第四十一話
作者 四月一日代継
それは導きの星だった。奥に二つ三つと焔を宿し、進むべき道を線に示す。それはまさに星座である。
桜井はそれを手に取ってみた。紫にも似た夜空のように深い青色の石だ。透き通っていて、剣の光で太陽の様に燃え上がる。それは例の石の特徴そのものだったが、やけに小さいし何個もある。それでも桜井は念のために、それを拾い集めながら、導きに従った。
歩き続けるうちに、足音が大きく響くようになってきた。それは道が段々と広くなっている証拠である。そうして、そのうち燃える石が道から消えた。その代り闇のど真ん中に輝きが浮いている。しかもそれは大きくて、あたりの石ころを照らす。
桜井は確信した。それが目的の石であると。それでも、桜井は焦らずに剣を構えつつ慎重に進んだ。
石は彼女の目の前にある。剣の光が近づいて、より一層輝きは増し、見つめているのもつらいほどだった。それに手を伸ばす。これを手に入れればいいのだ。手に入れて、早くみんなの場所へ戻らなくてはいけない。
あと数センチ。人差指が触れるというところで、地面が細かく揺れ始めた。
「王よ、我が主よ、我を再び求めるか?」
地面の石たちがぶつかり合って、嫌な音を響かせる。その時、桜井の手中の石が弾けて当たりに散らばった。小石の落ちた場所が盛り上がって山となる。
そして、石の山は大きな輝きのもとへと這うように近づく。それは大いなる意思に吸い寄せられる軍勢だった。
いくつもの石の山が大きな石を呑み込んで、朧気に生物の姿を現す。
それは脚だ。四本で太く逞しい。
それは翼だ。空を飛ぶためのものではない。ただの小石の塊だ。
それは頭だ。長く大きな二本の角が生え、強靭な顎と尖った石の牙が生えている。
空間に咆哮を轟かせる。すると部屋中の石が燃え上がった。そこに現れたのは龍だった。石と石のすき間から輝きを漏らし、血管のように脈打つ。
「我は試練。王たる者を量る大宇宙の天秤。石をその手で掴み、力によって力を得よ」
重い翼を持ち上げる。そしてそれらを後ろに引くと、思い切り前方に振り出した。
桜井はその瞬間剣を前方に突き出した。その動作が何かしらの危険を及ぼすことを察したからである。
鋭い金属音が耳を裂く。桜井の手には巨大な盾があった。しかし、その盾は何か所も歪んでしまった。龍の飛ばした石にやられたからである。
それにも恐れず、桜井は龍に立ち向かう。手中の盾は拳となり、ダイヤモンドの勇気を抱く。その勇気に剣は応えた。そのガントレットはダイヤモンドよりも傷つかず、ゴムよりもひび割れることがない。桜井は地球上のどんな物よりも硬く丈夫な力を手に入れた。
龍の頭を力いっぱい殴りつけた。頭はつぶれ、あたりに小石が飛び散る。だが、それらは謎の力に吸い寄せられて、あっという間に頭が戻った。次は身体を殴る。すぐに再生する。今度は翼を折る。攻撃も空しく生えてくる。龍は脚を砕こうが何をしようがまるで効いていなかった。
それでも龍の攻撃をかわしながら、隙を伺って殴りつける。砂を殴るような感覚に、桜井の精神は研ぎ澄まされていく。禅だ。同じことの繰り返しに、心は麻痺し宇宙の神秘のような何かが見え始める。
カルト的な感覚に洗脳される。しかし、その洗脳はある人物を神のようにあがめたり、判断能力を奪い犯罪にはしらせるものではない。遠い宙の一つの恒星の輝きに似た、天才的な閃きをもたらすものだ。
『石をその手で掴み、力によって力を得よ』
これは龍の言葉である。
はじめから、彼の言う通りにしていればよかったのだ。
砂は拳で打っても深く刺さらない。しかし、ゆっくり潜り込ませるようにすればどこまでも深くを目指せる。
その刹那、桜井は閃きに突き動かされ、龍の体に飛びついた。そして、背中にしがみつく。小石の群れに腕を沈み込ませ、中をまさぐる。ガントレットにぶつかる石の感触がある。しかし、どれも軽く高いもので目的の大きさではない。
より深く沈ませる。石の水面は手首から肘へ、そして二の腕までやってきた。ついに重い衝撃が腕を伝う。
『これだっ!』
掴んで力強く引く。
石の隙間という隙間から鋭い光があふれ出す。こうして、桜井を貫く光源が、石の群れより姿を現した。それの中心は太陽のように燃え上がり、まわりは透き通る冬の夜空のようだった。
これこそ、桜井たちが求めていた最後の石だった。




