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講義③『設定』と『描写』について

 改稿を終えました。


 改稿1回目の際に論じた時に「隠された描写」という重要単語を使いましたが、それを「隠された描写」→〈隠蔽描写〉と名称を変更しました。また「描写不足」も意図したものは〈不足描写〉として扱っています。


 それと最後のほうで「ユーザーの資質」に関係する話を追加したり、「FF8」の例を使った話に「伏線」に関する筆者の考察も加えました。


 ……なぜか「FF8」を扱った第④話がすごいpvを叩き出したんですよね。改稿したのにそれ以下のpvだったらどうしよう。

 講義③では『設定』と『描写』について論じていきます。


 筆者の定義する『設定』は「キャラクターと世界観を形作るもの」です。これを〈基本設定〉〈改変設定〉といった重要単語を使って説明していきます。


 筆者の定義する『描写』は「地の文や会話文、映像などでストーリーを描写してユーザーに説明すること」としています。これを〈補強描写〉〈隠蔽描写〉〈偽装描写〉という重要単語を使って説明します。


 最後に上記のことと「FF8」という商業作品を使って「伏線」や「どんでん返し」といった総合的なことを説明します。




 では講義③を始めます

 まず『設定』について語りましょう。


 この『設定』は「キャラクターや世界観を形作るもの」です。具体的には「容姿」「人格」「地形」「世界情勢」といったプロットなどのことを指します。


 筆者の創作論ではこの『設定』は「ストーリーと共に必ず存在するもの」と定義しています。講義②で『キャラクター』と『世界観』のことを説明しましたが、これら二つを形作るものですから必ず存在するわけです。


 講義②で「簡単なストーリーでも曖昧なキャラクターや世界観が存在する」と言ったようなことが書いたと思います。あれは創作者でなくユーザーが仮のものとして『設定』を作ったと言えますね。


 筆者はこの『設定』を大きく2種類に分けることができると考えています。その2種類とは〈基本設定〉と〈改変設定〉です。


 まず〈基本設定〉を説明しましょう。


 簡単に言えば〈基本設定〉は「ストーリーが進行する前に存在する設定」のことです。プロットで書かれるであろう『キャラクター』の詳細がわかりやすいでしょう。「名前は○○。職業は勇者。性格は正義感が強い。好きなことはetc……」というやつです。


 そのためどの「ストーリー」を主軸にするかで変わります。「ドラゴンボール」の主人公「孫悟空」を例にして説明します。



例:「ラディッツ編の始まる直前の孫悟空」

  =「ピッコロの出場した天下一武道会で優勝した地球人の孫悟空」

 「ナッパ・ベジータ編が始まる直前の孫悟空」

  =「ラディッツとの戦いで死亡した戦闘民族サイヤ人の孫悟空」



 という感じで納得していただけるでしょうか? 他にも『設定』はあるけど長くなるので省略していますが。


 これが〈基本設定〉です。見ての通り「どのストーリーをスタート地点におくか」によって「どの『設定』を〈基本設定〉にするのかを決める」というだけです。


 では〈改変設定〉というのはなにか?


 上記の例を見ればわかるかと思いますが〈改変設定〉は「基本設定がストーリーから発生したその結果により変化した設定」のことです。


 式で表すなら「基本設定+ストーリーの結果=改変設定」ですね。〈改変設定〉が過去のこと書くストーリー(回想シーンなど)で使う〈改変設定〉なら「基本設定―ストーリーの結果=改変設定」という表記にすることができます。


 この〈改変設定〉は「1つのストーリーが発生するたびに誕生する」ものです。そんなに細かいの? と思われるかもしれませんが細かいのです。


 この例を見るとわかりやすいかもしれません。



 聖剣を持つ勇者(基本設定)→勇者がパンを食べた(ストーリー発生と結果)→パンを食べた聖剣を持つ勇者(改変設定)。



 という感じです。ほんの少しのことでも〈改変設定〉になります。


 この場合はパンを食べたこと以外は〈基本設定〉のままなのでそう言いたくなりますが、厳密に言えば〈改変設定〉と言うべきです。


 パンを食べてない勇者が「今日はまだ何も食べてないんだ」と話すのは何も違和感がありません。しかしパンを食べた勇者がこのセリフを言ったら「作者はパンを食べ物とは認識していないのかな?」という言葉がユーザーから飛んできます。これは『ストーリー』が不成立であるという指摘です。


