第八話
作者 四月一日代継
散らばってしまった薪を拾う。その間にも、俺の頭にあったのは、ファンタジー臭たっぷりのステキ文章だ。
「さっきのどういう意味だと思う?」
「呪いを解いたら石がもらえて、三つ集めるとユートピア! みたいな神話ですかね」
そんなビックリするほどユートピア! みたいな神話があってたまるか。
「さっきの文字を研究してたんだよな? そこの歴史とか文化ってわからないのか」
「それははっきりとはわかりません」
「卒論を書いたのに?」
「この言語で今、分かっていることは、限られているんです。文法とか単語の意味とかはわかっているのに、使われていた文化がよくわかっていません。文献は別の古代言語で書かれた文法書があって、それによってわかったのがそれだけだったんですよ。考古学的証拠どころか、どこで使われていたかも不明で一時期は古代人の妄想とまでも言われていました。
それで私の論文ですけど、その前に言語って文化と強く結びついているんです。虹を見た時に、これは何色だろうかと考えるとします。私たちは赤とか七つの言葉で表しますけど、国によっては七色が二色だったりするんです。それは、ある国はたくさんの色に分ける必要のない文化だったとか、別の国はたくさんの色に分けて一つ一つに名前をつけるのが大切だった文化といえます。
その文化は、時間とか環境によって生まれた独特のものです。だから、言葉の有無、意味合いからある程度の文化の想像はできるんです。そこで私の論文ですが、アトラントラ文字の『人』はどうして『化物』という意味があるのかということだったんです。でも、この文章はとても興味深いです。もしかしたら、この話が原因で人が化物でもあるのかも――」
この間、拾った枝は三本である。熱く語ってくれたのはいいけど、あまりに早口で理解できなかった。いや、早口じゃなくてもわからないかもしれないが、とにかく興奮している。あの文章がそれほど価値のあるものなのだろうか?
「オーケーオーケー、こっちから聞いておいて申し訳ないけど、俺には理解できそうもない。とにかく、あれは神話だってことだろ」
「あっすいません。そうだと思います」
この島にそんな神話があったと思うと少しは楽しくなる。きっと昔はここにたくさんの人が住んでいたんだ。それなら、もっとたくさんの人間の跡があるかもしれない。始まったばかりの生活の楽しみに、痕跡探しも悪くない。でも今はとりあえず枝を集めよう。
それでなんやかんやあって、桜井さんと俺は、たき火を囲む。予備の燃料はたくさんある。一晩を過ごせるくらいの量をあんなに短時間で集めて来たなんてさすがだ。いや、よく考えてみればこの量はおかしい。
「よくこんなにたくさん集めたな」
「実は近くに何かの巣みたいのがあって、そこからとってきたんです」
「巣?」
「はい。あっそうだ、ちょっと待っててくださいね」
桜井さんが髪を揺らして外へ飛び出す。一分くらいで戻ってきた彼女は大きな卵を抱えていた。
「明日の朝ごはんにいいかと思って、巣から持ってきました」
「うわ、大きいな」
「大変でした。でも、おいしそうでしたので」
「持ってきて大丈夫なのか?」
「6個くらいあったし大丈夫だと思います」
「そうか、竜が火を噴きながら突進してこなければいいけどな……」
枝が弾けて火の粉が飛ぶ。危険だらけのスタートだったけど、なんだかんだいい日だった。明日からの生活に不安はあるけど、少なくとも明日の朝食を楽しみにすれば良く眠れそうだ。卵が朱色に染まる。この卵はどんな味がするのだろうか。
そんな想像をしていたとき、入り口近くから物音が聞こえた。親でも来たかと身構える。もちろんまともな武器なんてない。だから、予備の枝にうまいこと火をつけて右手に持つ。
「聞こえたか?」
「はい、ザクっていう音ですよね」
俺は恐る恐る入口へ向かった。そして飛び出す。外はもう暗くて何も見えない。あたりを照らしても、小さな虫は寄ってくるが音の主は見当たらない。とりあえず、やばいものじゃなくてよかった。胸をなでおろし桜井さんのところへ戻る。
いくらモンスターのいる島だからって身構えすぎだ。何をビビってんだ。自分に活を入れて松明を火へ放り込んだ。
そして、夜は更けていく。