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第三章 55話 因縁の決着

燃え始めた屋敷を背に、僕とバーンが刀と剣を構え合う。

「くそっ! くそっ! くそっ! ここまで逃げていまさら捕まるわけにはいかねえ! てめえらなんてさっさとぶっ殺してやる!」

 バーンがいきり立つ。

 策略を見破られて存在が知られた以上、ここで時間を掛ければ捕まるのは確実。

 そのせいか焦りの表情を隠そうともしない。

 僕を睨みつけ、さっさとケリをつけようと思ったのか、地面を蹴って一気に斬りかかってくる。

 それに僕は刀を合わせることなく、まずは回避に徹した。

 上段、下段、突き、斬り上げ、斬り払い。

 ありとあらゆる攻撃を、バーンは鋭い連撃で繰り出してくるが、僕は力を使い剣が触れるギリギリの所を最小限の動きでかわし続ける。

 白い線は絶えず現れ僕の視界を埋め尽くすほど。 けれど師匠よりも遅い攻撃ばかりで回避に苦労することはない。

「はぁ……」

 思わずため息が出てくる。

 だがバーンは、そんな僕を手も足も出ずかわすのに精一杯な状況だと思ったようで、余裕の笑みを浮かべながらさらに攻撃の速度を増す。

「はっはっは! やっぱりお前が四十階層突破なんてウソっぱちだったな! 俺の攻撃に手も足も出ねえじゃねえか!」

 調子に乗ったバーンは次々と攻撃を繰り出す。

 そして徐々に大振りになってきたところで、バーンの振り下ろしが僕の頭上を襲う。

 今度はその場から動かない。

「死ねぇ!」

 バーンが勝ち誇ったように叫ぶ。

 剣が頭上に振り下ろされる瞬間、僕は刀を地面に突き刺し、少しだけ間合いを詰めるとバーンの両手を左手で受け止め、そのまま握り潰そうと力を込めた。

「ぐああああああぁぁぁぁ!」

 骨のきしむ音が僕の耳にも入ってくる。

「……けるなよ」

 怒りは頂点に達している。

 今までのバーンの行いや、ティアナを襲おうとしたことへの怒りだけではない。

「ふざけるなよ! 勇者の力はそんなものなのか!?」

 僕が今、怒りを覚えているのは……勇者が()()()()ことに対してだ。

「お前に殴られ蹴られ、ティアナを奪われた日から……お前を見返したいと思って今まで必死に剣を鍛えてきたんだ! なのに……その勇者の力がこんなものなのか!? 僕を……馬鹿にするなよっ――!」

 勇者の右手首を引き下ろし、僕の前にバーンの顔を近づけると、ありったけの力を込めて左頬を殴りつけた。

 バーンは吹っ飛び、屋敷の壁に叩きつけられ新しい穴を増やした。

 突き刺した刀を再び手に取り、バーンへ切っ先を向けながら僕は叫び続ける。

「さあ! このままだとお前は僕に負けるぞ? いい加減に本当の力を見せてみろよ!」

 バーンは口から血を流し、ゆっくりと穴から壁から這い出てくる。

 けれどその足取りはおぼつかなく、何度も倒れそうになっているが、落とした剣をどうにか拾って忌々しそうに口の中の血を吐き出しながら僕を睨みつけてくる

「くそ! くそ! 何かの間違いだ! あの時のお前が……俺より強くなっているなんて何かの間違いだぁ!」

 再び剣を携えて向かってくるバーンを見ながら僕は刀を構えなおす。

 だがさっきの一発で、明らかにバーンの剣は最初よりも速度や力が落ちている。

 バーンが両手で左斜めに斬り下ろしてきた剣を、左手一本で受け止め、力を込めて頭上に跳ね上げてから腹を蹴り飛ばす。

 バーンは後ろに吹っ飛んでうずくまったが、腹を押さえつつもなんとか立ち上がる。

 だが、明らかに呼吸を乱し、汗を大量にかいてもはや虫の息のようだ。

 そんなボロボロの姿を見ていると、今までの激情が一気に冷めていく。

「なぜだ……俺は……バーゼル様に選ばれた勇者だ……それが何で……ただのガキに……」

「言ったろ……お前を見返すために鍛えてきたんだって……単純な事さ。僕は……お前より強くなった。ただそれだけだ」

 余裕の口ぶりでも心に慢心はなく、正眼の構えは決して崩さない。

 いつでも斬りかかれるよう腰を低く構える。

「ふざけるな! 勇者である俺より強い奴なんて――いていいはずがねえんだよ!」

 バーンが地面がえぐれるほどの力で駆けだし、僕に向かって右手を振りかぶる。

「死ねぇ!」

 振り下ろされた剣が僕に達するより早く、バーンの懐に入り込んで渾身の力を込めて斬り上げた。 刀身のきらめきとともに、右腕が剣ごと宙に舞う。

「ぎゃあああぁぁぁ!」

 肘から先がなくなった右腕を抑えながら、叫び声をあげてうずくまるバーン。

 僕は素早く後方に下がって警戒する。

「くそっ……くそ……俺は……俺は勇者なんだ……強いはずなんだ……認められるものか……」

 痛みに顔をしかめているが、僕をにらみ付けるのは忘れてはいない。

「こうなったら……」

 バーンの口元がゆがむ。

「てめえの大事なものを先に殺してやる――!」

 そう言ってバーンは、離れていたティアナに左手と頭だけ向け、背中に隠し持っていた短剣を取り出す。

 させるかっ――!

