講義②『キャラクター』と『世界観』が生み出す『ストーリー』の力
改稿を終えました。
講義②は『キャラクター』と『世界観』を中心に論じています。
すこし内容が追加されているかもしれません。
講義②では『キャラクター』と『世界観』がどういったものであるかを論じます。
そしてその二つが「どんなストーリーにおいても存在すること」と「ストーリーを成立させるために守らなければならない特例ルールと共通ルールである」ことを説明します。
最後にそれらが『ストーリー』がユーザーに与える影響を論じます。
上記を説明する際に〈感情〉という重要単語も使われます。『設定』についての詳細は講義③で論じるので、ここでは単に「名前、容姿、性格」といった「キャラクターや世界観を形作るもの」とだけ理解していてください。
ではまず『キャラクター』について説明しましょう。
『キャラクター』とは「Ⓣ(トラブル)あるいはⓈ(トラブルへの対処)を発生させる人物や現象」と定義しています。
「私が○○という問題を起こす」「クラスメートが○○という問題に対処する」という部分の「私」や「クラスメート」のことです。
現象の場合ですが、講義①でも述べた地震、津波、時間といった現象が『キャラクター』となっている例がわかりやすいものでしょう。
念のため例として「地震によってビルが崩壊した。そこから落下してくる瓦礫に気を付けてビックスは避難する。無事に避難したビックスは避難先で親友と再会した」というストーリーを作ってみましょう。
これを前回の「Ⓣ+Ⓢ=Ⓐ」の理論に当てはめると。
Ⓣ=地震がビルを破壊し、ビルの瓦礫を落下させる
トラブルを起こす。
Ⓢ=ビックスは瓦礫に気を付けて非難する
Ⓐ=ビックスは無事に避難した。
避難先で親友と再会した。
となります。
次に『世界観』を説明します。
『世界観』は「キャラクターが行動する舞台のような、行動を起こす前提条件のようなもの」といった感じで定義しています。
例えを言えば「地球」「宇宙」「現実の現代社会」「剣と魔法のファンタジー世界」「小説を投稿するサイト」「現実のスポーツ」「教室にある変な机」などです。
これは多岐に渡ります。『キャラクター』と直接は関係ありません。しかし間接的に影響するものを『世界観』としているのです。
例えば「宇宙空間」で生活している場合、人物が移動する場合は「歩く」ではなく「浮遊する」「飛ぶ」といった行動で移動すると思います。
『キャラクター』が「宇宙空間」でストーリーのⓉやⓈを行なう際に移動を行なうと「歩く」ではなく「浮遊する」「飛ぶ」という行動を強制されるというわけです。
また小説などで「酒場の端っこで酔い潰れた親父がいる。治安の悪そうなここを象徴する店だ」とか「書店にいたら学生しかいなかった。受験シーズンを嫌でも感じさせられた」などという描写があったりします。
ここで登場する「酔い潰れた親父」や「学生」は「世界観」です。『ストーリー』トラブル(Ⓣ)やその対処(Ⓢ)を起こしているわけではないからです。『ストーリー』ではそこらの家具と同じ存在として扱われます。
では次に移りましょう。
この『キャラクター』と『世界観』は『ストーリー』の中に必ず存在しています。
例えば「私は小説を投稿した」という『ストーリー』があるとします。すると、自然とそして曖昧ながら『キャラクター』と『世界観』を勝手に思い浮かべてしまいませんか?
筆者はこの「私」という単語で「20~25歳の男性」を思い浮かべます。読者によっては「中学生の女性」だったり「40代の男性」だったりするでしょう。
そして「小説を投稿した」で筆者は「20代の男性で、おぼろげながらプロを目指すアマチュア作家」なんて勝手に考えて「曖昧なキャラクター」ができあがります。
読者の皆さんも意識すれば勝手に曖昧な「キャラクター」を設定してしまっているはずです。人によってはプロ作家をイメージしている可能性もありますね。
そして『世界観』も同様です。「小説を投稿した」で筆者は「現代社会でパソコンが手元に存在し、インターネットのサイトや企業の開く小説大賞に投稿できる環境」だと曖昧な『世界観』を作りました。
こういったことになるのはもちろん、我々が知識を使って「私は小説を投稿した」という話をよく理解しようとして勝手に補足するからです。
これが「ストーリー」には必ず「キャラクター」や「世界観」が含まれていると書いた理由です。この曖昧さをはっきりさせるために、小説などの『シナリオ』において地の文や会話文などで設定を描写しているというわけです。
例えば。
「私は小説を投稿した」
↓
「25歳の男性であるアマチュア作家の私は、先日、〈なろう〉というインターネットのサイトに小説を投稿した」
こういった文章で『キャラクター』や『世界観』を少し詳しく書くだけでも、「女性」「高齢」「パソコン以外での投稿する環境」といった要素を取り除き、曖昧さをはっきりさせることができます。
次に移ります。
『ストーリー』は「キャラクター=特例ルール」と「世界観=共通ルール」を順守して初めて成立する理由を説明しましょう。
この『キャラクター』と『世界観』ですが、この設定によって成立していた「ストーリー」を不成立にすることがあります。一般に言われる「物語の破綻、矛盾」といった論理の破綻が該当します。
講義①で論じた『ストーリー』は〈Ⓣ+Ⓢ=Ⓐ〉で成り立っているということを書きました。しかしこれはあくまで「キャラクターが行動できる」という前提条件を元に成り立っているのです。
