第二章 幕間 強さを求める理由
「よーし、んじゃ今日はサッサと二十階層まで攻略しちまおうぜ」
勇者様が背伸びをしつつ前を歩く。
「はい! バーン様!」
「さあ、頑張りましょう。ティアナ」
「はい! アイシャさん」
私たち三人はその後ろをついていく。
フッケという街は、ノイシュ王国の王都から近く道路も整備されており、規模も大きく人口も多い。
けれど、この街最大の特色は、今私達が向かっている街東側郊外にある鍛錬場である。
この鍛錬場はバーゼル様が復活する魔王に対抗するため、人間たちをモンスターと戦わせて経験を積ませるために作られたらしい。
階層は地下40階まであり、各階層は大広間と何個かの小さな部屋となっており、そこには大陸にすむ通常のモンスター以外に、過去魔王が出現した際に現れた新種のモンスターなども出現する。
鍛錬場はバルムーク大陸のみならず、ヤポンやその他の大陸など世界中にいくつもあり、世界のどこかに魔王が出現したとしても人間達が対抗できるようにされている。
というのを皆さんから聞かされた。
「アイシャ。矢の数は十分なの?」
「大丈夫よ。今回は多めに持ってきてるし、ティアナにも矢束を担いでもらってるから大丈夫だと思うわ」
街にいた時とは違い、真っ白でピカピカに磨き上げられた金属鎧を着る勇者様。
私の左にいるサラさんも、急所を保護するやや薄手の緑色のスケイルメイルを装着し、右のアイシャさんは黒で統一した革鎧に身を包んでいる。
「ティアナ。教わったことはちゃんと覚えてる?」
「はっはい……大丈夫です!」
アイシャさんの矢束を担いで最後尾を歩く私は、フォスターから出発する際に来ていた赤いフード付きのローブ、その中には最低限の防御のために鎖帷子を着こんでいる。
私たち勇者一行は、フォスター伯爵から頂いた金貨200枚と王都での支援金などを使って装備を一新し、魔王討伐の準備を進めてきた。
そして私の魔法習得を終えた次なる段階として、実戦経験を積むため鍛錬場へ挑戦を始めており、すでに十階までは踏破し、今日は二十階を目指すことになっている。
最終目標は各十階層にいるボスモンスターを倒すことによって得られる加護のついた武器、そして最後の四十階層のボス攻略による加護を得ること。
だが魔王は、出現は確認されてはいるものの完全に復活するまでには早くても3年は掛かるとされており、バーン達は慌てることなく鍛錬場の制覇に力を入れる。
「十階層以降は確かグールとかワイトみたいな死霊系のモンスターなんだっけ? アイシャ」
「そうね、死霊どもには物理攻撃が効きにくいから……サラだけじゃなくここからはティアナにも活躍してもらわないとね。楽しみにしてるわよ、ティアナの魔法!」
「はっはい!」
鍛錬場の入り口に着くと、何人もの冒険者達が入り口で熱心に地図を見ながら話し合っていたり、装備品のチェックなどを行っていた。
私たちはそれに目を向けることなく、横の台座に置かれている水晶に触れる。
水晶は青白く輝くなり、あっという間に11階層の階段前の水晶に私たちを転送してくれた。
「んじゃ!パパっとここの守護者も片づけちゃってさっさと宿に帰ろうぜ!」
こんな場所でも緊張感のない勇者様の言葉とともに私たちは前進を開始した。
11階へ降りると早速前方からグールの集団が向かってくる。
まだかなり遠くにいるはずなのに、鼻の曲がるようなにおいが強く漂ってくる。
「うえ~……ティアナ~! 魔法でさっさとやっちゃってよ~!」
「でっでは……いきます!」
やや緊張しながらも前に進み出ると同時に、短剣を抜いて魔力を集め始める。
剣にどんどん魔力が集まっていくのを感じ、目の前には燃え盛る炎が渦を巻き始めてくる。
そして……私は静かに目を開け、魔法を唱えた。
「『炎の嵐』!」
その瞬間グール達の目の前に炎が渦巻く巨大な竜巻が3本現れ、瞬く間にグール達を飲み込む。
竜巻が消え去った後は、グール達の灰すら残っていなかった。
「はぁ……出来た……」
「やるじゃない!さっすがティアナ!」
気持ちを落ち着けるように大きく息を吐いていると、サラさんが思いっきり抱き着いてきた。
「ちゃんと出来たじゃない!すごいわね」
「さすが! よーし、ティアナちゃんの実力もついてきたところでガンガン進もうか!」
