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第二十一話

作者 四月一日代継

 古龍というから、厳格なドラゴンオブドラゴン的なのを想像していた。だが、現実は非情だ。夢見る少年少女の妄想は、恐ろしく醜い、いや「見にくい」現実に塗りつぶされた。

 火山のまわりを飛ぶものは何か。目を凝らせば凝らすほど、期待も恐怖も覚めてしまう。

 あれは虫か?

 かろうじて、虫であってほしい。主任が語った感じとは、かけ離れている何かが見える。

 俺の目には、やけに小さいショッキングピンクの獣が飛んでいるように見えた。あれが強力? 馬鹿を言うな、あれが強力な竜と言うなら、俺は神に選ばれた英雄だ。

 近づくほどに、馬鹿馬鹿しくなる。あれはあっても俺くらいの大きさだ。主任から預かったこの剣も、真価を発揮せずに終わりそうだ。なのに、まわりの人たちには緊張が募っていく。

 向こうがこちらに気がついた。急滑降で俺たちへ突っ込んでくる。

「剣を構えろ!」

 さり気なくついてきていた主任は叫ぶ。仕方なく俺は剣を抜こうとした。

 クソ重い。受け取ったときは気にならなかったのに、背負った剣が抜けない。背負うためのベルトを外す。すると地面に落ちて、剣は突き刺った。どうにか刃を敵に向けて、剣の後ろへまわる。

 都合の良いことに、奴は俺を狙っている。しかも、刃に一直線だ。

――もらった!

 勢いそのままに桃色が真っ二つになる。桃を割ったお爺さんの気分だ。勢いそのままに、地面を転がっていく。そして中から飛び出したのは、赤黒い液体だ。火山のようにふきだし、流れる溶岩のように地面を飲み込み穢してゆく。

 一仕事終えたぜ。どや顔で俺は剣に寄りかかった。

「馬鹿野郎、慢心は敵だ」

 主任の檄が飛ぶ。上司に叱られたのは初めてだ。俺は倒れた敵に向きなおる。

 体が小さいのに、やけに血の気が多い。気がつけば、血は地を埋め尽くし、俺たちの足までも飲み込んだ。勘が働く。本能がこれはまずいと言っている。この血に触れていてはいけない。すぐに離れろと。

 素早く剣を背負い、走り出す。他の皆は既に避難していた。

 地面が揺れ動く。大地にしみ込んだ血は、大地を盛り上がらせ、山をなす。それは変形しながら、燃え上がり、溶岩の龍となった。伝説に残りそうな、その神々しき風貌。まさに古龍と言うべきか。

「あれは名もなき伝説の龍だ。龍と言うが、その本体は血しかない。何かしらのものに浸透して自分となる。いわるゆキノコみたいなものだ」

 これはゲームが変わってきた。いや、ここはそもそもゲームじゃないが、あいつのデザインは、神を殺すあの作品にそっくりじゃないか。ただ、僕はあの主人公みたいに、神と契約したり、強靭な肉体を持っているわけじゃない。

 今度こそ無理だ。あれは、本格的に生物という枠を超えている。現実にはあってはならないモンスターだ。

 剣を抜く気にもならない。勝てる見込みがない。そもそも、立ち向かう勇気もない。

 大きな口を開け、叫ぶような素振りをする。俺たちには何も聞こえない。だが、地面が激しく振動している。地がひび割れて、火が噴き出した。そして、その噴煙とともに、天へ舞い上がる。

 奴の血が滴る。それが落ちるごとに、爆発が起き、土煙を舞わせた。

 あの龍は、俺たちなど存在しないもののように空を飛び回る。

 あれは生物などではない。厄災そのものだ。神話の神様は自然災害とかの化身とかいうのを、ネットで見た記憶がある。まさにそれは、真実だった。

「さっさと攻撃しろ」

 主任はそういうが、この剣では届かない。そういえば、こいつは大砲になるという話をしていた。弾を飛ばせるなら、攻撃できるかもしれない。

 ただ、敵にダメージを与えると、という条件付きだ。そもそも、ダメージを与えられない中、どうすればいいのか。

「主任、この武器の変形する条件を詳しく教えてください」

「血を吸わせろ。鉄さえあれば、勝手に吸収して変形していく」

 血を吸わせろ……か。フィールドに生贄になりそうなものがないか探す。ここは不毛な火山の近くだ。しかも、現在災害が起き始めている。そのために、草食の奴どころか、虫一匹もいない。

 何かないか。いや、あるじゃないか。ちょうどいい資源が四つも。

 いけない。いくら、他の命を助けるためと言っても、人殺しなんて駄目だ。それなら、トカゲを絞めようか。いや、こんな見た目だが、一応人間だ。それに勝てる自信がない。じゃあ、この獣っぽいのは? いや、トカゲと同類だ。恐らく強いし人間だ。

 じゃあ、俺が死ぬのはどうだろう。いや無理だ、怖い。俺は英雄になりたい訳じゃない。ただ、楽しく生きたいだけだ。人間らしく、仕事に生きたいだけだ。

 迷っている間にも、島に災害は広がる。

 どうすればいい。いま、俺ができる一番簡単な方法は、桜井さんを殺すことだ。そうだ、トカゲの不意を突いて、あの柔肌を突き抜けば、四人の命が救われる。

 土の上に、奴の血が燃え続けている。燃え上がる血を見るほどに、混乱は増す。

 いや待て。地に燃えるのは血ではないか。あれも、俺たちと同じ鉄の血だったとしたら、いけるんじゃないか?

 俺は勇気を振り絞って火中に飛び込んだ。


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