例えば「現代社会に生きる一般人が隕石を避けながら素っ裸のまま宇宙空間で野球をする」なんていう話があるとしましょう。これを文章そのままで受け取った場合、間違いなくおかしい、矛盾していると指摘されます。現実でそんなことできないからですね。
詳細に言えば「一般人」=「世界観のルールにそのまま従うキャラクター」であり「現代社会」=「裸の人間は宇宙空間で生存できない世界観」というようにルールが設定されているのです。
上記の話を小説などの『シナリオ』として読んでもらいたいなら、地の文や会話文などで『世界観』=「一般人が宇宙空間で日も常生活を送れる現代社会」と描写する必要があるわけです。
また『ストーリー』の成立と不成立は『世界観』よりも『キャラクター』の設定が優先されます。
わかりやすい例をだしましょう。それは「異世界から帰還した勇者が現実世界でアレコレする話のジャンル」です。
例えば「強盗に襲われそうになった女の子を魔法で助ける」なんて「現実世界の一般人」という「キャラクター」ができるわけありません。「世界観で魔法が使えない」と設定されているわけですから。
でも勇者、つまり「現実世界でも魔法を使えるキャラクター」なら女の子を助けることに違和感はありません。「世界観の影響に対する例外処置」をキャラクターの設定に確立し、ユーザーを納得させるからです。
これが『キャラクター』=「特例ルール」であり『世界観』=「共通ルール」といった理由です。
そのため『ストーリー』を成立させるには〈Ⓣ+Ⓢ=Ⓐ〉の理論と『キャラクター』と『世界観』のルールに従わなければなりません。
では最後に上記によって「成立したストーリーがユーザーに与える影響」について書こうと思います。
その影響とは「ストーリーがユーザーに〈感情〉を生み出す」ことです。
この〈感情〉は同情、共感、悲しみ、喜びといったものはもちろん、嫌悪、疑問、続きや過去の予測なども含まれています。
とにかく〈感情〉は『ストーリー』を理解したことでユーザーがなんらかを感じ取って生まれたものと定義しています。もちろん『シナリオ』も「複数の繋がったストーリー」ですから『シナリオ』に対しても生まれます。
〈骨格ストーリー〉も〈感情〉を生み出します。例えば『シナリオ』の全体をまとめた〈骨格ストーリー〉が「勇者が魔王を倒す」であったとしましょう。これを「魔王に恋人を殺された勇者が魔王を倒す」というものにしてみてください。たぶん「共感」「正当な復讐だから応援したい」といった〈感情〉を抱いたのではないでしょうか。
ユーザーは『シナリオ』を理解していく過程で〈骨格ストーリー〉が変化することを講義①で述べました。そのため「最初と最後で印象が違う作品」は全体をまとめた〈骨格ストーリー〉が変化したことでユーザーに生まれた〈感情〉も変化したことが原因だと思われます。
この生まれた〈感情〉がユーザーに「おもしろい」「おもしろくない」というように作品を評価させます。
そしてこの〈感情〉に含まれないものもあります。それは『ストーリー』が不成立になっていることで生まれる批判や批評、無関心などです。『シナリオ』を成立させていない場合の作者に対する指摘などは〈感情〉に含まれません。
また〈感情〉は「ストーリー1つにつき1つ生まれる」という定義を含めるのが適切であると筆者は考えています。
1つの『ストーリー』で「共感」「悲観」「熱い友情」といったようないくつもの〈感情〉が生まれるのは珍しくありません。
しかし、例えば「渋くてかっこいいおっさん」というイラストがあったとします。それを見た人は「渋い」「かっこいい」「おっさん」というようにわざわざ要素をわけてイラストを認識し、評価するでしょうか。
そんなことはしないでしょう。そのイラストに対する認識と評価は「渋くてかっこいいおっさん」です。
これと同じように『ストーリー』がユーザーに生み出す〈感情〉も「共感+悲観+熱い友情」というように1つにした〈感情〉を生み出すと考えたほうが自然だと筆者は考えます。
またこの〈感情〉の大きさは『キャラクター』と『世界観』の設定に大きく影響を受けます。
先ほどの「私は小説を投稿した」というお話で筆者や読者の皆さんの心には大きな〈感情〉は生まれていないと思います。
それは当然の話で「私」というキャラクターが曖昧すぎて反応しようがないからです。
生まれていたとしても「ほーん」だとか「私は小説家の卵かー」と言った程度のもので、非常に弱い〈感情〉だと思われます。
間違っても「私よぉ、投稿することができてよかったなあ」と嬉しさのあまりに号泣したり「な、なんてことをしてしまったんだ……」と絶望の〈感情〉が生まれているなんてありえないでしょう。
でもこのお話のまま、ユーザーに強烈で大きな感情を生み出すことができます。
それは「私」という『キャラクター』の設定や『世界観』の設定を少しでも確立し、曖昧さを取り除けばいいのです。一般的に「設定を作る、描写する」と言われる行為が該当します。
ではこの「私」の設定を少し確立させた例を書いてみます。
「私」=創作経験ゼロでそれらの勉強せずに小説を書きたくなった私1。
「私」=創作経験が豊富で知識もばっちりな、
小説の書籍化を計画的に狙う私2。
「私」=詐欺の被害にあって多額の借金を背負い、
この状況をどうにかしたいと思う私3。
ではまず「私1は小説を投稿した」という場合、読者は「あー俺もやらかしたわー(遠い目)」「や、やめろぉっ! 憤死するぞぉ!?」「無茶しやがって……」という〈感情〉が沸き上がって来ないでしょうか? あるいは読者の何人かにそれらの〈感情〉が出ると言われたら納得したりしませんか?