 もっともそういうセリフを言っても問題ない『設定』なら飛んできませんけどね。


 つまり、生まれた〈改変設定〉によっては「基本設定で問題のないストーリーが改変設定では問題になることがある」と覚えておいてください。


 また「設定は常に改変されるもの」と認識しておきましょう。




 では次に『描写』について説明します。


 筆者の定義する『描写』は「地の文や会話文、映像などでストーリーをユーザーに説明すること」としています。


 説明は相手に何かを教えたり理解させることです。つまり『ストーリー』『キャラクター」『世界観』『設定』は『描写』されなければ存在することができません。


 それも当然ですね。極端に言えば「こういうストーリーなんだ」と言って白紙のコピー用紙を1枚渡されても白紙のコピー用紙以外の何物でもありません。ユーザーは断じて超能力者や魔法使いではないのです。


 そのため一般に「描写不足でクオリティが低い」という批判は「説明不足でキャラクターが曖昧になっていてストーリーの感情を与える力が小さい」「ストーリーのⓈの説明がないためストーリーが成立していない」「読者が理解した改変設定から推察するにこのキャラはこのストーリーの前には復讐を抱いているはず。それなのに地の文で復讐心がないと書かれている。どういうことだ?」などの指摘が該当する可能性があります。


 そしてこの「描写不足」は必ずしもクオリティを下げる要因ではありません。また『描写』は「いつでもどこでもどんなものを表現してもかまわない」と考えています。


 それを『描写』の手法である〈隠蔽描写〉〈不足描写〉〈補強描写〉〈偽装描写〉といったもので説明したいと思います。


 まず〈隠蔽描写〉から説明しましょう。これは『描写』の一種です。簡単に言うと「描写していないのに描写と同様の効果を持つもの」です。


 しかも地の文などなんらかを『描写』した際、意図的かどうかは関係なくその中に〈隠蔽描写〉が含まれていることがあります。

 例を出すとこんな感じです。



例1:「パンを食べた」≒「空腹ではない」

例2:「猪突猛進な武将」≒「計略を好まない、計略に無理解な武将」



 これはユーザーが勝手に想像してイメージしている場合もあれば、それまでに描いた創作者の『描写』によってユーザーがそのように理解している場合があります。〈隠蔽描写〉はこれらにとても影響を受けやすいです。


 この〈隠蔽描写〉が不都合な場合は、それを発揮させないような『描写』を加えたり、変更したり、あるいは削除したりする必要が出てきます。例えば例2の「猪突猛進な将軍」を書いたら「計略を好まない、計略に無理解な将軍」とユーザーに受け止められる可能性があり、それが不都合であると創作者が判断したとしましょう。


 その場合はこういった会話文を『描写』すればいいのです。



「しかし意外でしたな」

「軍師よ、なにが言いたいのだ」

「失礼ながら、将軍はこういった計略に反対なさると思っておりました」

「ふん。確かに好まぬがこの戦略には必要なものだ。そういったものを否定するほどワシの眼は曇っておらん」



 このようにユーザーへ「計略を好まないが必要であるなら使うこともある」という説明をすれば不要な〈隠蔽描写〉だけを排除できます。


 次に〈不足描写〉を説明しましょう。これは単純に「創作者が意図的に内容を不足させた描写のこと」を指します。


 アニメなどで言えば「名探偵コナン」の「犯人の黒いシルエット」が代表的な例だと思います。犯人を探すのが「コナン」のおもしろさなのに始まってすぐそのまま犯人を『描写』するわけにはいきませんからね。


 文章なら「○○さんは震えている」といったようにわかりにくいものになります。本来ならこれを「○○さんは怖くて震えている」「○○さんは武者震いで震えている」というようにするのが丁寧な『描写』です。


 これを「創作者があえて意図的に不足させる」ことで「○○さんは震えている」と『描写』したものが〈不足描写〉です。意図的でないものは「描写不足」などに該当します。


 これをのちに説明する〈補強描写〉と組み合わせるといわゆる「伏線」というテクニックになります。


 では〈補強描写〉について説明しましょう。これが先ほどの「描写はいつでもどこでもどんな表現をしてもかまわない」といった大きな理由です。


 もちろん〈補強描写〉も『描写』の一種です。簡単に言うと「すでに描写したストーリーや設定などの不足している部分を補強する描写」です。


 これを使えば「ストーリー1の基本設定」を「改変設定27を使うストーリー27を書いた描写で説明する」というかなり離れた『ストーリー』の場所で『描写』することもできます。


