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第三章 53話 忍び寄る魔の手 

僕とティアナが再会してからはや3週間がたち、僕は『獅子の咆哮』の人達との稽古も佳境に入りつつあった。

後衛3人は弱点に見立てた的への命中率も安定し、前衛も回避はばっちりだ。


ライトさんとレフトさんの矢が同時に襲ってくる。

僕が後ろに下がりながら矢を避けると、メリッサさんの氷の塊が左右から一斉に降り注ぐ。

もう一度前に進もうとすると今度は矢が僕の足を止めようと2方向から飛んでくるので身体を捻りながら飛び上がって躱す。

そこを狙いすましたかのようにメリッサさんの氷の塊が僕に向かってきた。

僕は躱そうとしたが、木の的に当たってしまい、的は砕けてしまった。

僕が地面に降り立った後、皆の視線が一斉に集まる。


「合格です!」


僕の一言に『獅子の咆哮』の人達や観客の人達もワッと歓声を上げる。

皆の喜びもひとしおだ。

無理もない。

今回の稽古で3人とも的に当てれれば、30階層への挑戦を始めるという条件を加えていたのだ。

さっきまでにライトさんとレフトさんは成功していたため、残りはメリッサさんだけだった。


僕から見ても、『獅子の咆哮』の人達はもう30階層でも十分やっていけると思う。

強敵はデッドマンと骸骨騎士くらいで、他はそこまで気にするほどでもない。


いつ挑戦するかの話し合いは夜になって屋敷ですることにして、今日の稽古は終了して解散する事にした。

フィンさん達はこのまま酒場に行くそうで、レイとミュールは街へ買い物に行くそうだ。


僕はみんなと別れた後、観客席で見ていたティアナの元へ向かう。

ティアナは僕が近づくと手を振って迎えてくれた。

差し出された水筒のフタを開け、水を飲む。


「ティアナ、今日はもう稽古は終わったけど、今日はどうする?」


「そうね……買い物に行きたいけど……まだ外に出ちゃだめなのよね……」


今はまだティアナの指名手配は解けていないため、保護扱いは変わらず、屋敷からあまり出ないようにとの通達もそのままである。


ただ、屋敷横のギルドや闘技場ならジョージさん達もいるので特例として認められており、毎日稽古の観戦をしたりして暇をつぶしている。


僕達の稽古の観戦中は食事を差し入れてくれたり、休憩中のジョナさんと仲良く話し合っていたりと楽しくやれているようで安心した。


「とりあえず屋敷に戻って何か冷たい飲み物でも飲もうか?」


「そうね。 そうしましょう」


僕とティアナは2人並んで屋敷へと戻っていく。

僕がそっと手を出すと、ティアナは気付いて握ってくれた。

ギルドから屋敷まで、短い距離だけど……満ち足りた気分だった。


屋敷では使用人さん達にお願いして冷たいお茶を用意してもらった。

それから皆が帰ってくるまでの間、お茶を飲んだり他愛ない話をしながら静かなひと時を過ごす。


夜になり、そろそろ夕食の時間かという時に、ジョージさんとジョナさんが急いで屋敷に入って来た。

かなり慌てていたようで、2人とも息を切らして両手を膝に乗せていた。


「ムミョウ君! ティアナさん! 朗報だ! どうやら指名手配が解かれることが決まったそうだ!」


玄関で出迎えた僕やフィンさんに、ジョージさんが開口一番叫んだ。


とりあえず皆食堂に集まり、ジョージさんとジョナさんに水を差し出して落ち着いてもらう。

一息ついたジョージさんが僕達に事情を説明してくれた。


「まず、勇者の訴えと実際に怪我を負っていることから指名手配が決まったんだが、そうなった原因についてはティアナさんがすでに姿を消していたため事情を聴くことも出来ず、勇者の言い分だけが通っていたわけだ。 だが、今から10日前、王都に戻った勇者がティアナさんに付けられた火傷の痕を笑った騎士を斬り殺したことで事情が変わった。」


そこでジョージさんがもう一度水を飲む。


「騎士の殺害を皮切りに、ここぞとばかりに魔王討伐でも貴族王族への度重なる金の催促やフッケでの『獅子の咆哮』に対する無礼。 様々な街で貴族令嬢などに対する不道徳な行いなど、被害にあった者などから次々に暴露され、ティアナさんの行動にもある程度の正当性があるのでは? という流れになってね、勇者にそれらの行為に対して詰問しようとバイゼル国王からの使者が向かったのだが……」


