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第三話

この小説はリレー形式で進んでいきます。


作者→四月一日代継さん



 肩の鉄塊は黒々と、若人わこうどの運命を映し出す。そこに映るは、天高く煌めく陽光と大自然。抗い難き圧倒的な存在。担いだ鉄は、それと渡り合うためにある。魂を揺さぶる咆哮が響く。そこは狩場。自然と人の対話の場だ。

 ゲームの説明書を開くと、こんなポエムが書いてあったのを思い出す。あの頃は、これから自分が飛び込む仮想世界の、神秘的な魅力に胸をときめかせた。

 だけど、現実だったらどうか。おかしさに勘づいてはいた。でも、主任の一声は俺の心を乱すには十分だった。


「サバイバル!?」

「そうだ」

「それは、どういうことですか」

「そのままの意味だ。君たちには、仕事としてこの島でサバイバル生活をしてもらう」


 そんな仕事、あっていいのだろうか。そもそも、ゲームと実際にサバイバル生活することが、どうつながるのだろうか。


「仕事……ですか」

「君の気持ちはわかる。そんな、無茶苦茶な仕事は、現実的ではない」


 混乱した頭で、桜井さんを見てみる。彼女は俺と正反対だった。これから待つ冒険に、胸をときめかせ、まぶしいオーラが、体からしみ出ている。桜井だけあって、頭のなかは以外とお花畑なんじゃないだろうか。


「いいかい。最近のゲームは、スタイリッシュなものばかりだ。どれも、同じようなシステムや雰囲気で、脱個性化が進んでいる。だが、近頃、VR技術が急発展している。だから、新作はリアルさで勝負したい。そのための、情報収集として、君たちには、この島で生活することを命じる」


 淡々と、とんでもないことを言う。情報収集といっても、体力になど自信のない俺だ。サバイバルというのは、生死に関わる大きな問題だ。


「それは会社の決定なんですか?」

「そうだ、書類もここにある」


 示された書類には、確かに、会社のトップの名前と判子がある。書類に目を通すと、ここでサバイバル生活をすることは、間違いなく俺たちに与えられた仕事であることがわかった。


「それでだね。この島は常に、十台のドローンで撮影されている。さらには、この井上も、この島で君たちの監視にあたる。わかったかい?」


 そのとき、聞き覚えのある音が聞こえてくる。耳障りな、ビブラート。夏場に現れて、睡眠を妨害し、更には酷い痒みを残していくあいつの羽音だ。

 だけど、おかしい。やつの気配がない。それどころか、羽音は異常に大きくなっていく。


「あれ、なんでしょう?」


 桜井さんが主任の後ろを指さす。その先には、何か黄金色の塊が浮いている。ゆっくり近づくそれに目を凝らす。日光を強く反射する金属光沢。だけど、ドローンにしては様子がおかしい。ふらふらと、まるで蚊のように飛んでいるのだ。


「まあ、君たちの命は、会社が全力で保証するから――」


 主任は桜井さんの言葉を聞いていなかったかのように、説明を続ける。

 空飛ぶ金色を見ていると、姿がはっきりしていく。あれは、巨大な虫だ。蛇腹状の腹。尻には、剣のような長い針が光っている。その羽は、水晶のように透き通っていて、高速で動くとミラーボールのように輝いた。

 それが、主任に向かって飛んでくる。


「主任、あれは新型のドローンですか?」


 俺が質問した瞬間、虫は針を主任に向けて突進してきた。

 まるで、弾丸のような速さだった。『危ない!』と驚いて、目をつむってしまう。

 沈黙が訪れた。目を開く。すると虫は姿を消し、主任は変わらず仁王立ちしていた。何があったのか確認する。

 一見変わりない様子。しかし、主任の足元に、そして担いだ鉄塊に、自然との闘いの後が残っている。

 黒光りしていた刀身に、赤い液体がついていた。血色の液体は、不気味な金属光沢を放つ。

 主任のまわりには、例の液体と金色の破片が大量に散らばっている。それは、先程の虫だったものだ。


「これかい?」


 主任は破片を指で示す。


「これはね、まあ、この島特有の生物だよ。まあ、大きさも、見た目も異常だから、モンスターって言った方がいいだろうね」


 とんでもない話だ。つまり、俺たちは、モンスターだらけの島で生活しなければいけないのだ。

 もちろん俺は、こんな仕事は嫌だ。しかし、断ることはできない。

 俺のような人間が、大手ゲーム会社に入ることが出来たのである。本来ならば、フリーターや最悪ニートになってたかもしれない俺がだ。せっかく大好きなゲームに関わる仕事が出来る機会を得たのだし、必要ならば、頑張らなくてはならない。

 それに、よく考えれば、つまらないデスクワークよりこっちの方が楽しいかもしれない。モンスターのいる島でサバイバルなんて、これまでゲームでやってきたことじゃないか。それに、昔はゲームの世界に入りたいとか、思ってたじゃないか。

 さらに、主任は先ほど、命は会社が保障してくれると言っていたような気がする。苦しいことは、あるかもしれない。だけど、最低限の安全が確保されているのなら、そこまで悪くないかもしれない。


「説明は以上だ。最後に会社からの支給品として、このリュックサックを二人に渡す。中には、地図や小型ナイフが入っているよ」


 それだけいうと、主任は密林の奥へ消えていった。去り際に「では、健闘を祈る」の一言を残して。こうして、二人残された俺たちは、軽く挨拶をする。


「改めてよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

「それで……だ。どうするよ、これから」

「とりあえず、この先に、進んでみますか」 


 かくいう桜井さんは、どこか嬉しそうだ。薄暗い森を、にこやかに指さす。まるで、遠足に行く小学生のようである。


「そうだな、ついでに、持ち物の確認もしよう」


 そして俺たちは、森の中に入った。そこまで悪くないと思っていた仕事。ただ、予想に反して、さっそくモンスター第二号と遭遇しピンチを迎えてしまったのであった。

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