第三章 49話 君の歩いてきた道
トゥルクさん達の応援を受け、私はフッケを目指す。
手紙に書いてあったムミョウという人が……リューシュ。
今までは遥か彼方に見える小さな光を目指す、あてのない旅だった。
けれど今は違う。
フッケにリューシュがいる……
手紙に書いてあったその希望を胸に森を歩き続ける。
トゥルクさんからもらった地図を見ながら何日か森を歩き、あと数日でフッケだろうという距離までになって陽も暮れたので、私はたき火を起こして今日は休むことにした。
枯れ木を集め、小さい炎を心に思い浮かべて指先に出し、細い木の枝に火を移して重ねた木の束に入れる。
しばらくすると煙が出始め、徐々に火も大きくなっていく。
後は、火が絶えないように木の枝を入れ続けるだけ。
充分に火の勢いがついたたき火に干し肉を当てて焼き目を付けたら、少しずつかじりながら水筒の水を飲む。
フォスターに住んでいた時は、こういう事はリューシュがいつも率先してやってくれていたから、枯れ木を集めるくらいだった。
勇者一行として旅をしていた時も、サラさんやアイシャさんが火を起こして食事の用意をしてくれたし、そもそも街での暮らしが長かったから自分ですることは全く無かった。
こうやって1人でリューシュを探し続けるようになって……色んな事を自分1人で苦労しながら出来るようになって……初めて私は色んな事を人に頼り続けていたんだという事をまざまざと思い知らされた。
強くなるって言ってリューシュを置いていったのに……結局魔法だけ強くなって他の事は全然……昔の自分のままで変われてなかった。
軽く食事を終えて人心地つき、脇に置いてある袋に目が行く。
袋からバッシュさんが入れてくれていたリューシュの手紙を取り出すと、たき火の明かりをもとに何度も読み返す。
思えばバッシュさんは、私とリューシュの事を思って荷物に手紙を忍ばせたんだろう。
バッシュさんそういう変に気が回るところがあったからなあ……
私が手紙を見たことを知ったら……ニッコリ歯を見せて笑いながら――どうだ! って自慢気な顔をするんだろうな……
バッシュさんがするであろう顔を思い浮かべ、クスっと笑ってしまう。
リューシュは……手紙の内容を見るとかなり頑張っているみたい。
私達が鍛錬場に手間取っている間に、連合国で私が倒したドラン以外の四天王を倒したりとか、鍛錬場の30階層を1人で突破したとか……。
にわかには信じられないけど……リューシュは話を大きく見せることはあっても、嘘はつくことはなかった。
そしてリューシュを助けてくれた剣の達人のトガさん……
私がフッケで対面した『獅子の咆哮』さん達……
その人達のもとでリューシュは強くなれたのね。
トガさんとはもう会うことが出来ないけれど、私もぜひ教えを受けてみたかった……
手紙を閉じて袋に戻す。
たき火に木を投げ入れながら私はふと考えた。
この手紙のおかげで私がリューシュと会えたとして……私はその時どんな顔すればいいんだろう?
いや、それよりも……会った時に私は……リューシュと呼べばいいの?
それともムミョウと呼べばいいの……?
犯罪者である私に……活躍しているであろうリューシュと会うことは出来るの?
たき火を見つめながら……
色々な考えが頭をよぎる。
けれど私は頭を振ってその考え達を打ち消した。
もし街に入れないのならば……時間をおけばいい。
今はダメでも……いつかはきっと会えるはず。
火を絶やさぬように多めに木をたき火に投げ入れ、周りに鈴のついた縄を張って浅い眠りにつく。
明日もまたフッケに向けて歩き続けるために少しでも休もう。
そして何日も歩き、ようやくフッケの城壁が見えてきた。
フォスターよりも厚く巨大な壁。
ここにリューシュが……いるのね
討伐の際には城門の外まで街の人達が手を振って声援をくれた。
けれど今私を出迎えるのは、街へ出入りする人々を見張る衛兵さん達だけ。
私なら衛兵さんを倒して中へ入ることは出来る……けれど……
ここで騒ぎを起こしてしまってはリューシュに会えなくなる。
布を頭から被ったり、顔に泥を付けるなど出来る限りのことをしながら私は街へ入る人々の列に並ぶ。
どんどん列が進み私の番が近づく。
そして私の番になり、街に入るための銅貨5枚を出そうとしたところで、衛兵さんから頭の布を取るよう言われたのでやむなく外した。
ここで捕まるわけにはいかない……いざとなったら魔法を使ってでも逃げるしかない。
ここまで来たのなら……やっぱり……リューシュに会いたい――!
だから――!
私の身体が震え、銅貨を握り締める手に汗も流れ始める。
衛兵さんは手に持った紙と顔を見比べながら私にこの街に入る理由を聞かれた。
リューシュの事を聞きたかったけど、ここで時間をかけるわけにもいかない以上、この街に会いたい人がいるとだけ伝えた。
お願い……通らせて――!
