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第二章 7話 剣とは力とは 

今回からリューシュの名前が変わります。

リューシュ→ムミョウ

時折の回想などでは出るかもしれませんが基本はムミョウで通していきます。

 ――わしの弟子にならんか?――


 突然のトガさんの申し出に僕は驚いた。


「え?……弟子……ですか? 」


「そうじゃ、こんな森の奥で出会ったんじゃ。これも何かの縁じゃしの」


「でもいきなり……」


「はっはっは!驚くのはムリもない。ただまぁわしは長いこと跡を継いでくれるような若者を探していたんじゃが、なかなか見つからなくてのう。結局この年になるまでわしの目に適ったやつはおらなんだ」


「僕は……そんな剣の才能なんてないですよ? 」


「いや、わしの直感がお前さんには才能があると告げておる! まぁ、そういう直感は当たったためしがないがな」


 老人は苦笑いをするが顔は真剣そのものだ。


「お前さんは遠く離れた街からワシの所までやってきた。

 これも運命じゃて、バーゼル様とやらがワシにお前を遣わしたんじゃろう」


「そっそんな……急に言われても……」


「無論、弟子になるかどうかはお前の自由じゃ。もし無理というなら別の街に送り届けてやろう」


 トガさんの言葉に僕は腕を組んで悩み始める。


 僕に才能が……?

 いや、そんな馬鹿な……バリーさんにだって1回も1本を取れたことが無いのに……。


 でも……このまま他の街に行ってしまったら……僕の人生は何もかも負けたまま。

 悔しい……悔しい……!

 強くなりたい!強くなってあの勇者を見返して‥‥もしまた会えるならティアナに強くなったねって言われたい!


 顔を上げて僕は力強くトガに応える。


「僕を……弟子にしてください!」


 その言葉にトガさんはしっかりと頷き返す。


「よくぞ言った! ではこれからわしのことは師匠と呼ぶがよい」


「はい! 師匠! これからよろしくお願いします! 」


「……」


「あの……? 師匠?」


 なんだかトガさんニコニコしだしたけど……


「もっかい……もっかい師匠って呼んでくれんか?」


「はっはい……? 師匠よろしくお願いします」


「うーん!師匠って言われるのがこんなに気持ちいいことじゃったなんて!」


 こうして僕はちょっと変な所のある剣の達人トガに弟子入りすることとなった。



 朝食を摂った僕とトガさ……師匠は早速鍛錬を始めることにした。


「とりあえずお主の剣筋を見たい。わしに構わず全力で打ち込んでみてくれ」


「はい! よろしくお願いします!」


 そう言ってすかさず前に踏み込み、渡されていた木の棒を振り上げて、正面に構えるトガへと打ち込む。

 トガはそれを難なく右手のみで受けると、つばぜり合いに持ち込むことなく跳ね返す。

 ならばとはもう一度右足を踏み込んで、今度は右から横なぎに払うがこれも右手一本で受けられてしまう。

 その後は突きに見せかけた斬り上げや、左右の横なぎ連続などフェイントや連続技、僕の持てる限りの技で何度も打ちかかるが、トガにはまるでどこを狙っているのか分かっているかのようにことごとく右手一本で受け止められてしまう。


