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Dr.Letter  作者: 黒駒あいぜん
序章【3人の出会い】
11/12

11話 臆病者


 構えた私は家の壁を交互に蹴りあげ部屋に足を置き、部屋の上に立っている男に向け刀を振り上げる。向けた切先は男の首元へと吸い込まれていき、やがてその首を――


「クソッタレ!!」


 ――斬ることは出来ず、男は持っていた片方の銃で私の刀を受け止める。


 そのまま刀を力のままに振りほどいて、後方へと数歩勢いをつけて下がっていく。

 私と男は屋根の上で、対峙し合うことになる。相手は忌々しそうに私を見て、私は刀を構え直す。


『いくよ、アオイ』


「……ああ」


 カルナ殿から緊張入り交じった合戦合図を聞く。その声が男に聞こえていたのかいないのかは分からないが、彼は銃を持っている両手を小さく動かした。


『――走って、あの男を斬って!』


 カルナ殿から戦闘へと体勢を移り変える号令を聞き届けた瞬間、目の前の男も私へと二丁の銃を向けてくる。

 眼前に映る二丁の銃。私はそれらから一切目を離すことなく男へとただ走る。


 続けて聞こえてくるのは発砲音。それも一つではなく連続に何発も何発も耳には届いてきた。


『避けて!』


 カルナ殿の声により、私は目の前の男を斬ることよりもまず弾を避けることを優先することになった。

 屋根の上という狭い空間の中で、男は私という目標物目掛けて銃を乱暴に撃ってくる。相手の規則性のない攻撃に少し混乱してしまうが、私と男との距離は着実に狭まっていた。


「ッ!」


 男はだんだん距離を縮めてきた私を憎らしげに見て、小さく舌打ちを打ったかと思うと突然銃を撃つことをやめて後方へと逃亡していく。

 そして屋根から勢いをつけて飛び降りたかと思うと、私が今立っている屋根の家に向けて、静かに一丁の銃を構えた。


 私はそんな彼の行動に疑問を持ちつつも、急いで追いかけようとした。


『アオイ! 気をつけて!』


 耳元で、彼女の大声が聞こえた。


 その時、私は見た。


 男の構えている銃のすぐ前に、私がこの国の街中でよく見かけた、いわゆる“空中でぃすぷれい”のような青いものが浮かんで、一瞬で消えたかと思うと、



 ―――― 赤壊銃:瓦解 ――――



 彼は一発の銃を発射した。そして、今私の立っている家に命中したかと思うと、


 その瞬間。


 私の、立っていた家が眩い光とともに、()()()()


「ッ!?」


 私は爆風に巻き込まれ後ろへと吹き飛ぶことになった。そのまま地面へと転がり落ちて、思い切り胴体をぶつけることになる。


「ガッ……!?」


 さすがに、とんでもなく痛かった。肺の奥から息が無理やり吐き出されてしまい、咳が何度も出てしまう。己の身体を見やれば、先程まで立っていた家の小さな残骸が刺さっていた。


 唯一良かったことといえば、私が爆風に巻き込まれてなお刀を離さなかったことだろうか。


『アオイ! だ、大丈夫……?』


「大、丈夫、では、あまりないな……」


 ゆっくりと立ち上がって、身体に刺さっていた木くずなどを抜き取っていく。少々痛かったが、爆発に巻き込まれてこれだけで済んだのだから贅沢は言えない。


 しかし……


「今のは……なんだ」


 本当に突然の事だった。彼が構えていた銃の前に“空中でぃすぷれい”が浮かび、銃から弾が発射され、家に着弾した瞬間に家が爆発した。

 火薬の山でも家の中にあったのか?

 だが戊辰戦争で嗅いだ時のような独特な匂いはあの家からはしなかった。だとしたらあの爆発は本当に……。


『ッ! アオイ! 避けて!』


「ッ!?」


 油断していた。私の背後にいつの間にか男がおり、二丁の銃を今まさに撃たんとばかりに構えていたのだ。彼は気色の悪い笑みを浮かべて銃発射する。

 私はその弾を、以前と同様カルナ殿の言葉に突き動かされ避けようとする。

 しかし、何故だか先程のように身体が自然と動くことはなく、刀を持っていない腕に弾を受けてしまう。


「アオイ!?」


 弾を受けた衝撃で後ろへと下がってしまい、体勢が崩れる。男はその隙を見逃さないとばかりに銃を連射してきて――


「――――!!」


 私はそれらの弾を、重たい身体を無理やり動かし何とか避ける。だがやはり無理に身体を動かしてしまったためか、もしくは痛みからか視界が揺らいでしまい地べたに手をついてしまう。


「……はっ、無様だなぁ」


 そんな私のもとへと、男のものだろう声が届いた。彼は嘲るように私へとゆっくり近づいてきて、地べたに手をついていた、銃を受けた方の腕を強く踏みつけてくる。


「ガ……ッ!」


 私は即座に立ち上がり男へと刃を振り下ろし……たかったのだが、やはり何故か先程同様身体がピクリとも動かない。


『アオイ! 立って! お願い立って!』


 耳元で、彼女の懇願にも近い叫び声が聞こえてくる。だが私の身体は、彼女の言葉に反応することなく沈黙したままだ。


「動かねえだろ、身体。そういう効果だからなあ、さっきの技は。小説家(ノベリスト)の単調過ぎる指示を、遊戦者(プレイヤー)へ送るのを鈍足にする。あの姉ちゃん、見る限り小説家じゃなかったし、まさかこの技が役立つとは思わなかったぜ」