心の中で必死に願う。
衛兵さんは小さく頷くと、私から銅貨を受け取りそのまま街の方へ手を伸ばし、どうぞと言ってくれた。
良かった……
ここまでまだ手配が回っていないならば……
今のうちに急いでリューシュを探さないと……
衛兵さんに気付かれないように大きく息を吐き、私はギルドの方へ急ぐ。
ギルドの中も冒険者の方がたくさんいたので、布を被り直し、受付に並ぶ。
しばらく待つと私の番になったのでリューシュの事を聞こうと受付の係員さんにリューシュの手紙を渡しながら尋ねた。
係員さんは赤毛の綺麗な女性の方だった。
「すみません……ムミョウという人を探しているんです……ギルドの冒険者登録をしているはずなので、こちらでご存じありませんか?」
係員さんは驚いた顔で手紙と私を何度も見直す。
そして私にごめんなさいと謝るとすぐに後ろの部屋へと入っていった。
その後すぐに男性の肩を引き連れて戻ってこられ、私を部屋へと案内した。
部屋の椅子に座らされた私の前に2人が座る。
「すみません急にこちらにご案内して……私はギルドマスターのジョージ、こちらは受付のジョナです」
2人とも私に丁寧なあいさつをしてくれたので、私も慌てて頭を下げる。
「早速ですが……確認させてください。 あなたは勇者一行におられたティアナ様ですね……? あなたには……勇者を殺そうとした罪で手配が回っています……」
私の身体が緊張で固くなり、慌てて周りを見渡す。
街には入れたのに……ギルドにまで手配が回っているの!?
じゃあここに通されたのは私を捕まえるため?
まさか……もうここは囲まれているの?
ここから逃げようにも出口はさっき入って来た扉だけ、部屋もそこまで広くない以上、魔王討伐のために大規模な魔法しか習っていない私では、自分だけでなく他の人に被害が及んでしまう……
もう……ここまでなの……?
リューシュに会えるという希望が遠のいていく事に私は絶望しそうになる。
唇を噛みしめ、周囲を警戒する私にジョージさんは諭すよう語り掛ける。
「ティアナ様……安心してください。 我らの領主は『獅子の咆哮』と対面の際の勇者の行いを知っております。 それに討伐に向かう際も金の無心がひどかったそうで勇者の在り方に甚だ疑問を持っていらっしゃいます。 なので今回の手配についてもあまり本気にはせず、半信半疑でした。 我々には、もしティアナ様を見つけた際には捕縛ではなく保護という扱いにせよと命を受けておりましたし、衛兵達にも確認はしたら領主などに知らせるのみにせよと通達しているそうです。」
そのことを聞いて私はようやく緊張を解き、大きく息を吐いて安心した。
「この手紙を見て、私達は驚きました。 これは以前ムミョウ君に頼まれてフォスターのギルドへ向けて出した物に間違いありません。 ティアナ様とムミョウ君の関係はどういったもので?」
私はジョージさんに今までの経緯を説明することにした。
ムミョウの名前がもとはリューシュという名前である事。
リューシュとは幼馴染であったけれど、私が人さらいに捕まって勇者に助けられた後、離れ離れになってしまった事。
その後勇者と魔王討伐して王都での凱旋中、フォスターに立ち寄った際に私を一行に加えるために多くの嘘をついてリューシュにも危害を加えていたのを知った事。
私がそれに激怒して勇者にけがを負わせ逃亡した際、この手紙をフォスターのギルドマスターから預かり、リューシュがムミョウと名前を変えてフッケにいることを知った事
信じてもらえるよう出来る限りのことを話すと、ジョージさんとジョナさんは何度も頷いて話を聞いてくれた。
私が話し終えると、ジョージさんが口を開く。
「よく分かりました。 この手紙もありますし、あなたの事を信じたいと思います」
「ありがとうございます……それでムミョウ……リューシュはどこに?」
私の問いかけに2人とも表情を暗くする。
そのことに私は不思議に思っていたが、今度はジョナさんが口を開く。
「ムミョウ君は……数日前、近くの集落を襲った傭兵達を壊滅させた際に傷を負いました。今は傷も治りましたが……まだ意識が戻らず自宅の屋敷で眠り続けています」
そんな――!
私の心臓がギュッと締め付けられる。
ようやく……ようやく会えると思ったのに……!
「ティアナ様……ムミョウ君に……お会いになりますか?」
ジョナさんの言葉に私は震えながらも頷く。
そのまま私はジョナさんに連れられて隣の屋敷まで案内された。
そしてリューシュの部屋まで来たところで私1人だけで部屋に入る。
部屋のベッドでは、リューシュが静かな寝息を立てて眠っていた。
ああ……やっと会えたのに……
私はベッドに駆け寄り、思わず頬を撫でる。
暖かい……そして懐かしい……
ずっと私が求めていたものは……強さじゃなかったのかも……
眠り続けるリューシュの顔を見ながらそう思った。
本当に欲しかったのは……この暖かさ。
あの辛かった時に私が欲しかったもの……けれど私は自分でそれを手放した。
今更それを求めるなんておこがましいとは分かっている。
けれど……今だけは……今だけは……。
ベッドの横に椅子を置き、私はリューシュの右手を握り締め続けながら、その名を呼び続けた。
どれほどそうしていただろうか?
いつの間にか眠っていたようだ。
朝日がまぶしい。
いつの間にか夜を過ぎ、朝になっていたみたい。
不意に自分の手を握られる感触があり、私は目を覚ました。
目を開けると……私を見つめながらやさしい笑顔を浮かべるリューシュがそこにいた。
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