第三章 40話 英雄達の帰還
『獅子の咆哮』の人達が20階層を攻略したその日は、徹夜で冒険者ギルドを中心にお祭り騒ぎだった。
まぁ無理もないよね。
僕と師匠でボルスやヴォイドを倒して鍛錬場に現れるようになってから、3年近くはずっと攻略者が現れなかったんだろうから。
ジョージさんは朝一番で各地のギルドに『獅子の咆哮』による20階層攻略の詳細を連絡する早馬を出すと言っていた。
ちなみに僕の単独での30階層攻略は、今言ったところですぐには信じてもらえないだろうから、しばらくしたら正式な報告書にまとめて、僕の集めた情報を名前付きで本部に送りつけてやると息巻いていた。
「はっはっは! ムミョウ君本当に有難う! 今なら君のいう事は何でも聞いてあげられそうだよ!」
とジョージさんがギルド近くの酒場で、『獅子の咆哮』の人達と一緒に飲んでいる最中に、酒臭い顔を近づけながら言ってきた。
そう言われてもなあ……してほしい事、欲しい物……。
ああ……そうだ。
さっきの各地のギルドに連絡という話で僕はある人を思い出し、一緒にその人へ手紙を送ってもらうことをお願いした。
最初は代筆も頼もうとしたけど、やっぱり自分の手で書くのがいいかと思い直し、ギルドで紙とペンを買おうとしたけれど、それを聞いたジョージさんに好きなだけ持って行けばいいと、ギルドの係員に言って便せんの束とペンとインク壺を何本か持ってきてくれた。
酒場で大騒ぎしている皆を後にして、僕は屋敷に戻り、自室の机に向かって内容を考えてみる。
文の書き方は、暇な時間にジョナさんがなんだか目を輝かせて僕に教えてくれたので以前よりも書けるようにはなったけど、それでも文字の間違いなどはよくやってしまう。
便せんを広げ、ペンをインク壺につけて書き始める。
まずは僕が元気にしていることを書こう。
そうだな……簡単にフォスターを飛び出してからの経緯を説明して……
あっそうそう! 師匠と出会ったことや連合国での話など色々あったことも書かないとね。
鍛錬場30階層を自分1人で攻略した事……うん……普通は信じてもらえないよね……これ。
……まぁいいか! あとは連絡で回って来る『獅子の咆哮』さん達とは一緒に稽古をした仲だよって書いておこうかな?
あっ! ちゃんとギルドの仕事をしてくださいって書かなきゃ! おかげでこっちに来て知らないことだらけで苦労したんだから!
そして……僕はある場面を書こうとしてペンが止まる。
もし、ティアナがフォスターに寄ったなら……今の僕の事を伝えてもらうか否か。
あの勇者達の話は聞かないけれど……いずれは四天王の最後の1人を倒して魔王を討伐するだろう。
そうなれば、凱旋という事でここやフォスターに立ち寄るかもしれない。
僕はペンを置き、目を閉じてじっと考える。
ティアナにもう一度……会いたい。
あの時、ティアナにはもう会う事はないと告げられたけれど、こうやって手紙を書いてるうちに段々と気持ちが募る。
けれど、もしまた会えたとしても……
もう一度、あの時みたいに拒絶されるのではという考えも湧いてきて……たまらなく怖くなる。
再びペンを手に取って書こうとするけど指が動かない。
書きかけの便せんがインクでどんどんにじんでいく。
いっその事……もうティアナに会うのを諦めて、僕は死んだと伝えてもらった方がいいのかな……
ティアナは……悲しんでくれるかな?
それとも……
結局その辺りで何度も書き直し、何枚もクシャクシャになった便せんがごみ箱に捨てられていく。
窓の外を見ればもう夜が明けた。
未だに屋敷周辺では騒がしい声や音が聞こえる。
そして……自分なりに試行錯誤した手紙をやっと書き終わり、僕はギルドへ向かった。
朝一番と言ってたし、間に合うとは思うけどジョージさんに渡しに行かないとね。
ギルドに向かえばそこら中で酒に酔った冒険者や街の人が寝転がっていた。
さすがに今日のギルドは開店休業だな……
と思いきや、受付には確か皆と一緒に酒を飲んでいたはずのジョナさんや他の係員がしっかり待機しており、さすがと感心してしまった。
ジョナさんが僕を見つけると大きく手を振ってくれた。
僕が近づいて手紙を渡すとジョナさんが笑顔で受け取り、
「話はマスターから聞いてます。まだ早馬は出発していないのですぐに渡しておきますね」
ジョナさんは他の係員に僕の手紙を預け、係員が走って外に出て行くのを見届けると、僕の方に向き直る。
「ムミョウ君、私からもお礼を言わせてもらうわ……本当に有難う」
「いえ……僕の力だけじゃないですよ。 皆が頑張ったからこその20階層突破です」
僕の言葉にジョナさんは強く首を振って否定する。
「いいえ! 君がここに来なければ我々の20階層突破はずっと遅く……いえ、もしかするとこのままずっと攻略する人達が現れなかったかもしれません。 ムミョウ君……謙遜しないでください……あなたは自分をもっと誇ってもいいんですよ?」
そう言ってジョナさんは僕の手をしっかり握る。
ジョナさんの顔がどんどん真っ赤になっていく。
視線が泳いでいたけど、何度も深呼吸をしてジョナさんが決心したように僕を見つめた。
「それで……その……ムミョウ君、実は……私は……君の事が……」
すると突然、ギルドの扉が開かれたので、ふっと横を見ると街の衛兵さんが中に駆け込んできていた。
「皆! さらに朗報だ! 先ほど、魔王と魔王四天王が勇者一行によってついに討伐されたとの報せが入った! そして何日か後には勇者一行がここに立ち寄るそうだ!」
その報せに静かだったギルドがまた沸き立つ。
ギルドの係員や冒険者達も互いに抱き合って喜んでいた。
魔王が倒された……?
