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第二章 9話 実感と腕試し

 僕達がゴブリンの村に来てしばらく経ち、ゴブリンの村には雪が積もって一面銀世界。

 それでも毎朝の型や立ち合い稽古は続く。


 雪がキレイにどけられた村の広場で、僕と師匠はお互い木刀を正眼に構える。

 お互い微動だにせず、ただ吐く息だけが白く昇って消えていく。


 そのうちジリジリと僕が間合いを縮めていく。

 師匠の方は動くことなく僕をじっと見据えたまま。


「はっ!」


 先に仕掛けたのは僕。

 電光石火のごとく師匠の喉を狙って突きを繰り出す。

 けれど、師匠にはその攻撃を冷静に木刀を右にずらして捌かれてしまった。

 僕はすぐに下がり再び構えなおす。

 師匠の追撃はない。


 この場が静寂に包まれる。

 しかし、それも一瞬だった。

 師匠が目にもとまらぬ速さで右袈裟斬りを放つが、僕は一歩引いてどうにか躱す。

 師匠が一旦木刀を戻そうとしたので、僕は一気に踏み込んで上から木刀で押さえつけて封じる。


 僕は手首を返しそのまま木刀を師匠の胴体へ滑らせたが……。

 次の瞬間にはがら空きの僕の胴体へと師匠の木刀が突き付けられていた。

 寸前、師匠が足を引いて半身になり、木刀をかち上げて僕の木刀を跳ね飛ばしたために起きた出来事であった。


「参りました。師匠」


「ふっふっふ、突きは良かったが……まだまだじゃのう」


「結構速く出来たと思うんですが……」


「それはのう、起こりが見え見えじゃったからじゃ」


「起こり?」


「要は剣を抜く・振るう・突くなどをする前に見える動作の事じゃ。お主の突きの際、若干両手が引くのが見えたし、背中も丸まっておったから、それを見てわしは突きが来るなと判断したんじゃ」


「なるほど……」


 如何に突きを速くすることにばかり気を取られて、突きをする前の動作なんてのは気にしてなかったからなあ……。

 あっ! そう考えると逆に師匠の袈裟斬りはほとんど姿勢がぶれずにいきなり飛んできたもんな。

 避けるのも紙一重でかなり辛かった。


「まぁその辺りはまた経験を積んでいくしかないじゃろうて……わしとの立ち合いでしっかり覚えていくがよい」


「有難うございます! 師匠!」


 師匠の言葉に深くお辞儀をする。


「さて、そろそろトゥーラの朝ごはんを食べようか」


「はい!」


 今日の朝ごはんは何だろうなと2人はワクワクしながら家に戻っていく。

 家の中ではトゥーテちゃんやトーラさんなどがすでに座っており、自分たちの座るテーブルにも2人分のスープとパンが置かれていた。


「毎朝オ疲レ様2人トモ」


「ネェネェムミョウオ兄チャン。剣術ッテ楽シイノ?」


 トゥーテちゃんが不思議そうに聞いてくる。


「ああ、楽しいよ。毎日少しずつ自分が強くなっていくのが分かるんだ」


「強クナルノガ楽シイノ? 」


「うん」


 僕は強くうなずく。


「師匠に会えたおかげで、今まで出来なかったことが出来るようになったし。難しかったことが簡単になった」


 そこまで話したところで一息入れる。


「前はさ、自分は何も出来ない、誰も助けられない弱い人間だって思ってた……今も出来ることより出来ないことの方が多いし、師匠との立ち合いでもまだまだ遊ばれてるなってのがよく分かる。……それでも……以前の自分よりは強くなれてるって感じられるのが……すごく嬉しいし楽しいんだ」


「ソウナンダ……ジャア僕モ大キクナッタラ、トガオジイチャンヤムミョウオ兄チャンニ、剣ヲ教エテモラッテ強クナリタイ! 」


「待て待て! トゥーテは剣よりトゥルクに弓を習いなさい。でないとトゥーテを取られた! と言ってトゥルクが拗ねるぞ?」


 師匠がすかさずツッコミを入れると、その言葉で家の中は温かい笑いに包まれる。


 朝食を終えると、少し後にトゥルクさんが自室から出てくる。


「なんじゃ? 夜更かしか?」


「薬作リニツイ集中シテシマッタ。トガモ多メニ作ッテクレナイカト言ッテオッタダロウガ」


「そうじゃったかの?」


「師匠? そんなに多く薬を作ってもらってどこかに行くんですか?」


 一体何に使うんだろう……?