太陽もかなり高く昇った頃、僕は疲れのあまり地面に座り込んでしまう。


「はぁ……はぁ……もう……ダメです……もう全然動けません」


 荒い息を吐く僕を横目に、トガはまるで息を乱すことなくニコニコ笑っている。


「ふむ。これはこれは……なかなかどうしたもんか」


「やっぱり……才能なんて無かったですか?」


「いやいや、その年で色々引き出しがあるから素晴らしいと思っていただけじゃ。確かに力はまだまだついてはおらんがの。 今までだれかに剣術を習っていたのか?」


「街にいた時に、引退した冒険者の方から習っていたくらいです……」


「ふむ……ならばまずはお主の土台作りからじゃな。ではリューシュよ、よく見ておれ」


 そう言ってトガは棒を地面に置くと、木に立て掛けてあった刀を取り、鞘から抜き出す。

 そしてゆっくりと正眼に構え、縦斬り・左右の袈裟斬り・斬り上げ・突き等の様々な動作を見せる。

 どれくらい経っただろうか。


 淀みのない、まるで剣の舞いのような美しい動作に僕は全く目を離すことが出来なかった。


 一連の動作を終え、刀を鞘に納めたところで大きく息を吐いたトガは僕を見た。


「さて、では今の型をお前にもやってもらうぞ。まずはお前の剣でやってみるといい」


 と促すので、地面に置いていた自分の剣を取って同じように構えを取り、見よう見まねで剣を振るってみる。


「あ~ちょっと腰が引けてる。背筋に芯を通すように!」


「はい!」


「足を上げない! 基本はすり足じゃ!」


「こうですか?」


「ほれ! 剣筋がブレておる! まっすぐ線を描くようにじゃ!」


「きつい……」


「剣を振った後はしっかり止める! 勢いに流されるな!」


「はぁ……はぁ……」


 その都度、師匠から注意された点を何度も直しながら、時間を掛けつつもどうにか1巡をこなす。

 たった1巡なのにすでに腕が震えだし、足の筋肉もパンパンで悲鳴を上げている。


「よーし1巡したな? ではこれをあと4巡してみよ。わしは毎日これを10巡しておるぞ?」


 師匠の言葉に軽い絶望を覚える。

 だが、強くなると誓った以上はここで立ち止まってはいられない。

 僕は今一度身体を奮い立て、剣を構えて型を始めた……。


 それから時間が経ち、5巡を終えるともはや腕の感覚はなく、持っていた剣も取り落としてしまった。

 足もがくがく震えており、立っているのもやっとである。


「はぁ……はぁ……出来ました……」


 息も絶え絶えの僕を、トガは真剣なまなざしで見つめ返す。


「どうじゃ?剣の重みと力み(りきみ)を知って」


「剣の重み?……力み……? 」


「そうじゃ。今までお前はその剣を振るっていて重いと感じるようなことはあったか? 」


「いえ……最初父に持たされた時は重く感じましたが、使い始めてからはそんなことは……」


「そうじゃ。だがのう、剣というものは本来重いものじゃ。その重さと振るった勢いで敵を斬る。 だがそれでは自分より力の強い相手には勝てんし、本来の切れ味を生かせん。 剣の重さを知り、どのように振るえば最も良く斬れるかを知る。まずはこれが1つ。 そしてもう一つが体の力みじゃ。 お主は今全身がこわばって動けないくらいじゃろ? 」


「はい……腕も足もまるで自分の物じゃないみたいです」


「それは剣を振るう際、無駄な力を身体のあちこちで使ってしまうからじゃ。 剣とはただ腕で振れば良いものではない。如何に素早く、如何に滑らかに動かすためには全身を上手く使うんじゃ。 今やった型はそれを身体に覚えこませるためのもの。 わしも師匠にはこの型をたっぷりやらされたからのう。最初はなんでこんなことしないといけないんだ! と喚いたものじゃがな……」


 薄目で疲れた表情を明後日の方向に向けるトガ。

 師匠の師匠に相当しごかれたんだろうなあと察した。

 だが、明日は我が身とトガの弟子になったことをちょっとだけ後悔するのであった。


 その後、身の回りの雑用は僕が行うことになったが、その分師匠が暇を持て余すので、結局は一緒に薪集めや水くみについてきてしまう。


 度々自分の事を師匠と呼んでとお願いしてくるなど、体のいい老人介護をしつつ朝や昼などは師匠の指導の下、教えられた型をゆっくりと1つずつ身体に覚えさせていった。



 それからというもの最初の頃は5巡しただけで身体が動けなくなり、朝食などを師匠に食べさせてもらったりして、あれ? 普通逆じゃないか? と突っ込まれたりしたこともある。


 けれど、日数が経つにつれて6巡・7巡と続けられる回数も増え、腕や足なども次第に痛みや震えを訴えることもなくなった。


 季節は過ぎ、そろそろ雪も降ってこようかという時期になる頃には、師匠と僕は並んで型の鍛錬に汗を流すようになる。

 もう10巡は楽にこなせるようになり、型が終わった後でも普段と変わらない生活を過ごせるようになっていた。


「若いってのは羨ましいのう」


「何言ってるんですか師匠。その体つきでワシは老人だって言われても絶対嘘としか思えませんよ?」


 僕は師匠からお下がりの赤色の1枚布の服。

(別の大陸ヤポンの服で着流しというらしい。刀もトガの師匠がヤポンから持ってきたそうだ。)

