COMICAL FILE 1 : 秋冬の妹
今回は今後もチョコチョコ登場するサブヒロインの登場です。
今回、サブタイトルを変えてみました。
CASE=事件なので、今回はメインがコメディということでCOMICAL=喜劇ということにしました。
色々と安定したら今後も色々説明的なもの(登場人物紹介など)を入れていこうと思うのですが、その場合はSIDEにしようと思っています。
まあ、COMICALとSIDEは次の謎を考え出すまでの穴埋めと考えてもらっても結構なのですが、こちらも楽しんでください。
「秋冬、起きなさい。遅刻するわよ?」
「ん〜。」
やる気のない返事を返して、ベッドからもぞもぞと這い出す。洗面所に言って顔だけ洗い、部屋に戻り制服に着替える。
今日は妙に目が覚めている。何故か?
答えははっきりしている。昨日、春夏に告白されたからだ。
つまり、紅葉は助けてもらった俺に惚れてしまい、春夏も俺に好意を寄せている。
「・・・見事なまでの三角関係だな・・・。」
まったくうれしくはないのに、感心してしまう。ここまで完璧な三角関係が現実にあるのか・・・。
まあ、今はとりあえず学校に行こう。あれこれ考えるのはそれからだ。
そう思い部屋を出た瞬間、左側のドアが開き、中から一人の少女が出てきた。
黒い髪に黒い瞳。村西高校の制服を着ている。
頭の両側に髪で団子を作っている。少し変わった髪形だと思う。
そんな格好のこいつは・・・。
「あ、お兄ちゃん。おはよ。」
そう、こいつは風雪涼美。俺より一つ年下の、義理の妹だ。
「ああ。どうしたんだ?今日は随分家を出るの遅くないか?」
「昨日ね、千雨ちゃんが急にアメリカに引っ越しちゃったから一緒に登校する人がいなくなっちゃったの。だから、今日からはお兄ちゃんと一緒に行くからね。」
「別にいいけど、春夏とか紅葉とケンカするなよ?」
「え、紅葉姉ちゃんも来るの?」
「多分な。」
「?」
俺のその言葉に、こいつは微笑を浮かべたまま首を傾げるだけだった。
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「そんじゃ、いってきます。」
「いってきま〜す!」
「はい、いってらっしゃい。」
母さんに挨拶して、家を出る。するとすかさず、
「秋冬、おはよ。あれ、今日は涼美ちゃんも一緒なの?」
「秋冬さん、涼美さん、おはようございます。」
「やっぱり二人ともいたのか・・・。」
「おはよ、春夏姉ちゃん。でも、何で紅葉姉ちゃんまでいるの?」
「それはもちろん、一緒に登校するからですよ。」
「そりゃそうだと思うけど、何で急に?」
「そ、それは、その・・・。」
紅葉、言わないほうがいい。別にこいつは今知らなくても・・・。
「それはもちろん、私も紅葉ちゃんも秋冬のことが好きだからよ!」
「は、春夏、バカ・・・!」
「バ、バカって何よ!?本当のことを言っただけでしょ!?」
「・・・お兄ちゃん、それ、ホント?」
涼美が俯いて、少し低い声で聞いてくる。心なしか、声も少し震えている。
俺は観念して、
「・・・そうらしい。」
「『らしい』じゃなくて、本当ですよ。」
紅葉・・・。お前まで・・・。
「お兄ちゃん・・・。」
その声を聞いて、思わずとっさに身構える。
「怒られる!」それだけを考えて身を守ることに徹していた。
だから、涼美の反応はあまりに予想外だった。
「・・・ダメー!お兄ちゃんは私と結婚するの!」
「「「・・・。」」」
俺たち四人の間に、気まずく、長い沈黙の時間が訪れた瞬間だった。
実際には何分だったか、いや、何秒だったかも分からない。
他の三人がどれくらいに感じていたのかも分からない。
ただ、俺にとってはそのたった数秒の沈黙が何時間にも感じられた。