勇者一行がこの街に……!?
ティアナが……!
僕はその知らせに驚いて、思わずジョナさんの手を放してしまう。
手紙で書いていたことが……まさかこんなに早く来るなんて……
まるで予期していなかった早さに、僕の心臓が痛いくらいに鳴り響く。
驚いた顔のジョナさんに謝ると、僕は外へ駆け出して急いで屋敷へ戻った。
数日後には……ティアナがこの街に……来る――。
その事実に僕はベッドの上に座り込み、暫くは何も考えられなかった。
そして勇者一行がここに来るまでの数日間、僕は何も手につかず、『獅子の咆哮』の人達との30階層攻略に向けた稽古やレイ、ミュールとの朝の型なども休んでずっと部屋に閉じこもっていた。
皆が心配して部屋まで見に来てくれたけど、僕はちょっと体調を崩しただけと言い張った。
その間にジョージさんから勇者一行と久しぶりの鍛錬場20階層攻略の『獅子の咆哮』の人達との対面で僕も一緒にどうかという打診があったけど……断ることにした。
表向きの理由は僕はただ一緒に稽古と同伴しただけで、攻略には関わってないということにしたけど……
本当はティアナに会う勇気が持てなかった。
会いたい気持ちと会うのが怖い気持ちがせめぎ合う。
そうしているうちに勇者一行が街へ来る日となった。
屋敷は大通りに面しているので、前を勇者一行が通ることになっている。
レイやミュール達は屋敷の中から見ることにしたようで、すでにベランダに椅子を置いて陣取っている。
『獅子の咆哮』の人達は正装をしてフッケの領主の城へ既に向かった。
僕は部屋の中から外を眺め、まだ悩み続けていた。
そして不意に外で歓声が沸き上がる。
レイやミュールもはしゃぎだして僕を何度も呼ぶ。
どうやら勇者一行が大通りに入ったようだ。
一目だけ……一目だけでも。
そう決心した僕はベッドを降り、ベランダに出た。
大勢の人が手を振る大通りをゆったりと馬に乗る4人。
一番前は……正直目に入れたくない。
2番目は緑色のスケイルメイルに身を包んだ茶色の髪の女性。
3番目は銀色の弓を担いだ黒い革鎧の金髪の女性
どちらも綺麗で大人の女性という感じがする。
そして……
――赤いローブを身にまとい、腰に剣を提げて颯爽と馬を乗りこなしている女性――
――金髪と緋色の目。――
――着ている服は違ってもあの髪と目は忘れようはずがない――
ああ……ティアナだ……
あの時より身体も大きくなり、さらに綺麗になっていた。
背筋もピンとしていて、自信に満ち溢れている。
漂う雰囲気も明らかに昔と違い、強くなったという事が嫌でも分かった。
ティアナ……おめでとう。
ティアナもしっかりと前に進んでいる、それを知っただけで十分だ。
そして……ティアナが建物の影に消えるまで、僕はずっと目で追い続けた。
その後、帰ってきた『獅子の咆哮』の人達と食事をしながら勇者一行の話をを聞かせてもらい、魔王四天王のドランにティアナがトドメを刺したことや、『炎の賢者』に推薦されたことなど色々知ることが出来た。
僕が思っていた以上にティアナが活躍していたことを知り、僕の胸にはふつふつとある思いがこみ上げていた。
僕も……ティアナが倒した四天王と戦いたい!
ティアナ達が街を出た翌日から、僕は朝の型や『獅子の咆哮』の人達との稽古に復帰し汗を流す。
そして……数日経った日。
僕は闘技場で休憩をしていた皆にあることを告げた。
「40階層に……挑戦します」
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