 不思議に思って尋ねてみた。


「ああ、いずれお前には話しておこうと思ってたがな、少し前にブロッケン連合国とやらで魔王が出現したはずじゃろ?」


「ああ、そういえばそんな事も言ってましたね」


 僕の頭にあの勇者の顔がチラつく。そのせいか言葉もちょっと荒っぽいものになってしまった。


「その魔王とやらなんじゃが……」


 僕の返答を気にすることなく、師匠は話を続ける。


「わしとお主で殴り込みにいかんか?」


「……え?」


「「エ?」」


 師匠……今なんて言いました?

 魔王に……殴り込み?


 突拍子もない話過ぎて、何を言っているのか分かっていないトゥーテちゃん以外全員固まってしまう。


「だってのう、ここらじゃ戦うのはファングウルフとかで他だとオーガくらいじゃしのう……お主を実戦で鍛えるならやっぱ魔王くらいじゃないと話にならんじゃろ?」


「いやいやいやいや! 何言ってるんですか師匠!? そりゃ以前と比べたら確かに僕は強くなれましたけど、最初の実戦相手が魔王って乗り越える壁が高すぎません!?」 


「いやぁ、わしなら魔王は余裕じゃろう、だがお主の実力はまだまだ未知数じゃ……まずは壁を知ってポッキリ心を折ってだな……」


「どう考えても心どころか命までポッキリ折れそうなんですが!?」


 僕が必死に反論すると、師匠はそれを見てテーブルを叩きながらいきなり笑い出した。


「ハッハッハッハ! いやー! お主のその顔はいつ見ても楽しいのう!」


 くそう、また遊ばれた……。


 その反応から質の悪い冗談だと察すると、僕は怒って椅子にドカッと座りなおした。


「まぁいきなり魔王とはいかんが、魔王の周辺には今まで見たこともないモンスターが現れたりするんじゃろ?」


「はぁ……確か魔王の魔力にあてられてモンスターが急激に進化するんでしたっけ?」


「そうそう、そういう者たちを相手にして戦うのも良い鍛錬じゃと思ってな……まず雪解けを待ってここ出発し、三月かけて連合国に行ったら手当たり次第にモンスターにケンカを売って三月過ごす。そして三月かけてここに戻って来るという事にすればよいじゃろ」


 師匠の大雑把すぎる計画に僕はもちろんトゥルクさんも呆れ果てていた。


「友ヨ、モウ少シマトモナ計画ヲ練ロウトイウ気ハナイノカ……」


「わしは生まれてこの方、計画というものをしたことが無いのでな……人生行き当たりばったりじゃわい! がっはっはっは!」


 まるで悪びれる様子の無い師匠にトゥルクさんも手を挙げて降参するしかなかった。


 でも……確かに……。


 師匠の言葉を考えているうちに、どんどんと心が熱くなっていくのが分かる。


 鍛錬を重ねるうち、自分がどこまで強くなったのか試してみたいという気持ちが沸いてきているのも事実。

 行く手に待ち受ける見たこともない新種のモンスター……そしてその先の魔王……。


「師匠――」


 僕はゆっくりと立ち上がった。


「行きましょう。ブロッケン連合国へ……」


「ふふっ、ムミョウよ。いい顔をするようになったな……そういうわけだトゥルク。すまんが雪が解けたらわしらは行くぞ」


 トゥルクさんは大きく息を吐き、やれやれという顔で2人を見つめてくる。


「分カッタ。今ノウチニ干シ肉ヤ保存食モシッカリ作ッテオクゾ。」


「すまんのう、トゥルク」


「ナニ、友ノ頼ミダ。他ノ者ニモ頼ンデ食料ヲ分ケテモラウヨウニスルカ」


「ではムミョウよ。外も雪は降っておらんようだ。鍛錬を再開するぞ。出発までにビシバシ鍛えてやらんとな!」


「よろしくお願いします! 師匠!」


 僕と師匠は勢いよく外に出て、再び木刀を構え向かい合う。

 はるか遠く、まだ見ぬ敵との邂逅に胸躍らせながら、意気揚々と打ち込みを始めるのであった。


いよいよムミョウの鍛錬の成果が!


作品を閲覧いただきありがとうございます。

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