次に「私2は小説を投稿した」という場合、「書籍化を計画的に狙うとか気になる」「フィクションかノンフィクションか、それが問題だ」「私2は慎重だなー」というような〈感情〉が生まれるでしょう。
「私3は小説を投稿した」という場合はもう「どうして金儲けの手段をこんなんにしたのか、これがわからない」「馬券でも買ったほうがマシじゃね?」などいう〈感情〉が生まれたりすると思います。
「私1」「私2」「私3」の例でそれぞれ生まれるであろう〈感情〉を書いてみましたが、この他にもたくさんあります。ユーザーの数だけ存在します。
ただし共通していることがあります。それは設定を確立していない「私」よりも「私1」「私2」「私3」のほうがはるかに大きな〈感情〉を生み出します。
また『世界観』についても『キャラクター』とほぼ同様です。
例えば「1000ポイントの高評価を得れば書籍化されるサイトがある。サイト名はユメミル」という『世界観』を作り「私はユメミルというサイトに小説を投稿する」という話にしてみましょう。
この場合でも読者には「運営どうなってんの、このサイト」や「私は甘い話につられたクチだな」といった〈感情〉が生まれると思います。
またお気づきかと思いますが、『キャラクター』と『世界観』の設定を細かく確立しているほど読者に与える〈感情〉は大きくなりやすいです。
例を出すなら「○○は小説を投稿した」という「ストーリー」の○○に、自分の好きなマンガやアニメなどのキャラクターを当てはめてみてください。多く設定が描写されている長編のキャラクターがいいでしょう。おすすめはドラえもんやゴルゴ13、ドラゴンボール、ナルトやワンピースなどのキャラクターでしょうか。
ちなみに私はゴルゴを選びました。「ペンネームはデューク東郷」「クソ真面目に書く上に執筆速度が異常に速い」「プロもドン引きする徹底ぶり」「投稿前にはプロ作家に面会して札束突き付けてノウハウを習得するという荒業をしているはず」というような感じで、好奇心が浮かんだり回想シーンの予測をしたりしました。
それから描写の順番、いわゆる「シーン構成」も若干ながら影響を受けます。
①「勇者が魔王を倒して無事に故郷に帰る」
②「勇者が幼馴染に泣いて留まるように説得されるも、魔王を倒す旅に出る」
この二つの『ストーリー』があったとしましょう。この場合、②の『ストーリー』を先に描写したほうが〈感情〉は大きくなりやすいです。②の〈感情〉は「魔王との戦いで死ぬかもしれない」などというものが生まれます。
それが①を先に描写した場合だと「ユーザーは無事に帰ってくる結末を知っている」ので「悲しい」「不安」といった〈感情〉が生まれないのです。ストーリーを描写する順番も充分に注意しましょう。
以上で講義②は終わります。
お疲れさまでした。
〇講義②『キャラクター』と『世界観』が作る『ストーリー』の力〇
●『キャラクター』とは「ⓉまたはⓈを発生させる人物や現象」である。
例:勇者、地震、時間など。
●『世界観』は「ⓉやⓈを行なう前提条件のようなもの」である。
例=「宇宙空間」→歩けないので移動は「飛ぶ」「浮遊する」など。
●『キャラクター』と『世界観』は『ストーリー』に
必ず存在する。
●『キャラクター』は「特例ルール」であり、『世界観』は
「共通ルール」である。
『ストーリー』はこれらを順守して成立する。
●成立した『ストーリー』はユーザーに〈感情〉を生み出す。
『シナリオ』や〈骨格ストーリー〉も同様である。
●〈感情〉の大きさは『キャラクター』と『世界観』の設定に
大きく影響される。
●〈感情〉は『キャラクター』と『世界観』の設定を確立し、
それらの曖昧さを取り除くほど大きなものになりやすい。
●『ストーリー』が生み出す〈感情〉は描写の順番にも影響を受ける。
〇内容の修正について〇
・2018/07/30・
2回目の改稿を行ないました。
内容自体はあまり変わっていません。