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第四章 60話 一時帰省

「昨日はありがとうございました」


「ありがとうございました師匠、ティアナさん」


 翌朝、朝食の場にてレイとミュールが並んで頭を下げる。


「別にお礼を言ってもらうほどのことじゃないよ。君たちも結ばれて本当に良かったと思ってる」


「うんうん」  


 満足そうにうなずくティアナ。


「レイ、ミュールのためにも強くなって……絶対ここに帰ってこようね」


「はい! 師匠」

 

          ▼


 それから……僕たちはそれぞれ準備を開始する。

 レイを連れていくことをロイドさんたちの集落に伝えたり、荷物を準備するかたわらジョージさんたちへ色々と引き継ぎなんかもしたり……。


「絶対……絶対戻ってきてねぇ!」

 ジョナさんなんか僕を胸に押しつけてワンワン泣くもんで、ティアナからは白い目で見られて大変だったよ……もう。


 それともちろん「獅子の咆哮」のみなさんにも挨拶は忘れない。


「君たちがいなくなると寂しくなるな……」


「僕たちもみなさんには色々と助けてもらいました……このご恩は決して忘れません」


 闘技場で僕たちと「獅子の咆哮」のみなさんで固い握手を交わす。

 フィンさんやバッカスさん、レフトさんライトさん……。

 ロイドさんやメリッサさんもティアナやレイと握手を交わしてしばしの別れを惜しんでいる。


「君の代わりには到底なれるとは思えないけどね……それでも教わったことをしっかり守って僕たちに続く四十階層突破者を出せるよう頑張るよ」


「はい!」


「そうそう、一ついいかな? ムミョウ君」


「なんです?」


 僕と握手の後、けげんな顔を見せるフィンさん。


「いやね、別の街の冒険者から聞いたんだがね……近頃モンスターの数が増えているんじゃ? という噂があるんだ」


「え……?」


 一体どういう事だろう……?


「しっかりと確認は取れてないけれど、護衛依頼や調査依頼で森の中でのモンスター遭遇が頻繁になっていて、街道や見晴らしのいい平野とかでも襲われたとか……中には森の浅いところでもオークに出会ったとか言う話もあったくらいで、これから出発するムミョウ君たちには伝えておこうと思った次第さ」


「そうですか……フィンさん知らせてくれてありがとうございます」


「気にしなくていいさ。それじゃあ君たちの活躍を聞くのを楽しみにしているよ」


 そう言って、僕とフィンさんはもう一度固い握手を交わした。

 

 うーん……気になるなあ……。

 ウワサ……というにはちょっと捨て置けない話だったな……。


 もしかして……また魔王が復活……?

 まさか……ね。


 胸の内にフッと湧いた疑問を、僕は頭を振ってかき消すことにした。


         ▼


 そうして色々と準備も終わり、後は出発を待つだけという段階になったのだけれど、張り切りすぎて準備を早めにしてしまったせいか、ジョージさんの言っていた期限までまだ一週間も余ってしまった。


「しまったなあ……ちょっと急ぎすぎたかな」


「師匠、ウキウキで荷物詰めてましたもんね」


「そういうレイだって……僕からもらったお金で新しい服買ってただろ? ミュールへのプレゼントも……確か……赤のワンピースだっけ? 今度帰ったらもっと買ってあげるって……」


「げっ! 師匠なんで知ってるんですか!?」


「ふっふっふ……僕の情報網をなめないでもらいたい……」


「うわあ……もうだめだあ……恥ずかしい……」


 レイは顔を真っ赤にして頭を抱える。

 実はミュールが嬉しそうに僕に報告してきただけなんだけどね……。

 これは内緒にしておこう。


 今の僕たちは、朝の稽古を終えて屋敷で一休み。

 食堂でレイと二人お茶を飲みながら午後の稽古に備えている。

 

 早めに出発することも考えたけれど、それを言うとジョージさんは笑いながら首を振った。

 

「そうやって早めに行動してくれるのはありがたいけれど……それだと私たちがムミョウ君を追い立てるように見えちゃうからね。暇かもしれないけれど、休みと思ってゆっくりしててよ」


 そこまで言われてしまうと僕にはどうしようもない。


「どうしようかなあ……」


「どうしましょう……師匠」


 僕とレイはテーブルに顔を投げ出す。


「何やってるの? 二人とも」


 そんな僕たちを見て、部屋に入って来たティアナがくすっと笑う。


「いやあ……暇で暇で嫌になりそう……ティアナだってそう思うだろう?」


「そう? 私はこういう時間もたまにはいいかなと思ってるんだけど?」


 てっきり賛同してくれると思っていたのに予想外の答え。


「だって、勇者一行にいた時はずっと動きっぱなしで気の休まる時なんてなかったもん。こうやってムミョウと再会できてゆっくりできる時間が出来て本当にうれしいんだからね」


「ティアナ……」


 そうか……そうだよな……少し前にはティアナとまた一緒に暮らせるなんて夢にも思わなかった……。

 最近はそれが当然のように思っていたけれど、いろんなことがあっての今なんだから、それが幸せなんだと感じなきゃね。


「そうそう、出発前に一つ心残りがあるのよね」


「ん?」


「出る前にゴブリンさんの集落に行きたかったのよ……あの人たちに助けてもらったおかげでここに来れたんだから、もう一度お礼を言いたかったのよね」


「なるほど……」


「でも、さすがに往復で一週間じゃ無理そうよね……」


 一週間か……。

 確かにティアナじゃ難しいかもしれないけど……僕なら急いで行けば間に合いそうかな?

 

「ティアナ、僕が代わりに行ってこようか?」


「え?」


 ティアナが驚く。


「僕なら多分一週間で行って戻ってこれると思う。僕も寄りたいと思っていたし、ポーションももらっておきたい。その時にゴブリンの皆さんにはティアナがお礼を言っていたって伝えてあげるよ」


「大丈夫……? ムミョウ」


「平気だよ。散々鍛えられたからね……あっそうだ! レイも一緒に来るかい?」


「ゴブリンさんの集落!? 行きたい行きたい!」


 生まれて初めてゴブリン族を見れるとあって、レイも思わずはしゃいでいる。


「それじゃあティアナ、善は急げってことで早速僕とレイで行ってくるよ」


「分かったわ」


「ジョージさんにはゴブリン族の集落へ行ったって伝えておいて。ちゃんと一週間後には戻ってきますってことも」


「はいはい」


「じゃあ、行ってくるよ」


「行ってきます!」


 僕とレイは軽く荷物を揃えて急いで外へ出る。

 こうして……突然ではあったけれど久しぶりのトゥルクさんの集落へと戻ることになった。

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