 例えば「ドラゴンボール」は「基本設定」を「シナリオ」を3つも4つもぶっ飛ばして『描写』しています。

 例を出しましょう。



「ラディッツ編の始まる直前の孫悟空」

=「ピッコロの出場した天下一武道会で優勝した地球人の孫悟空」

「ナッパ・ベジータ編が始まる直前の孫悟空」

=「ラディッツとの戦いで死亡した戦闘民族サイヤ人の孫悟空」



 マンガ「ドラゴンボール」において、この中で『シナリオ』を3つも4つもぶっ飛ばして描かれた〈基本設定〉の『描写』があります。どれでしょう。


 正解は「戦闘民族サイヤ人」です。


 うろ覚えですが、ラディッツ編でラディッツが「貴様の名前は孫悟空などではない。惑星ベジータで生まれたサイヤ人のカカロットだ。そしてこのラディッツの弟だ」のような内容のセリフを言う『描写』があります。


 これ以前の『シナリオ』では明確に「サイヤ人である」という『描写』はありません。宇宙から来たなどの『描写』はあったと思いますが。


 つまりこれを読むまで読者は「どっかの宇宙人」「地球で育ったので地球人」という種族であると読者が勝手に理解していた、あるいは作者に理解させられていたと言うべきでしょう。


 この〈基本設定〉を説明したものが〈補強描写〉です。「すでに描写したストーリーや設定などの不足している部分を補強する描写」ですからね。


 理由は「孫悟空はサイヤ人」は「それまでのシナリオにおいてどのストーリーからも影響を受けていない設定」だからです。上記のラディッツの『描写』によって「孫悟空は生まれた時からサイヤ人」=「第1巻から孫悟空はサイヤ人」という説明をユーザーにしているというわけです。


 この『描写』の手法は作者が意図的に「描写不足」を行なったと言えます。確かに「描写不足」ですが、「描写不足でクオリティが低い」などといった批判がされることは非常に少ないと思います。というかないと思います。


 その原因は「描写されようがされまいがそれまでのストーリーやキャラクター、世界観に悪影響を及ぼさないから」ではないでしょうか。


 またこの意図的に利用した「描写不足」によって一般に言う「伏線」「どんでん返し」が行われるのではないかと考えています。


 では次に〈偽装描写〉について説明しましょう。簡単に言えば〈偽装描写〉は「創作者が嘘や偽りのストーリー、設定を描写すること」です。この〈偽装描写〉は〈補強描写〉と組み合わせて使われることが多いと思います。


 例えば小説の序盤で「転校生は男性だった。ただ妙に女の子っぽい。女装したら誰でも女の子と間違えるレベルだ」という『描写』がされ、のちに「転校生は女だった」という〈補強描写〉がされる例ですね。この前者の文が〈偽装描写〉になります。


 もちろん「嘘や偽り」ですから「ストーリーの成立と不成立」は『設定』に従います。上記の「男装した女性」が「男子トイレで立ちションする」なんて『ストーリー』を書いたらユーザーからおかしいと指摘されます。


 ということで、次に移りましょう。




 最後は「伏線」「どんでん返し」といったテクニックを『設定』と『描写』を用いて説明します。特に〈隠蔽描写〉〈補強描写〉を使うと思います。


 ではまず、その説明に使う商業作品をご紹介しましょう。この作品は〈隠蔽描写〉〈不足描写〉〈補強描写〉〈偽装描写〉を過剰とも言うべき頻度で利用していると思います。


 その商業作品とはPSのゲームソフト「ファイナルファンタジー8」です。


 システム面でもシナリオ面でも賛否両論のあるFF作品ですね。


 この作品は複数の『シナリオ』に分けることができる長編です。その中にわかりやすい〈補強描写〉〈隠蔽描写〉を使った『シナリオ』があります。


 その『シナリオ』とはこれです。



「主人公スコールが率いるSEEDチームが、世界征服をたくらむ魔女イデアを暗殺しようとするも、魔女の力により失敗してしまう」



 ディスク1の終盤、全体の4分の1くらい進んだ序盤の『シナリオ』ですね。


 この中の『ストーリー』の1つにこういったお話があります。



「人の気配のない高い場所から魔女を狙撃するも魔女が魔法バリアを展開して失敗。そしてスコールが魔女イデアに特攻する」



 それを行なう場所にはスコール「狙撃補佐+リーダー」とアーヴァイン「狙撃手」とリノア「おまけ」という3名のキャラクターがいます。


 その『ストーリー』の狙撃をするシーンでのスコール(叱咤激励)とアーヴァイン(緊張でガタガタ。今の技術なら鼻水と涙の表現もされると思う)の会話の『描写』がこういった感じのものでした。



