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第二章 幕間 ティアナの苦悩

今日もまた……夜がやってくる……。


「いやぁ! 来ないでぇ!」


 今日も3人で一緒に眠っていたけれど、私がシーツを跳ね飛ばして飛び起きたのをサラさんがすぐに抱きしめてくれた。

 頭の中に、あの男達が私に手を伸ばしてくる光景が鮮明に流れ出してきて、恐怖で涙が溢れてくる。


「大丈夫よ……ここは安全な所。あなたを苦しめる存在なんて何もないわ」


 サラさんが優しく髪を撫でてくれる。

 隣ではアイシャさんもそばで優しい顔で見守ってくれていた。


「大丈夫……大丈夫……」


 かなりの時間そうしていただろうか。

 恐怖で震えていた身体も少しずつ収まっていく。


「ありがとう……ございます……」


 サラさんとアイシャさんにお礼を言い、大きなベッドの上で私はもう一度身体を横たえ眠れるように祈りながら眼を閉じた……。


 ▽


「よろしく……お願いします」


 ここはフッケの街。

 そして少し前から、私たちは冒険者ギルド横の大きなお屋敷を借りている。

 ここを拠点に鍛錬場という所の攻略を始めるらしく、その前に私はこのノイシュ王国にいる魔法使いさんに火属性魔法習得の教えを受けている。


「ウオッホン!……よいか? 魔法の発動には、魔力をため込むための触媒、すなわち剣や杖などが必要じゃ。手順としてはまず、魔力を触媒に集め、一定の段階で魔法を唱えて固定化、そして魔法を撃つこれが基本的な流れじゃ。そして……」


勇者様のお話では、この高齢の魔法使いの方は王国でも有数の魔法使いらしくて、魔法を習う人達の学校でも教師として教えているらしいけど、高いお金を出して無理にここまで来てもらったそうだ。


そのせいか私を睨みつけながら嫌そうに魔法を教えている。


ある程度の『炎の嵐(フレイムストーム)』の具現化を教わったところで、実践ということでギルドの闘技場に場所を移すことになった。


眼を閉じ、目標としておかれた木の人形に向けて両手を掲げる。

魔力が減っていくのは分かるのに、上手く触媒である短剣に魔力を集められない……。

焦りばかりが募っていく。


「はぁ……はぁ……」


これ以上は自分の魔力を減らしていくだけだと思い、一旦集めるのを止めた。

その瞬間、ドッと疲れが出てきて息が荒くなる。


魔法使いがチッと舌打ちをしながら私に近づく。


「何故発動出来ぬ? せっかくワシが直々にここまで来て教えてやっとるんじゃ! お主が出来なければワシが無能と思われてしまうじゃろうが!」


魔法使いの方はふんっと鼻息荒く、吐き捨てるように私を罵る。


「これだからこんな子供に魔法を教えるのは嫌いなんじゃ。ワシの教え子達にもっと才能のあるやつなどいくらでもおるんじゃし、こんな小娘じゃなくてもその者達から選べばワシの為にもなるのにのう!」


悔しさで涙が出そうになる。

勇者様に君は賢者になれるかもと言われたのに……自分の無力さが身に染みる。


「まだ……やれます!」


魔力が減って疲れの残る身体を押して私はもう一度立ち上がり、短剣に魔力を込め始める。

眼を閉じてぐっと唇を噛み、両手を掲げると、また魔力が減っていくのを感じるが……。


「くっ……だめ……」


けれど……魔力を短剣に込めようとしても、上手く集めることがどうしても出来ない。

今度は立っているのもやっとなほどの疲れが全身を襲い、魔法を中断せざるを得なかった。


「今日はここまでじゃな……全くこれではいつになったら勇者一行は鍛錬場に挑戦できるのやら」


と魔法使いはそう言い捨てて先に闘技場から出て行ってしまった。

その様子を私はじっと見ていることしかできず、俯いていると地面に涙が何粒も落ちていく。


「私は……弱いままなの……? 強くはなれないの?」


その後はどうにか重い体を引きずって屋敷まで戻り、着替えもせずにベッドに倒れこんだ。

勇者様について行こうと決めた日、あれだけ決意した事がいとも簡単に崩れそうになる。


「フォスターに帰りたい……」


けれどそれはもう出来ない事。

リューシュに、そしてフォスターに別れを告げた自分が今更おめおめと戻れるわけもない。


急に睡魔が襲ってきてまぶたが重くなる。

眠ればまたあの夜の事を思い出して私は飛び起きるのだろう。

けれど今は、眠りたいという気持ちに任せて目を閉じた……。



それから何日か『炎の嵐(フレイムストーム)』に挑むも、成功する気配はなく、その度に魔法使いの方から何度も罵られ、笑われた。


どうしようもなくなった私は夜に屋敷で勇者様やサラさん、アイシャさんに魔法の具現化を聞いてみたけど、勇者様はとにかく頭にしっかりと思い浮かべればいいと一点張り。


サラさんは難しいことを考えないで意識を集中させればいいとのことで、参考になったりならなかったり……。

最期のアイシャさんに相談すると、


「そうね……あなた迷いがあるんじゃないかな?」


「迷い?」


「そう、魔法を発動させたいときに、何か迷いがあるとそれが邪魔をしてしまうのよ。もし迷いが今すぐ解決できるならやってしまうべきだし、解決できないなら……とりあえずは置いていくべきね」


「でも迷いを置いていくって……」


「変かもしれないわね。でもね、解決しないことをずっと心に留めておくよりはまずは出来ることをしっかりする。 物事にはね順番ってものがあるのよ」


迷い……思い当たることはいっぱいある。

けれど、今はもうどうにもならない……。


それならば私は強くなって賢者になることを目指そう。

捨てるわけじゃない。

置いておくだけ、強くならなくちゃここまで来た意味がないんだから!


アイシャさんの言葉を胸に、翌朝も闘技場で魔法使いの方と同じように『炎の嵐』に挑む。

いつもと同じように木の人形に向けて眼を閉じて、短剣に魔力を込めていく。


魔力を込めている間、頭の中にはいろんな思いが浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。

リューシュの顔、フォスターのみんな、そしてあの時の出来事……。


だめ――! 私は強くならなくちゃいけないの! 前に進まなきゃいけないの!


今までで一番うまく魔力を込められた気がする――!


「ここ! 『炎の嵐(フレイムストーム)』!」


その瞬間大きな炎の嵐が1本たちまち沸き上がり、木の人形を飲み込んでいく。

嵐が消えた頃には人形の有った周囲は焼け焦げ、何も無くなっていた。


「出来た……」


「なっ……なんだと……!?」


魔法使いの方は予想外のことに驚いていたようで、その後、よく出来たではないかと吐き捨てるように言ってきたたけれど……私は気にしない――!


強くなってみせる……そして賢者になってみせる……。

私は……深く……深く心に誓った。

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