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第三章 32話 四天王との再戦 上

 ふう、意外と早く着いたなあ……


 フッケから飛び出して走り続けてたら、あっという間に鍛錬場の入り口に到着してしまった。

 師匠に修行じゃ! とか言われて、森の中を延々と追い掛け回されたりしたからなあ……

 こう見えても体力と足の速さにはかなり自信がある。

 ちょうど一汗かいていい感じだし、時間は昼過ぎくらいなので今日は10階層目指して進んでいこうかな。


 1階層はすでに一昨日全滅させたので、そのまま広場を通過して2階層へ向かう。

 2階層もモンスターの構成は変わらない。

 オーク4体を一息に斬り飛ばす。

 その内の1体から黒い宝箱が出たけど、お金や武器がいらない僕にとっては邪魔でしかないので、中を確認することなくそのまま放置した。

 3~5階層まではオークが2匹増えた程度で特に苦戦することもなく、全滅させた後に下へと進んでいく。


「うーん……これじゃ調査にならないよ」


 出てくるのがオークだけじゃなあ……

 10階層クリアしたという『獅子の咆哮』方達ならこの辺りは突破できるんだし、そこまで念入りに調べる必要もないか……


 そうして6階層まで下りると、今度はオークの数が8体になり、今度は連合国でも出てきた弓持ちのオーク2匹現れるようになってきた。


 弓持ちはこちらの死角を狙おうと常に動き続ける。

 連合国では師匠が真っ先に潰してくれたからあまり考えなくても良かったけど、1人の状況では放っておくとかなり厄介だ。

 剣や斧を持ったオーク達も弓持ちをカバーするように立ち塞がる。

 オークの矢に当たりはしないけど、こちらの出足に撃ってこられると面倒で仕方がない。


 何か飛び込める機会はないかと様子を見る、すると剣持ち1匹がちょうど僕と弓持ちの対角線上に重なった。

 その瞬間一気に駆け足で懐に入ると、剣持ちは反応できず胴体はがら空きだ。


 フッ――


 短く息を吐いて剣持ちの胴体を掻っ捌く。

 二つに分かれた胴体の隙間から見えた弓持ちへ、地面を蹴って瞬く間に近づく。

 弓持ちは慌てて弓を引き絞り、僕めがけて矢を放って来た。

 だが焦って狙いをよく定められずに放たれた矢は、僕の左頬をかすめて飛んで行った。


 ――取った!


 既に間合いに入った僕は刀を振り上げ、弓持ちの両手を肘から斬り飛ばした後、刀を返して縦に真っ二つに斬り裂いた。


 2匹を倒した後も慢心することなく、すぐに刀を構えなおしオーク達に囲まれないよう移動し続ける。

 その後は、オーク達の攻撃をいなしつつ、残りの1匹の弓持ちを斬った後は、残りのオークも苦労することなく全員斬り伏せた。


 7から9階層も6階層と同じ構成だったので、同じように弓持ちから倒し、残りのオークを余裕を持って倒した。


「やっぱり弓持ちは先に潰しておくべきだね……」


 ギルドにはそう報告しておこう。

 多分、『獅子の咆哮』さん達も既に報告してそうではあるけれど……


 さて、いよいよ10階層だ。

 階段を降りる僕の手にも力が入る。

 ジョナさんのいう事が本当ならば……10階層の眷属は恐らくボルス。


 連合国の時はあまり苦労せずに倒した奴だけど、鍛錬場に出てくるのは強くなってたりするのかな?

 階段を降り切って、転送用の水晶を横目に見ながら進むと、向こうに懐かしい巨体が見える。


「おーい! ボルス! 僕を覚えているか!?」


 大声で叫んでみるが反応はない。まだ反応する範囲に入っていないせいか、反対側の階段の方を向いたままだ。


 やっぱりあれはボルスであってボルスじゃないんだな……


 命のやり取りをした相手だけに少し寂しい気もした。

 溜息を吐きつつも僕はゆっくり前に歩き出す。

 しばらく歩いて近づいたところで、ボルスが反応したようでこちらを向いてゆっくりと動き出すと、徐々に速度を上げて突進してきた。


 ハァ――……


 大きく息を吐き、左手で鞘を、右手で柄に手を掛け深く身体を沈みこませる。

 全身に力を溜め、じっとボルスを見据え意識を集中させる。

 身体が熱くなり、ボルスの気の流れが白い線となって見え始める。


 ボルスが走りながら鉄塊を振り上げたところで、僕は溜め込んだ力を一気に開放して矢のように飛び出した。

 狙うは以前と同じく股をくぐっての両足の腱。

 白い線に沿って鉄塊が振り下ろされ、僕が攻撃をすり抜けると、すぐ後ろで石畳が派手に砕け散った音が聞こえた。

 轟音を聞きながら、右足の腱を斬ろうと刀を抜き放つ。


 ――だが!


 斬りつける瞬間、ボルスは体重を右足に一気にかけ、転がるように僕の刀を回避した――


 おかげで右足を深く斬ることが出来ず、走り抜けて後ろを向いて構えなおす。

 ボルスは身体を起こして僕の方を見ようとしていた。

 右足には血が流れているが、その後立ち上がったところからすると腱を傷つけるところまではいっていないようだ。


 ボルスが僕にやられた時のことを覚えている……?

 もしくはただの偶然か……


 一刀で仕留めようと思っていただけに、思わぬボルスの回避に少々驚いたが……


 ――面白い!