その後は各階を危なげなく突破し、あっという間に20階へと到着。
20階の守護者の部屋に通じる扉を開けると部屋の中央には黒いローブを着た足のない巨大な骸骨がこちらを見ている。
「あれはワイトキングね……厄介だわ」
「よし、じゃあ俺の雷魔法とサラの魔法剣であいつを叩く。ティアナは火魔法で援護しつつアイシャの矢に炎を付与してくれ」
「分かりました!」
勇者様が魔法の準備をする間、サラさんが一気にワイトキングへと肉薄し、炎をまとわせた剣で斬りつける。
私は種火に火をつけ、アイシャの矢に火をつけられるようにするとともに『炎の矢』をワイトキングへ撃ち込んでいく。
『GAAAAAAAAAA!』
ワイトキングはサラさんの剣で左腕の辺りを斬りつけられ、胴体にも炎をまとった矢や『炎の矢』が何本も突き刺さる。
自分を攻撃する者への怒りか耳をつんざくような恐ろしい叫び声をあげる。
ワイトキングが右手を挙げると、手のひらに巨大な青い炎が現れ、サラさんに向けて投げつけてくる。
「あっぶない!」
間一髪、サラさんが転がりながら回避すると、さっきまでいた場所の石床がどす黒く焼け焦げていた。
サラさんがワイトキングを睨みつけてもう一度斬りかかる。
横一閃に胴体を斬るが手ごたえもなくすり抜けてしまう。
やはり魔法を付与しないと効果は薄いようだ。
「よし! みんな俺から離れろ!」
後ろで魔法を準備していた勇者様が叫ぶ。
「『雷電の矢』」
左手から巨大な雷が放たれるとともに、バリバリッと部屋中に轟音が響き渡る
雷はワイトキングの胴体を貫くとそのまま後ろの壁に突き刺さった。
『GURRRRRRRR!』
ワイトキングは断末魔の叫びをあげながら白い灰となって消えていった。
するとその場に赤い宝箱が現れ、奥にあった出口の扉が開く。
私たちの目的の一つ。
どういう原理かはわからないけれど、モンスターや守護者を倒すと武器や防具などが入った宝箱が手に入り、またモンスターの歯や皮などの素材も、地上には居ない種類のモンスターであったりすれば高値で売れるのだ。
「終わった~! あ~疲れた!」
勇者様がその場に座り込むがサラさんとアイシャさんは嬉しそうにスキップしながら宝箱へと近づく。
「何が出るかな~?」
「新しい弓とか出てくれないかしら……?」
サラさんが宝箱を開けると途端に光が溢れ出し、その後収まってから中を見ると柄に赤い宝石の埋め込まれた傷一つない剣が入っていた。
「うーん。これは私向きの剣じゃないわね」
「バーン様に使ってもらうにもちょっと短いですね……」
「となるとこれは鑑定してもらってからティアナに渡すとしましょうか」
その頃私は、身に着けていたポーチから白い布を取り出し、勇者様に汗を拭いてもらうために手渡していた。
「バーン様どうぞ」
「ありがとう、ティアナちゃん。どう? 僕かっこよかった? 」
「はっはい……とても素敵でした」
「でしょ~? いや~ティアナちゃん僕の事もっと好きになってくれたかなあ? 」
「はっはい……」
「そうでしょ! そうでしょ! だからティアナちゃんもっと僕の事を知ってくれるためにも今度一緒に街でも散策しようよ!」
鍛錬場へ挑戦するようになってから、やけに勇者様が私に近づいてくる。
「バーン様? 今ティアナに何か仰ってましたか?」
「い~や? 何も?」
「はあ……まだティアナは15歳ですし、それに……女として辛い目に遭ったのですからその辺りは控えてくださいませんか?」
私と勇者様の間を遮るように、サラさんとアイシャさんが割って入って来た。
「……分かった分かった。でも俺としてもティアナちゃんには色々楽しんでほしいんだ。そこだけは分かってくれよ」
けれど、言葉とは裏腹にどことなくぎこちない笑顔を見せてくる勇者様。
そのまま立ち上がり、足早に出口を抜けて地上へと帰還するゲートへ向かうので、私達も慌ててその後を追う。
▽
フッケの街に戻ると、私は他の皆さんと別れ、一人屋敷に戻り寝巻にも着替えずベッドに突っ伏した。
不意にリューシュの顔が浮かぶ。
勇者様に言われた……私は見捨てられたのだと……。
けれど、どうしてもその言葉を信じ切ることができない。
「すべてが終わってフォスターに戻れたのなら……今度はちゃんとみんなと話さなくちゃ……」
そう思いながら、私は静かに目を閉じた。




