外伝その2 トゥルクさんの腕前 中編
8月10日に「勇者に幼馴染を奪われた少年の無双剣神譚」が発売されました!
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今回の作品は書籍版を意識した作りになっています。
なので師匠のトガも出てきております
僕たちが稽古をしていた場所からしばらく森の奥へ歩くと、やや開けた場所に出た。
そして向こうを見れば、一本だけ異様に大きな木がそびえ立っており、その幹には木の板で作られた弓用の丸い的が掛けられていた。
「ココダ。少シ待ッテイテクレ」
トゥルクさんはそう言うと、的の掛けられている木の方へ歩いていく。
そしておもむろに的を木から取り外すと、後ろに立てかけてあったと思われる人型の的に入れ替えた。
「ヨシ、準備ハ出来タ。今カラ始メルゾ」
トゥルクさんは腰にある布袋から小さなツボを取り出す。
「それは?」
「コレハ染色用ノ赤イ実カラ絞ッタ汁ダ。コレニ矢ノ先ノ布ヲ漬ケテ、的ノドコニ当タッタノカヲ分カルヨウニスルンダ」
「へえ……」
トゥルクさんが矢をツボに漬けていくと、みるみる布が赤く染まっていく。
そうして何本も先の赤い矢を揃えたところで、トゥルクさんは後ろに下がって木に登りだした。
「木の上から!?」
「ふふっトゥルクはゴブリン族でも一二を争う弓の名手じゃ。木の上からでも楽々的に当てれるじゃろうて」
「イクゾ」
先ほどまでの和やかな雰囲気と打って変わり、張り詰める空気の中、トゥルクさんの第一射。
ヒュンという風切り音の後、放たれた矢は一直線で人型の的へ。
矢は布のせいで的には刺さらなかったが、しみこませた赤色のおかげで当たった箇所は丸分かりだ。
「すごい……眉間にしっかり入ってる……」
「ふっふっふ……まだまだこれからじゃ」
自分がしているわけでもないのに、師匠はなぜか自慢げな表情。
続いて第二射目。
これも胸の中心にしっかり赤い色がついていた。
「すごい……」
思わず息をのんだ。
それからもトゥルクさんは、木の枝の上を歩きながらどんどん矢を放っていく。
不安定な足場にもかかわらず、まるで吸い込まれるように的へ、それも眉間や心臓、首など人間の急所を外すことなく全て命中させていった。
「なんであんなに簡単に当てられるんだ……」
弓は生まれてこの方使ったことがないものの、村やフォスターで使う人は何人もいた。
けれど、ここまで正確に的に当てられる人なんて今まで一度たりとも見たことはない。
「フム、マダ矢ハアルナ」
矢筒を見て矢の残りを確認したトゥルクさんは木から下りると、今度は木々の間を走り回りながら次々と弓を射始めた。
こちらも一本たりとも外すことなく、全て的をきっちり射続ける。
一発放ったら、次の木へ。
半身を隠しながら行う射撃であっても、その正確さが落ちることはない。
「なんか……圧倒されちゃいます」
「トゥルクほどではないが、他のゴブリンもみなかなり弓の腕前はすごいぞ?」
「ほっ本当ですか?」
「うむ、今度見せてもらうといい」
師匠と話しているとトゥルクさんの矢筒が空になり、弓の訓練がようやく終わったみたいだ。
「今日ハマアマアダナ」
放った矢の回収に動き出すトゥルクさん。
あれでまぁまぁなのか……本気だったらどれだけなんだろう……。
僕も回収を手伝い、終わったところでトゥルクさんが弓を僕に差し出してきた。
「ドウダ? ムミョウ君モヤッテミルカイ?」
「え? 僕……ですか?」
「ウン、剣ダケジャナク弓ヤ槍ナド、他ノ武器ニモ手ヲ出シテミルトイイ。経験トイウモノハ必ズ君ノ役ニ立ツハズダ」
「うーん」
トゥルクさんの弓を見ていて、興味は湧いてきたけれど、あれほど上手く出来るとは思えないしなんだか恥ずかしいな……。
「やってみるといい、ムミョウよ」
しばらく悩んでいると、師匠が背中を押してくれた。
よし!
弓を受け取り、矢先の布にもう一度赤い汁をつけて、まずはトゥルクさんのみたいに弓を引き絞ってみる。
「これは……なかなか難しい」
小ぶりな弓だけど、思いのほか引くのに力が要る。
歯に力を込めながらどうにか弓を引き、的めがけて矢を放ってみたが……。
「あれ……?」
矢は的を大きく外れ、後ろへと飛んでいってしまった。
「くそっ! もう一度!」
同じように弓を引いて矢を放つが、今度は木の手前に落ちて地面に突き刺さる。
「なんでだ……?」
「あっはっはっはっは!」
僕の後ろでは、師匠が腹を抱えて大笑いしてる。 ちくしょう……!
けれど、その後何回やっても矢は一度も的に当たることなく、矢筒が空になってしまう。
「はぁ……はぁ……思ったより疲れるな」
稽古のおかげで体力は付いてきたはずなのに、こんなにも弓がきついものだったなんて……。
「ハッハッハ、剣トハ使ウ筋肉ガ違ウカラネ。ドウダイ? イイ経験ニナッタロウ」
「はい……弓もまた奥が深そうです」
息を荒げながらも、トゥルクさんの言うことに賛同する。
筋肉の痛みなんて久しぶりのことだったからね。 それに結構楽しかった。
「あっ、そうだ!」
手に持った弓を眺めながら、さきほどまでのトゥルクさんのかっこいい姿を思い返していると、一つの名案が浮かんだ。
「トゥルクさん、僕と立ち会いをして貰えませんか?」
「エ?」
僕のいきなりの提案で、トゥルクさんは矢を拾っていた動きを止めてこちらを見返してきた。
「いえ、さっきまでのトゥルクさんを見ていて、是非手合わせしてみたいなって思ったんです。ダメ……ですか?」
良い経験になるとおもったんだけどなあ。
「イヤ……私ハ別ニ構ワナイガ……人相手ニ弓ヲ放ツノハ久シブリデネ……危ナイカモシレナイガ、本当ニイイノカ?」
「はい!」
「トガ、イイノカ?」
「構わんよ、ムミョウがやりたいと言っているのだ。ワシもこやつをヤワに鍛えたつもりはない。本気でやれ」
「ソウカ……」
トゥルクさんは僕から弓を受け取ると、なんだか怖い笑顔を浮かべていた。
「フフフ、人ト戦ウノハトガトノ勝負以来ダ。イイダロウムミョウ君、全力デイクゾ!」
「はい! よろしくお願いします!」
こうして……トゥルクさんとの勝負の幕が上がった!