 思わず口角が上がっていくのを感じた。

 暫くの間、僕とボルスは微動だにせず向かい合う。


 静寂が10階層を支配する。


 唐突に、僕は刀を収め前に向かって歩き出した。

 ボルスはその隙を見逃さず、鉄塊を僕めがけて振り下ろす。

 唸りを上げる鉄塊が石畳を豪快に砕き、辺りに煙と石片が飛び散る。


 僕は前に走って躱すが、今度は股下ではなく左足の方へ走りつつ回り込む。

 ボルスは僕を見失ったようで鉄塊を振り下ろした辺りを見回している。


 僕と以前戦ったのよりもやっぱり攻撃が単調だな……

 連合国の時のボルスはもっと攻撃に幅を持たせていた。

 こっちなら間合いと死角を考えて戦えばそう難しくはなさそうだ。


 隙だらけの左足を狙って僕は刀を振り抜いた。

 その瞬間ボルスの足首がズレて身体から離れ、巨体が音を立てて崩れ落ちる。


 僕はそのまま後ろから首筋に近づいて一気に刀を振り抜き、首を斬り飛ばした。

 ボルスの首が落ちるとともに身体が白い灰となって消えていく。


 ボルスの身体のあった場所に赤い宝箱が出たが、最初はいらないと思ってそのまま奥の開いた扉へ向かおうとした。

 けれど、到達証明になるかと思って、近づいて宝箱を開けてみた。

 中からは、装飾はあまりないけどしっかりとした作りの直剣が入っていた。


「自分じゃ使う気はないけど、一応持って帰るか」


 そして階段を降りて水晶に手を伸ばす。

 ふっと視界が暗くなると、あっという間に鍛錬場入り口に戻されていた。


「よーし! まずは10階層だ!」


 すでに陽は傾き始めていたので早足で街へ戻る。

 街に戻ってすぐにギルドへ向かう。


 ギルドにはすでに『獅子の咆哮』さん達はいなかったので、受付のジョナさんに声を掛けることにした。

 列が並んでいたので僕も並んで順番を待つ。


 暫く待って僕の番になり、前に進むとジョナさんは僕の顔を見るなり顔を真っ赤にして怒り出す。


「ムミョウ君! 何いきなり飛び出してってるのよ! 心配したじゃない!」


「あー……今さっき10階層突破してきました……これはその10階層の奴倒して手に入れた剣です……」


 と言って手に入れた剣を差し出すが、ジョナさんは信じない。


「何言ってるのよ!? 昼前に飛び出していって今さっき戻って来たなんて信じられるわけないでしょ!? ちょっと! これに手をかざしなさい!」


 と遺跡にある転送用のより一回り小さい水晶を出してきた。


「これは?」


「これは到達階層を表示してくれる水晶よ。 さっき説明しようと思ったのにあなたが飛び出しちゃうから結局できなかったのよ!」


 僕の問いかけにジョナさんは未だ怒り顔で叫んでくる。


 とりあえずこのままなのもなんなので、僕は手を水晶にかざす。

 すると水晶の中に数字が現れ、10と表示された。

 それを見てジョナさんの顔から急激に怒りの表情が消えていく。


「うそ……でしょ? 本当に……10階層突破したの……?」


 その声を聞いてギルドに少なからずいた冒険者がざわつき始める。


「あっ! ちょっとムミョウ君こっち来なさい!」


 ジョナさんは手招きすると、僕をギルドマスターの部屋まで連れて行った。


 部屋ではジョージさんに剣を見せ、ジョナさんも水晶をテーブルに置く。


「君は強いと確信はしていたが……ここまでとは」


 ジョージさんは手を顎に当てながら唸っている。


「一応依頼のモンスターの調査もしてきたんですが……僕は文字が上手く書けないので代筆お願いできますか?」


「分かったわ。 私が書くわね」


 そう言ってジョナさんが受付に戻ると紙束とペンを持ってきたので、オークの剣や斧持ち、弓持ちやボルスの自分なりの情報を口頭で説明し、ジョナさんがそれを紙に書き留めていった。


「ありがとう。 ムミョウ君。 これはまず10階層到達と調査の報酬ということで受け取ってほしい」


 そう言って金貨30枚をテーブルに置いてきた。

 僕は手を振って受け取るのを拒否したけど、


「受け取ってくれ。 これは正当な依頼なんだ、君には受け取る権利がある。それと剣もこちらで買い取るよ」


 といわれたので、僕は有難く金貨を受け取り、代わりにテーブルに剣を置いた。


「久しぶりに鍛錬場の品が入ったよ……嬉しいね」


 剣をしげしげと眺めながらジョージさんが呟く。


「じゃあ、今日は一旦宿に戻ります」


 僕は立ち上がって部屋を出ようとする。


「今日はありがとう。 無理はしないでくれよ」


 去り際にジョージさんがねぎらってくれた。

 僕はお辞儀をしてギルドを出て、宿へと向かう。


 ジョージさんが剣を眺めているとき……本当に嬉しそうだったなあ……


 自分は今まで強さを求めてずっと鍛え続けてきた。

 あの時何もできなかった自分を変えたいと思って。

 あの勇者を……そしてティアナに……

 その強さがベイルさんやレイやミュール達を助け、こうやってジョージさんを嬉しそうにさせてくれる。


 胸の奥から何か熱いものがこみあげてくる。

 良くは分からなかったけど、つい僕は右手を上げて叫んでしまい、街を歩いていた人に驚かれてしまった……


 さあ! 次は20階層! 明日も頑張るぞ! 



作品を閲覧いただきありがとうございます。

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