ジョージさんの言葉に皆が注目する。


「なんと勇者はその使者すら殴り飛ばしてね……結局それで王国に対する反逆行為ということになり、訴えた者が犯罪者となったので、ティアナさんの罪に関しては消滅となったわけだ。 まぁ本当は消えたらダメなんだけど……そこは冒険者ギルド本部にもお願いしてね。 ローレン教主国は信託を受けた勇者がそんなんだから頭痛いだろうねえ……」


しゃべり切ったジョージさんの代わりに今度はジョナさんが説明を始めた。


「そういうわけで、今後はティアナさんは街での行動に関しては制限は無くなり、好きに動いてもらって構わないという事になりました。 また、ティアナさんはギルドに登録されており、以前勇者一行でフッケの鍛錬場を40階層攻略されていましたが、指名手配によってその等級もはく奪されていました。ですが今回の手配消滅により、ギルドの等級も戻り、以前の等級である黄金級に戻ります」


そう言ってジョナさんは向かいの席にいるティアナの前へ見事な彫刻の施された金色の腕輪を差し出す。

ティアナがそれを受け取ると、僕は懐に入れていた黄金の腕輪を出して一緒に軽く打ち付け合う。


軽い金属音の後、お互いクスっと笑いあった。


「私達も早くその腕輪が欲しいものだな」


フィンさんが羨ましそうに見つめる。


「大丈夫ですよ。 フィンさん達ならきっと手に入れられます」


僕は笑顔でフィンさんを励ますと、笑顔で頷いてくれた。


「ああ、そのためにここまで頑張ってきたんだからな」


他の皆も大きく頷いた。


レイやミュールも腕輪をじっと見つめる。

2人も『獅子の咆哮』の20階層攻略や僕の40階層攻略に参加してはいたが、神様からは攻略扱いになっていないみたいで、水晶でも突破階層はまだ0の表示で銅級のままである。


どうやら階層を飛ばしていきなり下の階層の敵を倒しても攻略にはならないようだ。

神様からの、鍛錬場はちゃんと順に攻略するようにとのありがたい教えである。


「早く僕もその腕輪が欲しい……」


「レイにはまだまだ早いわよ、弱いんだし」


ミュールの余計な一言でまたケンカが始まる。


レイとミュールの可愛い取っ組み合いを見ながら、僕は1つ疑問に思ったことがあったのでジョージさんに問いかけてみる。


「それで……勇者はどうなったんです? 捕まったんですか?」


途端にジョージさんの顔が暗くなる。


「それがだね……勇者は使者を殴り飛ばした後、同行していた兵士が捕縛しようとしたが全員斬り殺された。その後は追跡を振り切り逃亡、それ以来行方知れずだ。逃げる際にかなりの金貨や宝石を持って逃げたらしいからどこかに潜伏しているかもしれない。私達としてはそれに対して注意を促すための意味もあってここに来たんだ。 もしかすると既にこのフッケに入り込んでいる可能性もある」


衝撃の事実に僕も含めた全員が静かになる。


「そうですか……」


僕もどうにか返答したものの、驚きを隠せない。


その後はジョージさんとジョナさんはギルドに戻り、僕達は今後について話し合ったけど……勇者の一件が解決するまで挑戦を控えることになった。


もし勇者が既にフッケに入り込んでいる場合、僕やティアナ、『獅子の咆哮』の人達を見つけていて、襲撃に来る可能性もある。

そのため街での単独行動も控えることにし、必ず複数人での移動を心がけるように決めた。


その後は、フィンさんが今日はもう休もうと告げ、皆もそれに従い食堂を出てそれぞれの部屋に戻っていく。


僕とティアナは一緒に自分の部屋に向かっていく。

あれからティアナとは同じ部屋で一緒に寝ることに決めていた。

彼女もあの苦しみを克服したいと心に決め、ベッドの上で朝まで手を繋いだり、キスをしたり、服のまま抱き合ったりしている。

まだ、僕が触れると身体の震えや冷や汗は出るものの、リューシュのおかげで前よりもだいぶ楽になったと言ってくれる。


「ごめんね……私が皆の邪魔になっちゃって……」


ベッドの中でティアナが僕に謝る。


「ううん……ティアナは悪くないよ……それに、僕がきっと守って見せるさ」


そう言って僕はティアナを強く抱きしめた。

こうして2人の夜は過ぎていく。


けれど……僕達はまだ気づいていない。

深夜、誰も通らない大通りの隅から、屋敷を忌々しそうにみつめる包帯や布で顔を隠した男がいることを……

作品を閲覧いただきありがとうございます。

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