そうですね。」

「早く早く〜!」


春夏が俺達を急かすので、小走りで春夏の元に向かう。


「俺最近の奴は色々複雑だからよく分からんぞ?」

「大丈夫、私が全部やってあげるから。」

「あっそ、じゃあ全部任せるから、何か適当なの選んでくれ。」

「オッケー。」


そう返事をして、春夏は黙々と何かをしている。


「よし、準備オッケー!はい、並んで並んで!」

「はいはい・・・って何だこのフレーム!?」

「は、春夏さん!こ、これって・・・?」


映し出された写真撮影画面には、大きなハート型に縁取ってある背景が浮かんだ。


「いいからいいから!あ、秋冬、もうちょっとかがんで。」

「は?ま、まあいいけど。」

「そのくらいでいいよ。」


そう言うと、春夏は突然俺に抱きついてきた。

突然のことに俺はおろか、紅葉まで呆然としていた。


「何ボーっとしてるの?紅葉ちゃんも早く抱きついて!」

「え、ええっ!?」

「これは私達の想いを残すための記念の写真なんだから!」

「で、でもっ・・・!」

「ここで何もしないならこの勝負は私の勝ちよ?」

「・・・!わ、分かりましたよ!」

「・・・!いやいや、よくないから!」

「秋冬、暴れないで!あと三秒で終わるから!」

「秋冬さん、失礼します!」

「な、も、紅葉まで・・・!ちょ、ちょっとま・・・!」


カシャっ!


そんな音が鳴り響くと同時に、二人が俺から離れた。


「よし、出来た!」

「・・・何というか・・・。」

「・・・。」


外に出てきた写真は、見ているだけでどんな状況かが分かるような写真だった。

俺に幸せそうな顔で抱きついている春夏。

顔を真っ赤にして俯き、俺の腕に抱きついている紅葉。

そして、そんな二人の間で顔を赤くして慌てふためいた顔をしている俺。

とても楽しそうな写真が出来上がっていた。


「ま、まあいいんじゃないか?」

「そ、そうですね。思っていたよりは・・・。」

「でしょ?さ、そろそろ帰ろうか?」

「あ、ああ、そうだな。」

「は、はい。」


こうして、俺達のたった三時間の時間は終わり、俺達は駅へと足を進めた。

全員が顔を少し赤らめながら・・・。

いかがでしたか?

今回はかなりコメディーを入れてみたつもりです。

おそらくこれから先もこんな感じに続くと思いますが、どうかお付き合いください。

それでは、〈下〉を楽しみにしておいてください。

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