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第四章 57話 ジョージさんからの依頼

「頼み……ですか?」


 申し訳なさそうに話すジョージさんに聞き返しながら、僕は考える。

 頼み……ギルドの職員になることは断ったからそれと違うとしても……一体なんだろう?


「君に対して、依頼したいことについてなんだけどね」

 

 そう言いながら、ジョージさんは手に持っていた紙を僕に見せた。

 キレイに折りたたまれた紙を開き、内容を確認していると後ろから他の三人も覗きこんでくる。


「どれどれ……」


 内容は簡潔かつ明確なものであった。


「現在、冒険者ギルドノイシュ王国フッケ支部において、鍛錬場攻略に伴う依頼を遂行中の黄金級冒険者ムミョウ殿に、バルムーク大陸内にある別の鍛錬場攻略のための支援を要請する」


 というもの。


「つまり……僕に他の街へ行ってもらって、ここでやっているような講座をやって欲しいということですか?」


「そういうことだね」


 ジョージさんはうなずいた。


「ここでの鍛錬場攻略も大分先が見えてきた。「獅子の咆哮」による四十階層攻略も果たし、他の冒険者も講座と調査書のおかげで徐々に階層攻略者も増えてきている」


 話は続く。


「鍛錬場からのアイテムの装備のおかげで街もかなり潤ってきている、けれど……それはあくまでこの街だけ。他の街は以前十階層もロクに攻略出来ていないとこだらけなんだ」


「僕の調査書じゃあ……だめでした?」


 あれ、割と苦労したんだけどなあ……メモするの。


「いやいや……あれは大いに役立っているよ。やっぱり実際に見て、戦ってきた人の記録というものは計り知れない効果がある。ただ……記録はあってもそれを実践できるだけの力が他の街の冒険者にはまだまだ足りないんだ」


 ジョージさんは大きくため息をつく。


「鍛錬場攻略から他の冒険者への支援、元勇者バーンの討伐まで、君には本当に助けられてばかり。本当はゆっくりここで暮らしてもらいたい所なんだけどね……」


 ジョージさんは改めて僕を見据える。


「その代わりと言ってはなんだけど……魔王の復活も阻止されたわけだし、攻略を急ぐ必要も無い。ここでの講座は「獅子の咆哮」に任せてもらえばいいし、ギルドとしてもできる限りの便宜は図るから……ちょっとした旅と思ってどうか受けてはくれないだろうか?」

 

 深々と頭を下げ、僕に頼んでくるジョージさん。

 腕を組み、目を閉じてしばし考えてみる。


 うーん……。

 自分の知っている世界は、フッケと、フォスターとトゥルクさんの村と生まれ育った村くらいなもの。  

 他の街がどんなものか興味はあるし、旅という単語にはやはり心が沸き立つ。


「ジョージさん……レイも一緒に連れて行くのはいいですか?」


 気になるのは……やっぱりそこだ。

 僕一人で行ってもいいけれど、やはりまだまだ未熟なレイを置いていくのはちょっと不安。

 それにレイの修行を考える上でも、新しい場所と環境というのはきっと役に立つはずだ。


「それに関しては問題ないかと。こちらでちゃんと説明しておきますので」


 ジョージさんからしっかり太鼓判をもらったところで……。


「レイ…どう思う?」


 後は本人の意志を確認するだけ。


「僕は――行きたい!」


 レイは元気よく答える。


「そうか……いい返事だ」


 それなら迷うことはない。


「ジョージさん、レイも一緒でお願いします」


「分かりました。ではそう手配して……」


「ジョージさん!」


 ギルドへ戻ろうとしたジョージさんをティアナが呼び止める。


「私も……私も一緒じゃダメですか?」


「ティアナ……」


 僕だって本当は……ティアナも連れて行きたい。

 ようやく一緒になれたんだし、帰れる時期も分からないまま、また離ればなれになるのは嫌だ。

 でも……ティアナは犯罪者として手配されたこともある、すでに解除されたとはいっても不安なのは確か。


 それならば、このままフッケにいてもらった方がティアナのためなんじゃないか?

 そう思って僕はレイだけを連れて行きたいとお願いしたわけだけど……。


「私のことを考えてくれてるのはよく分かるわ……でも、お願い……私はもう……あなたと離ればなれになるのは嫌なの……」


 すがるような目で僕を見つめてくるティアナ。


「でも……」


「お願い! 私は大丈夫だから……ジョージさんもお願いします!」


 僕はしばらく考え……ジョージさんの方へ向きを変えた。


「……ティアナも一緒じゃダメでしょうか?」


「うーん……」

 

 けれど返事はなく顔は曇ったまま。


「やっぱり……難しい……ですか?」

 

 ジョージさんが重い口を開く。


「そうだね……私たちはティアナさんやバーンの真実を知っている。けれど、被害に遭った貴族や王様なんかはともかく、他の国の普通の人たちがそのことを理解しているはずがない。ここで起きたことは世間には知られてないからね。むしろローレン教主国なんかは自分たちが神託を受けた手前、勇者バーンという偶像を壊さぬためにも、逆にティアナさんを悪者に仕立てるくらいのことはするだろう」


「……」


「悲しいけれど、権力者というものはそういうものだ。自分の為なら躊躇なく他人を切り捨てる……」

 

 その言葉にティアナがうなだれてしまう。

 やっぱり……だめなのか……?


「……そうだっ! いい考えがある!」


 そんな時、ジョージさんが指をパチンと鳴らして大きく目を見開いた――。

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