 僕は意図を察し、風のように飛び出す。

「うおおぉぉぉ!」

 魔法が放たれるよりも早く、渾身の力を込めて刀を振るった。

 右肩から左脇腹へ斜めにかけて一気に斬り裂いた瞬間、勢いよく血が吹き出る。

「クソ……野郎……」

 バーンは、僕に向き直って苦悶の表情を浮かべながら一言だけつぶやき、そのまま自分の血の海へ前のめりに倒れ伏した。

 しばらく構えを解かずにバーンを見据えていたけれど、もう動く気配がないのを見て大きく息を吐く。

 ハァ――……。

 肩の力も抜いて構えも解き、刀についた血を振り払った後、懐に入れていた布で拭い、鞘に収めた。

「これで終わりだな……」

 ふと太陽を見上げる。

 もうすでにかなり時間が経っており、陽も傾いてきている。

 屋敷の火の手も回り始め、勢いよく燃え盛っており、僕達は屋敷から離れてバーンの死体とともに安全な所まで移動した。

「そろそろこの火を目印に皆が来てもいい頃だけど……」

「そうね……」

「僕、みんなを呼びに行った方がいいかな?」

「いや……それは必要なさそうだよ」

 見れば向こうの通りからたくさんの人が走ってくるのが見える。

「おおーい! ティアナちゃん! レイ君! ムミョウ君無事かぁ!」

 あの声は……フィンさんだな。

 周りには「獅子の咆哮」のみんなやミュール、その後ろには衛兵さんたちの姿。

「あっ! 皆だ! おーい! こっちだよ!」

 レイが嬉しそうに飛び跳ねながら両手を振る。

「ムミョウ君! 無事だったか!」

 フィンさんが僕の前まで走り寄り、手を差し出してきたので、僕も握手を交わす。

「にしてもさすがだぜ……俺達が来る前に勝負決めちまうなんてよぉ……ムミョウ」

 僕の肩をバンバンと叩きながらバッカスさんが歯を見せ笑う。

 ロイドさんやレフトさん、ライトさんも次々に僕と握手したり、頭をくしゃくしゃを撫でまわし、メリッサさんはティアナの元へ走り寄り両手で肩を揺さぶる。

「もう! いくらあなただからって無茶しすぎよ! 心配したんだから! 」

「ごめんなさい、メリッサさん。女性に誘われた時、勇者の罠だ! って直感して……ここで逃がしたらまた皆さんの挑戦が延びてしまうと思ったから……でも、皆さんを……ムミョウを信じてましたから」

 恥ずかしそうに笑うティアナをメリッサさんが抱きしめる。

 ミュールの方はと言えば……。

「レイ!? 怪我してない!? 大丈夫!? 回復使おうか!?」

 心配のあまり口調がいつものミュールじゃない……。

 レイの方もあまりの変わりっぷりに少々引き気味だ。

「だっ大丈夫だよ……ミュール……そんなに心配しなくても……」

「何言ってるのよ! レイがそう言うときって大体どっかケガしてるんだから! この前だって机の下に落ちた食べ物拾おうとして頭をぶつけて……」

「やめてよミュール! そんな恥ずかしいことここで言わなくてもいいだろ!」

 そして……結局いつも通り二人のケンカが始まるのを皆で笑顔になりながら見つめる。

 衛兵さん達は、すぐさまバーンの死体の確認や、屋敷の消火作業に入るとともに、衛兵隊長と思われる人が僕の前に来て敬礼をしてくる。

「ムミョウ様でいらっしゃいますか」

「はい、そうです」

「勇者バーンの討伐にご協力感謝します! いやはや……やはりあなたはお強い、四十階層突破だけでなく、あの勇者バーンまで倒してしまわれるとは……」

 隊長さんは褒め称えてくれるけど……僕は首を振った。

「いえ……本当は生きて捕まえるつもりでした……ですが、最後のあがきでティアナを狙おうとしたのでやむなく……まだまだ力不足です」

 あの時、やろうと思えばいつでも斬り伏せることはできた。

 けれど僕は、バーンに自分のしてきたことを後悔させてやりたいと思い、その一線は越えないようにしていたわけだが……。

「すみません……」

 悔やむ僕に対して隊長はニッコリと笑う。

「元は勇者だったとしても、犯罪者のバーンに対してあなたがそこまで気に病む必要もありません。むしろあなたでなければ他の誰がバーンを倒せたでしょうか……あなたの力には本当に感謝しています」

 深々と頭を下げる隊長さん。

「そう言って頂けると幸いです」

 ふとバーンの方を見ると、衛兵さんたちによって布にくるまれ運ばれるところであった。

「あの死体はどうなるんです?」

 気になったので隊長さんに聞いてみた。

「私では分かりかねますが……おそらく王都に運ばれて埋葬されるかと……」

「そうですか……」

 あいつの口から罪を悔いる言葉が聞きたかったけれど……仕方ない。

 隊長さんが再び敬礼をして館の消火作業へと向かっていく。

「お疲れさま……ムミョウ君」

 僕の肩を優しく叩いてくれるフィンさん。

 そうだ……終わったんだな……。

 あの屋敷から続いていた因縁が……。

 空に向けて大きく息を吐き、僕はフィンさんと一緒にティアナたちの所へ戻る。

 ようやく……ようやくまた楽しい日々に戻れるんだ……。



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