第十三話
作者 四月一日代継
内装とはうって変わって、大胆な奴だ。
「結婚する」ということは完全におかしいわけではない。呪いが解ければ、たぶん人間なわけだ。もし解けなくても、お姫様の素敵なキスで呪いが解けるなんて、素敵なシチュエーションもあるかもしれない。
でも今は化物だ。それに呪いが解けたとして、見た目がかっこいいとは限らない。エロ同人に出てきそうな汚いおっさんかもしれない。もしそうだったら……。
想像もしたくない。いや、少しいいかも。やっぱり、よくない。
とにかく、見た目にも強さにも、自信はないが、俺の方が桜井さんを幸せにできそうな気がする。すべては運と桜井さん次第だ。
桜井さんの方を見る。顔を赤らめて、やっぱり満更でもなさそうだ。でも口では「恐れ多いですよ」と言う。それが、良い意味での恐れ多いなのか、遠回しに嫌という意味の恐れ多いなのかはわからない。
ただ、一つだけ言えることがある。奴が褒美らしきものを与えたのは、桜井さんだけだ。
「ほとんど俺に徳はない、ことわるっ!」
先ほどむせたままのテンションで言い放った。そうだ桜井さんには、尊い人との婚約が約束されても、俺は手伝わされただけではないか。そんな不平等、世界が許しても俺が許さない。
だがこの世は非情なものだ。世界が許さないことを、俺がどうにかできるなんて片腹痛い。いや、本当に片腹が痛くなるかもしれない。
奴は壁の槍を手に取り、その穂先を僕の横腹に突きつけた。そして、何やら雑音のような声をだす。
「従いましょう、命があるより得なことはないですよ!」
こんなのあんまりだ。報酬もなしに脅されて、命がけの仕事をしなくてはいけないなんて。
その立派な刃は、廃れたこの場所に似合わない。これで一突きされれば、鉄の鎧でさえ貫通しそうなものだ。こんなものを突きつけられたら返事は一つだ。
「もうしわけございません、わかりました」
最低限身に付けたビジネスマナーが、初めて役立った。奴は槍を戻して上機嫌な声を上げる。これで、俺の明日は守られた。というわけではない。周囲には化物がいてもおかしくない。さらには、他の継承者を殺すということは、奴と同じようなものを相手にしなければならないということだ。奴に手をかすという契約は、少しだけ寿命を延ばしたに過ぎない。
「それで、俺たちはどうすればいいんだ」
そうたずねると、なにやらゴチャゴチャ声を発する。
「どうやら、この場所にはいくつか地形があるそうです。火山、雪山、草原、森などです。その地形ごとに王位継承者か、それに近い何かがいるみたいですね。ただ、どこに何がいるかわからないから、探して倒して欲しいのだそうです」
この島の中に春夏秋冬が混じりあっているみたいだ。いくら大きな島だったとしても奇跡じゃないか。怠惰とともに、好奇心がわいてくる。
「ここから一番近いのは?」
「雪山だそうです」
「ここはこんなに温かいのにか?」
むしろ、ここは少し暑いくらいだ。とにかく、突っ込みどころが多すぎる。巨大なモンスター級生物にトカゲのような元人間、さらには混沌としたバイオーム。もう、思考停止したいほとである。
「でも、今の装備じゃ寒くて死ぬぞ、ゲームや漫画じゃないんだから」
「武器の加工はするから、素材はテキトーに調達しろですって」
ゲームだったら「面白くなってきた」と思うだろう。だが、現実においては、頭がお花畑な妄想でしかない。
それでも、やるしかない。生きるためだ。武器の加工もしてくれるのだから、奴との約束をすっぽかして、サバイバル生活をするという選択もある。
「わかった、君の言うことを聞くよ。ところで桜井さんは、これでいいの?」
「大丈夫です。これも仕事のひとつですから」
桜井さんは、しれっと笑顔でそう答えた。人間とは恐ろしいものだ。噂に聞いたことがある。人間は時に命よりも、役割を大切にするらしい。まさに桜井さんは、その型にはまる。
彼女を見ていると、自分が恥ずかしくなってくる。男の俺よりも、勇ましく活発だ。物語を書くとすれば、俺は主人公を桜井さんにするだろう。昔ながらのファンタジーの勇者にピッタリだ。
「わかった、じゃあ、これからしばらくたのむよ」
こうして俺たちは、長くなりそうな冒険の準備を始めた。




