第三章 26話 ジョージとジョナの悩みと楽しみ
フッケの冒険者ギルドのマスターであるジョージ・ハイアンは悩んでいた。
3年ほど前からフッケの街の東にある神々の鍛錬場での死傷者が増え始め、30階層到達パーティーが減り始めた。
以前は数年に一度出ていた40階層到達パーティーすらも現れなくなり、鍛錬場で冒険者が持ち帰ったアイテム、武器防具などの買取案件も減ってしまう。
ギルドとしては鍛錬場以外での護衛依頼や、採集依頼、モンスターの討伐依頼などがあるため、すぐには困ったことにはならなかったが、それが1年・2年経つと20階層・10階層を突破するパーティーも減り始めてきた。
現在に至っては10階層を突破するパーティーすらも数えるほどになり、あれだけ人でごった返していたギルドの受付も閑散としてしまった。
ブロッケン連合国やバイゼル王国の、鍛錬場のある街のギルドマスター同士での連絡でも同じ現象が起こっているとのことで、ローレン教主国にある冒険者ギルド総本部から早急な対応が求められていた。
なぜそうなったか……?
理由は簡単である。
鍛錬場のモンスターがあまりにも強くなりすぎたからだ。
以前の10階層には比較的経験の少ない冒険者でも突破できるような、剣を持っただけのスケルトンファイターやファングウルフより多少強い程度のアイアンウルフなどと言った、弱めのモンスターが出現する程度であった。
だが、現在は1階層から素早い動きと爪で冒険者を八つ裂きにして来るウェアウルフ(前は狼人間と言われていた)や人間と同じように鎧兜を着けたオークなどが現れ、冒険者の行く手を阻む。
そして10階層では巨大な鉄の塊を握った真っ赤なオークが立ち塞がり、今まで多くの冒険者の命を奪ってきた。
10階層を突破した数少ないパーティーの話では、その先はワーウルフや大量のグール、本来30階層以降で出てくるはずの重装備のスケルトンウォーリアがおり、それらを排除して進むと骨の馬に乗った骸骨騎士などが現れたそうだ。
すでに到達者もいなくなった20・30階層の魔王の眷属たちは、漆黒の毛を持ったワーウルフが目にも止まらぬ速さで冒険者たちを引き裂いたり、武器どころか魔法すら通じないローレン教の大司教の服を着たワイトキングが数々の魔法を放ってくるという話を聞いた。
冒険者ギルドの現状を憂いつつ、受付後ろにあるギルドマスターの部屋で、ジョージは頭髪の少なくなった頭を抱える。
はぁ……一体どうすりゃいいんだ……
ふと窓の外を見ればすでに季節は春。
そういえば……この時期になればあの2人がやってくるはず……
あの2人は俺の見立てではかなりの強さのはず。
もし今回も来てくれるなら、是非冒険者に誘ってみよう。
この事態を打破出来るならどんな可能性でもやってやるさ。
-----------------------------------------------------------------------------------
はぁ……そろそろ来ないかしら……
冒険者ギルドの係員ジョナもまた悩んでいた。
3年前から突然、希少なゴブリンの軟膏を持ってきた老人と子供の2人組。
老人の方も素敵なナイスミドルだったけど、当時17歳の私より若く見えた男の子がすごく気になっていた
毎年春くらいになるとふらりとやってきて、ゴブリンの軟膏を換金して北と旅立っていく。
その子の後ろ姿がどこか陰があって、私はこの季節になるとあの子が私の前にやって来ないかとそわそわしてしまう。
ジョージさんからもあの2人が来たらすぐに部屋にお通しするように言われてるからね。
今日も来ないのかしら……
何度も業務の傍ら、チラっとギルドの入り口を見たりするけどあの2人は見当たらない。
その内、ばらばらと冒険者たちが依頼の受注や達成報告でギルドの中に入って来る。
他にも受付は空いてるのに、なぜか毎回男性冒険者は私の所へ並ぼうとする。
大体意図は分かっているけど……。
はぁ……もうちょっと実力をつけてから来てほしいものね。
私は強い男性が好きなのよ。
ファングウルフを倒したくらいで自慢しに来られても困るわよ!
そう思いながら、男性冒険者のしつこい誘いを跳ねのけつつ、提出された書類の間違いがないかしっかり確認する。
貴族とか裕福な商人じゃなければ文字をしっかり描ける人は多くない。
なので間違いや抜けなんて当たり前。
後で内容の間違いや達成報告に間違いがあって揉めることになっても困りますからね。
……って!
もう! ここ文字抜けてるじゃない!
あーもう! ここ文章間違ってるし!
頼むから私のとこじゃなくてそこらで暇そうにしてる人のとこ行ってよ!
訂正箇所を赤いインクのペンで一心不乱に直していく。
なにか声が聞こえた気がするけど……まぁ気のせいよね?
「あのー!」
……あっしまった! 訂正箇所が多くて次の人のこと忘れ……て……?
……あ!
「きゃ! あっ……すみません!」
今まで出したことのない変な声が出ちゃった……
だって目の前には去年よりもさらに身体が大きくなって、格好良くなったあの子――ムミョウ君がいたんだから。
顔から火が出そうなくらい熱くなるのを感じつつ、私は急いでジョージさんの所へ走っていった。
ジョージさんからはすぐにお通しするよう言われ、何度か深呼吸してあの子を迎えに行く。
あれ? そういえばムミョウ君だけ? トガさんはどうしたんだろう?
ムミョウ君を部屋に通し、椅子に座ったところで私も椅子に座る。
ジョージさんとムミョウ君との話で、トガさんは病気で亡くなったことを知った。
そうかあ……すごく優しそうな人だったのに……
ニッコリ笑っていたトガさんの顔を思い出しつつ、会話を聞いているとどうやら今年は北へ行くことはなく、しかもこの街にしばらく住むという事だそうだ。
私は心の中でガッツポーズをした。
そしてさらに、ジョージさんは冒険者にならないかとムミョウ君を誘った。
さすがジョージさん! この子が冒険者になってくれれば私が……じゃなくて! 鍛錬場での問題も解決できるかもしれませんね!
私にはジョージさんみたいに強さとか分からないけど、なんというか佇まい? がそこらにいる冒険者とはまるで違う気がするのは分かる。
ムミョウ君はしばらく考えていたけど、冒険者になることを了承してくれた。
ただ、うちでは試験があることを知らなかったみたいで驚いていたけどね。
「では明日の朝ギルドまでお願いします。 その際は……ああ、まだお名前を紹介していませんでしたね。この係員ジョナに言っていただければ私まで取り次いでくれるはずです。」
ジョージさんのナイスアシストのおかげでムミョウ君の専属が私に決まる。
ジョージさんありがとう!
「今後ともよろしくお願いします。 ジョナです」
なるべく平常心で挨拶したつもりだったけど……変に思われてないよね?
お辞儀をした後に見たムミョウ君の笑顔はすごく……素敵だった。
そしてムミョウ君はギルドを出て行ったけど、もう私の心はバラ色だ。
早く明日にならないかな!
作品を閲覧いただきありがとうございます。
感想・レビュー・評価・ブックマークしていただけると作者のモチベが上がりますので是非お願いいたします。