ス「撃て! アーヴァイン・キニアスッ!」

ア「撃てないんだッ!!」

ス「「……(ダメだ、こいつビビってやがる)。いいかキニアス。おまえは狙撃を行なうんじゃない。合図をするんだ」

ア「……合図?」

ス「そうだキニアス。狙撃で魔女を殺すなんて思うな。俺と別動隊が総攻撃をする合図だと思え。あとは俺たちに任せるんだ」

ア「ただの、合図……」



 と言ってアーヴァインが狙撃するわけです。スコールの()はゲーム内で表示される心の声の『描写』です。


 この「撃てないんだっ!」というセリフに着目してください。


 アーヴァインという『キャラクター』はそれまでの『シナリオ』でこのように『描写』されています。


「プロの傭兵で狙撃のスペシャリスト。かわいい女の子に声をかけまくるナンパ野郎な17歳の男性。狙撃直前でなんとビビり始める」


 この「描写された設定」から、このシーンで発したアーヴァインのセリフは、プレイヤーはこういう解釈をして理解するわけです。



ア「〈プロの傭兵だけど、本当の僕は超ビビりでプレッシャーに弱いやつで、怖くて〉撃てないんだっ!」



 〈〉はそれまでの『描写』からプレイヤーが推察できるアーヴァインの心境です。これが〈隠蔽描写〉に該当します。筆者は「FF8」の初プレイ時にこのように理解して「シナリオ」を進めていました。


 そのため当時のプレイヤーとしての筆者の〈感情〉は「なんというヘタレ」「プロの兵士でこれは……うーん」「いやビビるのはわかるか」などといったものでした。


 ですがこの後の『シナリオ』で描かれる「基本設定の描写」=〈補強描写〉によって「暗殺のシナリオの骨格ストーリー」が激変します。そして「狙撃のストーリー」がプレイヤーに与える〈感情〉も激変します。


 当時も殴られるような衝撃を受けた覚えがあります。

 その『シナリオ』がこちら。



「トラビアガーデンにおいて、リノアを除いたスコール率いるSEEDチームの全員が同じ孤児院で育った幼馴染だとアーヴァインが証言し、幼いころの記憶を取り戻す。

スコールはアーヴァインだけが覚えていた理由をG.F(召喚獣)を装備して戦闘した時期が遅かったからと気づく。

G.Fに記憶障害という明確なデメリットが存在することを把握するも、スコールたちは後に起こるであろう戦いに備える。

そして最後にスコールたちが思い出したことは魔女イデアが孤児である自分たちを育ててくれた育ての母であることだった。アーヴァインもそれを肯定した」



 という『シナリオ』です。


 そう、この『シナリオ』で「アーヴァイン」は「G.Fの影響が小さく、メンバーの中で唯一、小さい頃の記憶を覚えており、育ての母がイデアであることを覚えている」という〈基本設定〉と「そのことを覚えたまま魔女イデアの暗殺を実行した」という〈改変設定〉を説明する〈補強描写〉がされるわけです。


 そうなると先ほどの「撃てないんだっ!」というセリフの「アーヴァインの心境に対するプレイヤーの正しい理解」=〈隠蔽描写〉はこうなるわけです。



「〈孤児になった僕たちを育ててくれたママ先生を、たとえ世界征服を企む悪い魔女だったとしても僕には〉撃てないんだっ!」



 先ほどの〈〉の心情が激変しているのがわかるかと思います。もちろん『設定』も細かく『描写』されたことにより『キャラクター』がより確立し、ユーザーに与える〈感情〉は強く大きなものに変化するわけです。


 少なくとも二週目をプレイして「魔女を暗殺するシナリオ」まで進めた時はこういう新しい〈感情〉が生まれるかと思います。


「お母さんなら撃てなくしょうがない」「知らなかったとはいえ、スコール無茶ぶりすぎる」「そりゃ手が震えるに決まってるわ」「他のシーンで敵に向かって平然と撃ってておかしいと思ったけど、ママ先生が原因だったのね」と。


 この「アーヴァインのビビり」と「撃てないんだっ!」が〈不足描写〉になります。意図的に「描写不足」にすることで〈隠蔽描写〉を使う余地を与えているのです。


 そこに後半の『シナリオ』で説明される〈補強描写〉によってその〈隠蔽描写〉の内容を変更するわけです。最初から「ママ先生を殺さないといけないからビビってる」などという『描写』ではこういったことはできません。


