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第三章 38話 『獅子の咆哮』 上

闘技場では『獅子の咆哮』の人達だけでなく、新たに僕の弟子になったレイも加わって稽古に励んでいる。

と言ってもレイの剣の腕はまだまだなので、僕との立ち合いや素振り『獅子の咆哮』さん達のヴォイド対策の稽古を見たりしているだけだけどね。


『獅子の咆哮』さん達も皆面倒見がよく、フィンさんやロイドさんはもちろん、柄の悪そうなバッカスさんも丁寧に剣の振り方や身のこなしを教えてくれている。

ライトさんとレフトさんはおやつをあげたり、一緒に走り込みで体力訓練など事あるごとにレイに構ってくれるので理由を尋ねたら、


「弟が」

「欲しかった」


だそうで……。


メリッサさんは稽古の傍ら、屋敷に一緒に住んでレイの稽古をずっと見ているミュールに構ったりしている。


僕もミュールを稽古に誘おうとしたけど断られてしまい、メリッサさんには、


「女の気持ちが分かってないわねえ……」


と言われてしまった。

僕としてはミュールも一緒に稽古したいのかと思ってたけど……違うのかな?


レイが弟子になってから2週間。

つまり『獅子の咆哮』さん達と稽古を続けて1か月経ったわけだけど……


「よし……! どうだ――!」


僕の左からの振り下ろしをかいくぐるように回避しつつ、僕のわき腹を斬り払ったバッカスさん。

その瞬間観客席からの歓声も上がり、いよいよ期待も高まっていることがわかる。


「お疲れ様です。 皆さん」


座り込んで荒い息を吐いているフィンさんやロイドさん、バッカスさんに声を掛ける。


「君は本当にすごいな……あれだけ動いていたのに全然息も上がっていない」


「師匠には散々苛められましたからね……ハハハ」


フィンさんの言葉に、僕は引きつり笑いをしてしまう。

フィンさんもそれにつられて笑ってくれた。


「それで……ムミョウ君……どうだろう? そろそろ挑戦しても……いいだろうか」


だが一瞬で打って変わったフィンさんの真剣な表情に、僕は深く頷いた。


「ええ、本当はもっと稽古を続けていきたいんですが……」


「それは分かっている。 けれど僕達が10階層を突破してからもうすぐ半年になる。 それを過ぎれば到達階層も1階層に戻されてしまうから、この辺りで20階層に挑戦しないといけないんだ。」


『獅子の咆哮』さん達の実力は、僕も自信をもって強くなったと言える。

突進の回避も安定してきたし、フィンさんとバッカスさんも回避からの攻撃も確実にできるようになった。

ロイドさんは体格上、回避と攻撃の両立も難しいと考えた結果、後ろのライトさんやレフトさん、メリッサさんの壁になるよう動くことで話がまとまった。


けれど……

世の中に絶対はない。

僕が調べてきたのはあくまで単独で動いた場合。

パーティーを組んだ状態でヴォイドがどう動くか分からない以上、油断はできない。


僕だけだったらなんてことはない……でも、これほどまでに他の人の力を知るというのが難しいなんて……

改めて見ず知らずの僕をいきなり弟子にしてくれた師匠の大胆さに驚かされるよ。


「2日後……挑戦は2日後だな」


フィンさんが呟くと、集まっていた僕と皆が頷く。

今日は稽古を終えてゆっくり休むことにし、明日は挑戦のための買い出しなど準備に当てることにした。

屋敷に戻る前に武器装備を修理に出し、食事を摂って早めの就寝。

翌日にはそれぞれ皆で治療用の軟膏や包帯、食料などを買い込み、預けた武器防具を受け取り、動きの最終確認を行うなどしていたらあっという間に夜になった。


皆も寝静まった夜、屋敷の2階にあるベランダの柵に寄りかかって外の風景を眺めていると、フィンさんが近づいてきて一緒に柵に寄りかかった。


「ムミョウ君……いよいよ明日だ」


フィンさんが噛みしめるよう呟くと、僕は外を眺め続けながらふっと笑みを見せた。


「大丈夫です。 フィンさん達ならきっと攻略できます。 なんたって攻略した僕が言うんですからね」


「ああ……そうだな」


フィンさんも微笑みを浮かべる。

そして僕に向き直って深々とお辞儀をした。


「ムミョウ君……有難う。 君のおかげで我々はやっと前に進める。 君がもし来なければ我々はそのまま腐り果てていただろう」


僕もフィンさんに向き直って首を横に振った後、お辞儀をした。


「いえ……僕の方こそ、『獅子の咆哮』さん達と会えたおかげで自分の未熟さを知りましたし、それに……なんだかんだで弟子も見つかっちゃいました。 僕がここに来た理由が大体叶っちゃいましたよ」


本当に……あっという間だったなあ。

ここに来てからたった1か月なのに……


1か月前まで、森の奥で師匠とトゥルクさん達ゴブリン村の人達だけだった僕の周りには、ジョージさん、ジョナさん、『獅子の咆哮』の皆さん、レイ、ミュール、街の人達などたくさんの人が集まり、僕の事を認め応援してくれるようになった。


ここに来て……本当によかった……


僕は眼を閉じ、喜びをぐっと噛みしめた。

ふと横を見ればフィンさんが手を差し出している。


「ムミョウ君……改めて有難う。 そしてこれからもよろしく頼む」


「僕も……有難うございます。 これからもよろしくお願いします」


お互いしっかりと握手を交わし、その夜は眠りについた。


翌朝、僕と『獅子の咆哮』の人達、レイとミュールはギルドへ向かい、『獅子の咆哮』が20階層へ挑戦することを宣言した。

既にギルド内は冒険者だけでなく、街の人も大勢詰めかけており、応援や歓声でごった返している。

僕らはその人たちに手を上げながらギルドを出て鍛錬場へ向かったが、東の城門にも人が溢れており、期待の高さが現れている。


鍛錬場へ向かう街道をを踏みしめるように歩き、昼前には到着した。


皆で水晶へ向かう直前、フィンさんが振り返って拳を僕の前に出してきた。

僕もそれに合わせて拳を突き出しぶつけ合う。。

皆も僕達に併せるように一斉に拳を合わせ、円陣になり、


「おおぉ!」


皆で掛け声を上げる。

そして僕はフィンさんに瓶を2本手渡す。


「これは?」


「ゴブリンさん特製の軟膏です。 深い傷でもひと塗すればたちまち治ると評判です。実はこれを作っているゴブリンさんと僕は知り合いで、1年ごとにギルドへ何本か卸してるんですよ……これは内密に……」


僕がこっそり言うとフィンさんは笑い飛ばした。


「はっはっは! 有難う! それじゃあ行くぞ!」


「帰ったら肉食おうぜ! 肉!」


「肉より魚の方がいいだろう。 あと酒」


「とりあえず」

「生きて帰ってからだ」


「レイ君はしっかりミュールちゃんを守ってあげるのよ!」


メリッサさんの言葉でミュールの顔が真っ赤になっている。

レイの方はよく分からないままうんうん頷いているが……

ああ……そういうことか……

クスっと僕は笑ってしまった。


そしてフィンさんが水晶に触れ、僕達の姿は広場から消えた。


作品を閲覧いただきありがとうございます。

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