「・・・へ?」
その沈黙を打ち破ることに苦労しながら、やっとの思いでそれだけを口にし、涼美がどういう意味で言ったのかを確認する。
「だから、私がお兄ちゃんのお嫁さんになるって行ったの。」
それでも、答えが変わることはなかった。ふと俺の後ろをみると、他の二人はもう我に返っていた。
俺は目で合図を送る。二人はそれをちゃんと受け取り、頷く。
俺はそれを見て、再び前を向き、出来る限り前を向く。
なんだか少し前にも同じようなことがあったような気がしないでもないが、そんなことを考えている余裕は今の俺にはない。
肺活量の最大まで息を吸い込んだ後、少し待ってから、大声で、
「「「えええええええぇぇぇぇぇぇ!?」」」
俺、春夏、紅葉の三人で見事な三重奏を奏でた。
「わ!?何よ皆で、びっくりした〜。」
「びっくりはこっちよ!秋冬と涼美ちゃんは兄妹でしょ!?結婚できるわけないじゃない!」
「そんなことないよ、私たち血はつながってないんだから。」
「そ、それでも、さすがに義兄妹でも結婚はどうかと・・・。」
「あらあら、皆楽しそうね。」
「あ、お母さん!何でここに?」
「家の外で大声が聞こえたから、びっくりして出てきたのよ。そんなことよりあなた達・・・。」
「「「「?」」」」
「遅刻しちゃうけど、いいの?」
「「「「・・・あああああぁぁぁ!」」」」
今度は涼美も加わり、四重奏を奏でる。
「い、急げ、俺とその他はいいけど、紅葉はまずいだろ!?」
「わ、私だってよくないわよ!早く行かないと!」
「お兄ちゃん、私のこと『その他』なんて言わないでぇ!」
「と、とにかく急ぎましょう!」
紅葉の言葉を合図に、俺たち四人は一斉に走り出す。
・・・先ほど、「見事なまでの三角関係」といったのを覚えているだろうか?
訂正しよう。「見事なまでの三角関係」ではなく、「見事なまでの四角関係」だ。
その後、俺達は残り十秒を切ったところでギリギリ間に合った。今は授業が開始しておよそ五分が経過したところだ。
道中、運動神経皆無の紅葉がぶっ倒れそうになったので俺がおんぶしていたので、かなりの体力を浪費した。
こんなときはやっぱり・・・。
「居眠りだ!」
と思わず声に出して叫んでしまった。クラス中の視線が俺に集中する。
この状況で「しまった!」と思わない人間はいないだろう。なぜなら、先生が俺を睨んでいるのが確認しても分かるからだ。
「風雪、お前また居眠りする気だったろ?」
心の中でため息をつく。
まあいい。ここまで立派に始めてしまったからには、立派に終わってやろう。
「滅相もない!」
俺は大げさな動作でそう声を上げる。すでにクラスの数人がくすくすと笑っている。
「自分はただ、授業が終わるまで目と体を休めようとしていただけであります!」
その言葉を聞いて、クラス中が笑いに包まれた。中には、春夏や紅葉の笑いも含まれていた。
「なるほど、そんなに疲れているのか。」
「まあ、そうですね。」
「それなら、ここで授業を聞いているのも少なからず苦になっているのか?」
「そうなりますね。」
「それは大変だな。じゃあお前は今日授業には出なくていい。代わりに廊下に立っておれぇ!」
「はい!ありがとうございます!」
そう返事をして、先生に向かって敬礼する。
クラスの中から笑いに混じって歓声が沸きあがった。
「何をやっとるか!拍手などせんでいい!」
先生がそんなことを言ってる間に、俺は自分の席を立ち上がり、教室の出口に向かう。
そんな俺を送るかのように、歓声と拍手がひときわ大きくなる。
俺はそれに答えるように軽く手を上げると、そのまま教室を出て行った。
「・・・さて。」
屋上にでも行って、今日はもうサボるか。
数分後、学校中に先生の怒号が鳴り響いた時には、秋冬は既に屋上で寝ていた。