 筆者はこれが「伏線」の正体だと考えています。


 激変した『シナリオ』の〈骨格ストーリー〉も比べてみましょう。



「主人公スコールが率いるSEEDチームが、世界征服をたくらむ魔女イデアを暗殺しようとするも、魔女の力により失敗してしまう」

   ↓

「リノア+スコール率いるSEEDチーム〈幼馴染たち〉が世界征服を企む悪い魔女となってしまった育ての母イデアを暗殺しようとするも、魔女の力で失敗してしまう。また魔女イデアとスコール達の関係をアーヴァインだけが知っていた」



 このように意識して〈骨格ストーリー〉を詳細にすると、〈骨格ストーリー〉が生み出す〈感情〉も激しく変化していることがわかると思います。


 この「基本設定や改変設定をずらして描写することで、意図的にユーザーの理解していた骨格ストーリーを別の内容に変化させること」がいわゆる「実はこうだったんだよ!」という「どんでん返し」の正体ではないかと思われます。


 そのため筆者の「伏線」と「どんでん返し」に対する考察はこうです。



「伏線、どんでん返しは、ユーザーが以前に理解したシナリオに対して、以後の描写により全く異なるシナリオを理解しているかのように錯覚させる描写技術のことを指す。

上記は主に隠蔽描写と補強描写によって行われる。対象となるシナリオの骨格ストーリーはこの描写以後に激変してしまう。それに伴って骨格ストーリーがユーザーに生みだす感情も大きく変化する。

これが原因でユーザーは別のシナリオを理解するように錯覚してしまうのである」



 といった感じです。


 ちなみに洋画でよくありそうな「シナリオの序盤でテロリストが爆弾を設置」→「シナリオ終盤のドンパチで爆弾に誘爆し施設が大爆発」といったものは、筆者の考えですと「伏線」には該当しません。


 あれは単に『ストーリー』が発生した結果によって「施設がドンパチで爆発する可能性が生まれた」という『世界観』の『描写』です。そうすることで「ユーザーが想定する骨格ストーリーと違うシナリオを突き付けて楽しませよう」という工夫でしょう。


 特にFF8の例との大きな違いは「すでに描写されたシナリオに関するユーザーへの影響がない」という点が違いますね。


 もちろんそういうお話でも「描写によって以前のシナリオを別のシナリオだとユーザーに錯覚させる」ことができれば筆者の言う「伏線」「どんでん返し」に該当します。その辺を考察すればより「伏線の種類」を区別できるのではないかと思います。




 さて「FF8」の話に少し戻します。


 上記の「FF8」の例は「描写不足のせいでクオリティが低い」と言われるでしょうか? 筆者は言われないと思います。


 なぜなら、わざと「描写不足」にしてユーザーに「同じシナリオを別のシナリオのように錯覚させている」だけです。もっと言うなら「ユーザーに大きな〈感情〉を生み出すと同時に同じ『シナリオ』で〈感情〉を2回も生み出す」という工夫がされているだけです。『ストーリー』が不成立になるなどの悪影響がないからですね。


 こういった「伏線」は作品のクオリティを高めやすいメリットがあります。しかし同時にデメリットもあります。


 なぜなら『描写』とそれに関するこういったテクニックは「ユーザーの資質」に大きく影響を受けるからです。


 この「ユーザーの資質」は「知識」「知的レベル」「読解力」「感受性」「探索力」などを意味します。


 複雑な論文に相応の読解力が必要であるのと同じく、伏線であるということに気付いてもらうには相応の「読解力」「感受性」といったものが必要です。『シナリオ』がゲームであればキャラクターを操作して伏線に対する〈補強描写〉がされているイベントやアイテムを探せる「探索力」が必要なのです。


 「知識」や「知的レベル」もそうです。極端に言うと「FF8は5歳の幼稚園児に喜んでもらえるか?」という質問に筆者は「喜んでもらえない。中学生が最低限のユーザー層だと思われる」と答えます。さりげない伏線には気付かないと思いますし、そもそも「暗殺」や「傭兵」といった「知識の所持不所持」といった問題も出てくるでしょう。


 つまり『描写』は「ユーザーの資質」に合わせることが大切なのです。自分の作品はどのユーザーに向けられたものかを意識しましょう。




 というわけで講義③を終わります。




 余談ですが「FF8」は「主人公スコールが悪い魔女を倒す話」です。


 ですが、細かく『描写』を拾っていくとこの〈骨格ストーリー〉が全く別の、個人的には恐ろしく悲壮感のある〈骨格ストーリー〉になります。筆者が「FF8」を優れた作品だと考えたのはこの部分ですね。


