第二章 17話 影の兆し
2年目の冬も過ぎて新年が明け、それからさらに月日が経って雪も解けたが、僕らはなかなか出発出来なかった。
師匠の風邪が長引いてしまい、寝込んでしまったからだ。
「ゴホッゴホッ……すまんのう。ムミョウ」
ベッドで寝ている師匠はなんだか小さく感じる。
「何言ってるんですか師匠。さっさと治してまた修行に出かけましょう! 」
「……そうじゃな。こんな風邪なんぞさっさと治してしまわんとな……」
いつになく弱気な師匠。
あっ……水も取り替えておかないと。
僕は水桶を持ってドアに手を掛けるとちょうど前にはトゥルクさんがいた。
「あっトゥルクさん、ちょっと水を替えてきます」
「分カッタ。俺ガトガヲ見テイヨウ」
僕と入れ替わるようにしてトゥルクさんが部屋に入っていく。
ドアが閉まるのを確認して僕は外の井戸へと走っていく。
▽
トゥルクめ、苦い顔をしておるのう。
何かを言いたくてたまらぬという顔じゃ。
「トガヨ……風邪ダケデハナイノダロウ? 」
「なんのことかのう? 」
こいつめ……気づいておるのか……?
「私ハ医者デハナイ。ダガ薬師ダ。人ノ体調ノ変化クライナラ分カルツモリダ……。オ前ノ咳ニ血混ジッタリシテイルコトモ、以前ト比ベテモ、オ前身体ガ明ラカニ小サクナッテイルノモナ……」
「ムミョウニハ……教エナイツモリカ? 」
「ああ、今から修行に行こうとしてるのに、そんなことを伝えればあやつはきっと修行を止めてわしの看病をするとか言い出しかねんからな」
「トガヨ、普通ナラソウスベキダ。病人デアルオマエガ、ワザワザ遠クマデ行ク必要モナイ」
「それではダメなんじゃよ……」
わしは重い身体を起こしてトゥルクを見つめた。
「あやつは……ムミョウはきっとわしより強くなる。いや、既にわしをはるかに超えているかもしれぬ。」
起き上がると胸が辛い。貫くような痛みもある。
だが、わしは言わねばならぬ。
「後は……残された時間であやつにわしの全てを教えたい。それに、あやつにまだわしの問いの答えを見せておらぬ」
「これはのう、老人の……若者に対する最後の奉公じゃよ」
わしがグッと見据えると、トゥルクが何かを考えていたようじゃが、軽く頷くと懐から何かの薬の瓶を出してきた。
「これは? 」
「コレハ痛ミ止メニナル、ノペイン草ヲスリ潰シテ果汁ナドト混ゼテ飲メルヨウニシタ薬ダ」
「一匙ダケデモ、オ前ノ胸ノ辛サヤ痛ミニモ効果ガアルハズダ」
トゥルクから瓶を受け取るとしげしげと瓶を眺める。
こいつめ……だいぶ前からわしの身体の事を知っておったな。
じゃなきゃこんな薬をポンとわしに出してくるはずが無かろうて。
「オ前ノ人生ダ、俺ハ手助ケハシテモ口出シハセヌ」
「すまんのう……」
わしは良い弟子を持てたが、良い友も持てていたようじゃ。
お互い軽く笑いあっているとムミョウが水桶を担いで入ってきおった。
「あー! 師匠ダメですよ! ちゃんと寝てないと! 」
「ちょっとくらいよいではないか! 」
「ダメです! さっさと治して修行に行きましょう! 」
「病人の扱い厳しくないかの? 」
「殺しても死ななそうな師匠が何言ってるんですか……」
手厳しい一言に思わずトゥルクが笑い出しおった。
ムミョウめ、師匠使いが荒くなりおって!
まぁよかろう、最後までお前に付き合ってやるからの!