を着るようになり、お互い袖を脱いで上半身裸で汗を拭いている。若干服が短い気もするが、今まで着ていた上下別の麻の服より段違いに着心地はいい。


「もう剣筋もしっかりしておるし10巡目でも身体に余計な力みやブレは見られん。そろそろ型だけでなく稽古もつけていくか」


「はい!お願いします!」


 太い木の棒を削って刀の形に整えた、いわゆる木刀を構え師匠と向かい合う。

 稽古のおかげで体つきもしっかりして、街でみた衛兵さんみたいな身体つきになった。


 師匠が頭上へ一気に打ち掛かる。

 僕は慌てることなく両手で木刀を横に構えたまま上にあげ、師匠の打ち下ろしを受けると、木刀を回して師匠の木刀を絡め跳ね上げる。

 すかさず逆に師匠の頭を狙って打ち下ろすが、木刀を斜めに受けて刃を滑らせ、僕の木刀の切っ先が地面に落とされて上から抑えつけられてしまい、姿勢を崩された。

 後ろに引こうと足を下げたけど、師匠が一歩早く踏み込んで僕の胴体で木刀を寸止めした。


「うむ、わしの実演をちゃんと見ておったな」


「そりゃもう何度も何度も見せられましたし……それに師匠がやる度にどう? わしすごいじゃろ? どうどう? ってすっごい自慢気な顔して見てくるんですもん。嫌でも覚えますよ」


「はっはっは!実際わしすごいじゃろ?」


「そりゃまあ師匠はすごいですけど……」


 真剣な表情とはっちゃけた表情、両極端な表情がコロコロ変わる様はまるで子供を見ているようで、時々うざったいと思うことはある。

 だが厳しい鍛錬であっても決して見捨てることはなく、ジッと側について的確に指導をしてくれる師匠を心から慕っていた。


 稽古を終えると、僕はいつもの薪拾いに出かけていく。

 今日はトガは後をついてくることなく、空を見上げながら呟く。


「そろそろかねえ?」


 薪拾いから帰ってきた僕が火を起こして昼食を作り、2人で食べた後に再び稽古を始める。

 夕暮れまでみっちりと稽古を重ね、昼食の残りのキノコのスープを温めなおして夕食とすると、僕は今まで考えていたことを師匠に打ち明けた。


「師匠」


「なんじゃい?」


「僕は師匠のおかげで一度死んで生まれ変わったと思っています。この際は今のリューシュという名前を捨て、新しい自分になりたいのです。どうか新しい名付け親になってくれませんか? 」


「ふむ……」


 僕のいきなりの話に師匠も考え込む。


「いいのか?お主の親からもらった名じゃぞ? 親もお前を待っているのではないか?」


「いえ、既に村に戻るという気は消え失せています。僕の親も覚悟はしていたでしょう」

「僕も既に覚悟はできています。剣の道で生を全うするという事を……」


 最初は勇者を見返したい、ティアナに強くなったと言われたいという思いで弟子になったけど、鍛錬を続けていくうち、次第に僕には剣を極めたいという求道心が芽生え始めていた。


「そうか……」


 師匠が決心したように僕を見つめた。


「さて……では何という名前にすべきかの……? うーむ……名前……名前……名無し……無名ムミョウ……!」


 師匠がボソボソと何かを呟いている。


「そうじゃ!お主の名前はムミョウ!ムミョウがよいじゃろう! 」


「ムミョウ……ですか? 」


 言葉の意味が分からず、僕は首をかしげた。


「そうじゃの、これはわしの師匠であるイットウの故郷の言葉でな、名無しの事を無名ムミョウと書くんじゃ。それと真理に到達していないもの、無知、光に照らされていないものという意味の無明ムミョウとも書く」


「そんな言葉が……」


「お主はまだまだ世界を知らぬ。名をもってまだまだ未熟者という戒めとするがよい」


「ムミョウ……ムミョウ……」


 師匠から与えられた新しい名前を僕――ムミョウは噛みしめた。


「有難うございます師匠!それでは僕の名前は今からムミョウで! 」


「うむ! ではリューシュ……じゃなかった!ムミョウよ。名を変え生まれ変わったとしてさらに鍛錬に励むがよい!」


 若干締まりのないトガの激励を受け、僕、リューシュ改めムミョウは今一度心を新たにする。


 名付けを終えた師匠は立ち上がり僕を見た。


「さて、では明日の朝にはここを片付けるぞ」


「え?」


「さすがに雪が降ってはここではしのげん。冬ごもり用の場所へ行くんじゃ」


「はい……?」


「そもそも、わしがここにいたのはその冬ごもりの場所へいくためであったからな。お主の鍛錬で時間を食ってしまったが、そろそろ行かねばわしらは凍死してしまうぞ」


「分かりました」


 僕は頷いて夕食の準備に取り掛かる。

 冬ごもりの場所はどんな所だろうと考えながら鍋の中身をぐるぐるかき回すのであった。


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