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第七話 秘密

 

 Side...yukiya



「───…っ、はぁっ…っく」

 眠りについてから、どれくらい経っただろうか。俺は空腹と左腕の痛みで目を覚ました。

 光の差さない部屋、布団の上で小さく体を折り曲げて痛みに耐えていた。

「…弥、雪弥」

 名前を呼ばれた気がして、目を開ける。

「一瞬でいい、じっとしてくれ」

 いつの間にか蝋燭ろうそくに火が灯されていて、髪を結った久慈川の顔がぼんやりと見えた。

「っ……」

 俺は仰向けになり、大きく深呼吸をする。その僅かな時間で、久慈川は俺の肩に針を打った。

「麻酔が切れたのだ。代わりに痛み止めを打った、じきに効いてくる」

「ま、すい…?」

 知らない言葉、また外国語だろうか。ついでに言うと彼女が手にしている針の付いた小瓶もよく分からない。

「その、瓶…」

「これは注射という、人の体内に直接薬を入れる道具だ。…話す気力があるようで良かった」

 久慈川は微笑んで、汗だくになった俺の額に濡らした布を乗せた。

 冷たくて心地良い、俺はふと、五年前のことを思い出す。

 久慈川に腕を斬られてから数日間、同じように寝込んでいた。その時は七依と心紅朗、そして花室さんが交代で看病してくれた。

 この女に看病される日が来るなど、夢にも思わなかったが。

「腕を縫い付けた痛みだ。明日には引くだろう」

 久慈川がの手が、丁寧に俺の汗を拭う。やけに乱暴だったり、腫れ物を扱うように慎重だったり、勝手な女だ。

  「何か、して欲しいことはないか?」

「子ども…っ、扱い、すんな…」

「私の方が君より二つも年上なのだぞ、甘えてくれ」

 他愛ない会話と、揺れる小さな炎が時を刻んでいく。時折、額に乗せた布を変えながら、久慈川は俺に打った薬が効くのを待っていた。

「───腹が減っただろう」

 俺の呼吸が整ってくると、久慈川はお盆を差し出してきた。粥のようなものが乗っている。さっきから妙な匂いがしていたのはこれか。

「体、起こせそうか?」

「……」

 久慈川の手を借りて、俺は重たい体を起こす。弱っている姿など、できれば見せたくなかったと思いながら。

「少し冷めてしまったが…」

「…いただきます」

 手を合わせ、差し出された器とさじを受け取る。妙な香りのする生温かくなった粥を、ゆっくり口に運んだ。

「うまいか?」

 正直、美味しくはなかった。ところどころ固い米、苦味が最大限に引き出された野菜。塩と砂糖…いや、醤油と黒蜜を間違えたような甘さ。

「……」

 しかし、隣で小さな子どものような目をしている久慈川に、正直な感想を述べる気にはならなかった。

「まぁ、食える」

 おそらく普段、料理というものをしないのだろう。とにかくこの空腹がどうにかなるなら、なんでもよかった。

「…今も、私を殺したいと思うか」

 不意に久慈川が視線を落として呟く。肯定されることを恐れているような顔だった。

「分からない」

 殺したいのか、殺したくないのか、自分でも分からなかった。しかし、久慈川に対して無関心なわけでもない。

「そうか」

 それきり、彼女は口を開かなかった。俺も黙って、微妙な味の粥を口へ運ぶ。

 俺が食べ終わるまで、久慈川はずっと隣で待っていた。

「───ご馳走様」

「あぁ、おやすみ」

 俺が粥を完食すると、久慈川はさっさと器を片付けて部屋を出て行った。なんだか釈然としなくて、俺は布団に横になってもなかなか眠れなかった。

 久慈川が俺に踏み込んでこないのは何故だろう。あれだけ露骨な愛情表現はできるのに、俺のことを知ろうとしない。自分のことも最低限しか話さない。

 何か、理由があるのだろうか。

 もしかしたら彼女は、何かを隠しているかもしれない。俺に知られてはいけない、何かを…。


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