 おそらく、制作者がわざと過剰に〈隠蔽描写〉〈不足描写〉〈補強描写〉〈偽装描写〉を使って伏線やどんでん返しなどのテクニックを使ったのでしょう。


 そうすることで「プレイヤーに主人公スコールが悪い魔女を倒す話かそうでないか」を選ばせる『シナリオ』になっていると思います。すごいと思ったのはギャルゲーのように「画面に表示された選択肢を選びルートが決定する」といった造りにはなっていません。一本道の『シナリオ』です。


 おそらく製作者は「描写した材料を元に、プレイヤーが頭の中で選択肢を考え、そうしてできあがった二つのシナリオのうち1つを頭の中で選ぶ」という作品にしたかったのではないかと思います。


 初プレイから15年くらいたって、ネットを見ながら改めてプレイして初めて気づきました。これが賛否両論の原因だったのかと。


 おそらく「FF8」に求められる「ユーザーの資質」が高すぎたのでしょう。制作者の想定した「ユーザーの資質」も想定したものより高かったでしょうし、ユーザーとしても高い資質を要求されているとはわからなかったと思います。


 筆者から「FF8」の製作者にひと言。「ナンバリングタイトルでシナリオが冒険しすぎでしょ? あなたたちの頭はいい意味でイカレてるぜ」です。


 これ以上は語りませんが、気になる方は「FF8」をプレイするかネットで調べるとよいでしょう。


 ヒントは「リノア=○○」か「リノア≠○○」なのか。


 まあ、この討論の結論を製作者が明確に出したらしいです。でも当時の資料は残ってないとか聞きます。隠された答えを言うのだろうか。言ったら「FF8」の価値は激減する可能性すらある気がします。


 言わないと思うなあ。個人的には選択式だと思っていますから。




 では、終わります。お疲れさまでした。



〇講義③『設定』と『描写』について〇

●『設定』は「キャラクターや世界観を形作るもの」である

 例:「容姿」「人格」「地形」「世界情勢」など

●『設定』は『ストーリー』『キャラクター』『世界観』と共に

 必ず存在する。

●『設定』は大きく2種類にわけることができる。

 〈基本設定〉と〈改変設定〉である。


●〈基本設定〉は「ストーリーが進行する前に存在する設定」のことである

●〈改変設定〉は「基本設定がストーリーから発生したその結果により変化した設定」

 のことである。

 「基本設定+ストーリーの結果=改変設定」などと表記できる。

●〈改変設定〉は「1つのストーリーが発生するたびに誕生する」ものである。

●『設定』とは常に改変されるものである


●『描写』は「地の文や会話文、映像などでストーリーをユーザーに説明すること」

 である。

●『描写』をされなければ『ストーリー』『キャラクター』『世界観』『設定』

 は存在することができない。

●『描写』はいつでもどこでもどんな表現をしてもよい。


●『描写』には〈隠蔽描写〉〈不足描写〉〈補強描写〉〈偽装描写〉

などといったものが存在する。

●〈隠蔽描写〉とは「描写していないのに描写と同様の効果を持つもの」である。

●〈不足描写〉とは「創作者が意図的に内容を不足させた描写」のこと。

 意図的でない場合は〈不足描写〉には含まれない。

 例:「名探偵コナン」の「犯人の黒いシルエット」。


●〈補強描写〉とは「すでに描写したストーリーや設定などの

不足している部分を補強する描写」のことである。

●〈偽装描写〉とは「創作者が嘘や偽りのストーリー、設定などを描写すること」である。


●〈隠蔽描写〉〈不足描写〉〈補強描写〉〈偽装描写〉などを使うことで

 「伏線」「どんでん返し」といったものを作ることができる。

●これらによってユーザーに下に表記した効果を与えることができる。

「同じシナリオを別のシナリオのように錯覚させる」。

「同じシナリオで感情を2回も生み出す」など。

●「伏線」「どんでん返し」とは「同じシナリオを別のシナリオのように

ユーザーを錯覚させる描写技術のこと」である。

●『描写』は「ユ―ザーの資質」を意識しなければならない。

 複雑な『描写』や伏線の構造はユーザーに理解されないことがある。


〇内容の修正について〇

・2018/07/30・  

2回目の改稿を行ないました。


・2018/07/31・

余分な文章を少しだけ削除しました。

内容に変化はありません。


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