第一話
作者→しろとくろの
この小説はリレー形式で進んでいきます。
前を走る彼女の髪が揺れている。少し茶色い彼女の髪。肩までのポニーテールが犬の尻尾のように忙しく揺れている。
そんな彼女を追いかけるように走る俺の形相は必死そのものだろう。
時々後ろをちらちらと振り返る視線には、怯えが混ざっているように感じた。
彼女の名前は、桜井美玲さくらいみれい。第一印象は『緑のジャージ』だった。上下お揃いのジャージは高校で着ていた物らしい。本当に三年間着ていたのか疑ってしまうほど綺麗なジャージは、俺のとは大違いだった。
同じゲーム会社に入社したばかりの俺達は、配属部署は違うし、今まで接点もなかった。
ぶっちゃけ、この島に来ることになってから初めて会話したし、親しい間柄でもない。
それなのに何で追いかけてるんだって? 俺だって好きで走っているわけじゃない。運動は正直苦手だし、マラソンなんて論外だった。
――誰か、嘘だって言ってくれよ……。
走っても走っても、さっきから周りは木ばっかりで、自分が何処を走っているのかもわからなかった。何処まで走れば、この場所から逃げられるかなんて検討もつかない。会社から事前に支給された地図だって、こんな状況じゃ役に立たなかった。
――まるで、『お前達には逃げ場なんてない』って言われてるみたいじゃねーか。
それでも俺は走る。走って走って、走り続けて……。
「うおあっ」
ズサーっと頭からスライディングしてしまった。何かに足を引っ掛けたようだ。多分、ところどころに出ている木の根だろうと考える。
いてて……と思いながらも顔をあげると、彼女の尻尾が止まっていた。
――もしかして、俺のことを心配してくれたのか?
立ち止まった彼女が、一瞬躊躇したように少しずつ振り返る。俺の方を見て「ひっ」と小さな悲鳴をあげた。
「りゅ、竜崎さん……」
口元に手を当てた彼女の顔は青ざめていた。
その場でぺたんと地面に座り込んでしまった彼女の視線を追うように、俺も恐る恐る後ろを見る。
「わ、私達は、逃げられないんでしょうか……?」
「……そう、みたいだな」
そこにいたのは、俺達が走ることになった原因だった。
赤黒い色をしたイノシシみたいな生き物が、『グルグル……』と低い声を鳴らしている。
嘲笑うかのように牙をむき出しにし、よだれを垂らすその様は、恐怖以外の何物でもなかった。
必死に逃げる俺達は、そいつにとっては『獲物』なんだろう。
前足で土を蹴っているのは、狙いを定めた合図に違いなかった。その証拠に、俺達目がけて勢いよく走ってくる。
――畜生。こんなはずじゃなかったんだ。
俺はそう思いながらも、この『魔物の住む島』に来ることになった経緯を思い出していた。