「……技?」


 私は上を見上げるように男を見る。すると男は依然変わりなく気色の悪い表情を浮かべながら笑っていた。


「お前、そんなことも知らねえのか? このゲームに入ったってことは、“スキル”も使えるって事だろうが」


「す、きる……?」


「……知らねえならまあいいや、説明してやる義理もねえし。あの姉ちゃんからなんも聞いてねえのな、お前。いや、あの姉ちゃんも知らなかったって可能性もなるのか。だったら不運だったなあ」


 そう言って、彼は大声で笑い始める。下品に、下卑た笑いを響かせ続ける。私は彼の言う単語のほとんどが理解出来なかったが、彼が今私達を侮辱していることは分かる。

 私は何とか立ち上がろうとする。だが、カルナ殿がいくら「立って!」と言っても、私の身体が反応することはなく、一向に状況は変わらなかった。


 やがて、男は笑うことにすら飽きたのか、私の顔へと一丁の銃を突きつけてくる。


 そして私に、とある言葉を放ってきた。


「まあ何も知らなかったことを呪いながら死ねよ、サムライみたいな兄ちゃん。あの“臆病者”の小僧にもよろしくな」


「――――――」



 ……………………。



「……今」


「あ?」


「今なんと言った」


 私は一度頭を下げ、そして男を再度見やるために頭を上げる。すると男は、まるで恐ろしいものを見てしまったかのように顔を歪める。


「ふざけるなよ」


 私は満足に動かない身体を無理やりに動かし、自分に向けられている銃を掴む。すると男は突然のことで驚いたように銃を私の手から剥いでくる。


 しかし、私の口は止まらなかった。


「初めて彼を見た時から考えていた。何故彼はあそこまで傷だらけだったのかと。貴様らは集団で彼を襲ったのだから“本”とやらを奪うのは容易かっただろう。だが、彼があそこまで傷多かったのは、彼が抵抗したからだろう。抵抗したからこそ、何度も何度も彼に暴行を働いたんだ」


 これこそ、私が男達から本を取り返そうと思ったきっかけ。彼の、見た目などで隠れていた“男子”たり得る充分な証拠だった。


「彼は、臆病者などではない。貴様らが言うべき言葉ではない」


 彼は戦ったんだ。一人で、この外道共に。


「取り消せ……! 取り消せ!! 彼を、彼のことを、“臆病者”と言ったことを!」


 彼は歪んだ表情のままに、私から銃を離した後私へと再び銃を向けてきた。そして終止符を打つべく弾を放ってくる。


 私は――



『――放たれた銃の弾を見やった後、片方の手に力を込める。まるでその瞬く間の出来事を鈍間に感じながら、向かってくる弾を、()()


 向かってきた弾を、()()()


 それは、本当に一瞬の出来事だった。


「は……!?」


 男は目を見開いて驚いていた。私自身も驚いている。まさか、先程までピクリとも動かなかった身体が、こうもあっさり動いてしまうとは、と。


「なんでだ!? だってあの女は小説家じゃないんだろ!? そんな詳細な【描写】、誰が……」


 そこまで言って、男は何かに気づいたような表情を見せる。そしてどこか、私達以外の何かを睨みつけるようにして顔を歪めた。


 私も、先程聞こえてきた()()()()に、少し驚きを隠せないでいる。


「――あの野郎!!」


「――ヨアン殿」


 私は、彼を呼ぶ。


『……ハい。突然、すミマせん』


 ヨアン殿は答えた。


「……ありがとう」


『――はい。コチラこそ、あリガとうゴザいまス』


「クソがああああああ!!」


 男の叫び声が響く。彼は叫びながら、私へと二丁の銃を向けてきて、指がはち切れんばかりに連射をしてきた。


『向かってきた弾は全十二発。左斜め横、真上、右下、右下、真下、真正面、右斜め下、真上、右、右上、真正面、左斜め横。全て斬り伏し、刀を構え直す』


「ッ!?」


『次は、こちら側が彼に向かって走り出す。下段の構えをしながら息を整え、ただ一心に集中する』


「クソ! クソッタレ!! なん、なんでだ!?」


「――受け入れろ、お前こそが“臆病者”だ」


『息を吐き出し地面を足で叩きつけ、片足を軸にしながら刀を振るう』


「ッ!?」



 ―――― 下段:餓鬼阿修羅 ――――



 それは、本当に、一瞬の出来事だった。


 下段の構えから出された技により男の頭が飛び、地面に転がる。

 私はすぐ側で体勢を崩し倒れる男の身体だったものを眺めながら、刀から血を振るい落とし、鞘へとしまう。


 やがて周りの世界までが崩れ始め、私の、数分間の日ノ本帰りは終わりを告げる。まあ、ここは本当の日ノ本ではないと言うし、少しでも懐かしさに浸れただけでも上々だったと言えるだろう。


 私も、弾の当たった腕から血を流しながらただ立って、そして目を閉じた。


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