▽
それから1週間ほどで師匠は問題なく体を動かせるようになり、急いで準備をしてブロッケン連合国へ出発することにした。
ただ、出発が遅れてしまった分、向こうでの滞在時間は短くすることにし、病み上がりの師匠のこともあるので、体調が悪くなっても戻るようにすると決めた。
フッケでも、軟膏の換金はするが、ベイルさん達の集落へは行かず、ギルドからお金を渡してもらうよう依頼するという事も決め、前年よりも遅くなったが僕たちは村を出発した。
道中は師匠の体調も良く、10日でフッケに到着すると、手早く換金を済ませ食料を補充し、その日のうちに連合国へ向かった。
今回も魔王四天王の1人と当たることが出来るだろうか?
やっぱり僕の修行なら四天王辺りと戦うのが一番だろうしね!
最近は師匠も僕との立ち合いもあまりしなくなったし、型や素振りばかりでちょっと身体が訛ってきてるからなあ……
よーし! やってやるぞー!
僕は心の中で叫びながら足取りも軽く、連合国へ続く街道を歩いて行った。
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俺は、ブロッケン連合国の街ハイネスの領主の館でワインをあおっていた。
くそ! どうなってるんだよ一体!
この街へ来てからすでに半年以上経過している。
目的はもちろん神様の鍛錬場の制覇。
だが俺達はここで思わぬ足止めを受けていた。
鍛錬場に出てくるモンスターどもが明らかに強くなりすぎているのだ。
ノイシュで出てきた鎧兜を付けたオークだけじゃなく、人間みたいに二本足で立つ狼や骸骨の馬に乗った骨の騎士様まで出てきやがる。
どいつもこいつも俺達でも苦戦するような強さだったが、ついこの間、どうにか20階まで制覇することが出来た。
ところがどうだ? 連合国のお偉いさんどもはそんな事もつゆ知らず、早く鍛錬場を制覇して魔王を倒してくれと矢の催促……
自分たちの領地から金が取れないからってピーピーうるせえ連中だぜ。
ふとベッドに目をやると散々抱きまくって疲れて眠りこんでいるサラとアイシャ。
こいつらの身体はいい。何度抱いても飽きが来ない。
だが……そろそろティアナの味も知りたい頃だ。
それとなく声は掛けてみるが、やはりああいう目に遭った以上、なかなか首を縦に振らねえ。
せっかく俺の女にしてやろうとあの辛気臭え街から連れ出してやってからかなり時間が経った。
その間に身体もますます成長して、俺好みになってきてるってのに手が出せないってのはもどかしいぜ。
だがここで焦って強引にやっちまうと後が怖いからな……
魔王をぶちのめしてから甘い言葉で囁けばティアナも股を開いてくれるだろうよ。
だがその前に……とにかくここの鍛錬場の攻略だ……
俺達に突き付けられた至上命題をどうやって果たすか、その考えに対する答えも出ないまま夜は更けていく。
▽
私は窓の外を見ていた。
すでにフォスターを離れて2年以上が経ちあの時から身長はかなり伸びた。
忌まわしい出来事はもう最近は夢にもでなくなりつつある。
勇者様やサラさん、アイシャさん達と何度も命の危機に遭いながらも私は鍛錬場を攻略し、力を得てきた。
あとはこのハイネスの鍛錬場を制覇すればいよいよ魔王と戦う。
両手で自分の身体をギュッと抱きしめる。
勇者様が、サラさんやアイシャさんと毎夜愛し合っているのは分かっている。
そして……勇者様が私に好意を持っており、私と愛し合いたいという気持ちを持って接して来ているというのも分かる。けれど……
私は……勇者様の事が……好きなの?
自分に問いかけてもよく分からない。
良い人だとは思っている。
あの場所から私を助けてくれたし、毎日私を優しく気遣って接して来てくれている。
でも好きかと言われると……素直には頷けない。
そもそも私が勇者様についてきたのは賢者になれるかもしれないという希望のせい。
強くなりたい。弱いままではいたくない。そういう気持ちで私は勇者様のパーティーに加わったはずだった。
もし、魔王を倒した後に勇者様から告白されたら……どうするべきだろう?
将来に来るであろうその選択に対する答えは……私にはまだ分からない。
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