壁に~
うるさい奴を黙らせた後歩くこと数分
木造のデカイ建物にノックもせず入っていく
建物の一回は奥に大きなカウンター、後はテーブルやイスが沢山並んだ食堂といった感じ
ここは所謂ギルドだ
だが国や町が管理しているわけでなく完全な個人経営である
ツバメは入り口から真っ直ぐカウンターを目指す
テーブルで飲み食いしているガタイのいいオッサ
ンや顔を仮面で隠した奴、グラマーで妖艶な女や貴金属をジャラジャラ着けて笑ってる爺さん
みんなツバメを一目見て視線をそらす
ツバメの小柄な体格や二十歳過ぎには見えない童顔はギルドのような荒くれの集う場所ではからかわれる対象となりやすい
カウンターのイスに座り呼び鈴を鳴らす
横目でチラリと見渡せば13人いた、どいつも一度は突っ掛かってきた事がある
カウンターの端に座って酒を飲んでる男は先週突っ掛かってきたギルドの新入りだ
新入りは空になったグラスを置き呼び鈴を鳴らそうと此方を見る
ツバメと目が合った瞬間眉間にシワを寄せ顔を反らす 同時に片手で鼻を擦っているようだ
突っ掛かってきた奴等は壁に突き刺さった後1ヶ月はこんな感じだ
こいつは一晩馬小屋の壁に突き刺さったままだったらしい
眠りを妨げられ怒った馬はこいつの髪の毛を噛み千切り逆モヒカンにしたとか
故にさらっさらのロングヘアーに優顔の軟派野郎は一晩で坊主頭の顔面陥没ヤンキーに様変わりした
なわけでツバメの顔など見たいわけでもなく舌打ちした後カウンターに金を置いて去っていった
「次に舌打ちしたら両手で蝶々結びしてやろうかしら」
『物騒過ぎですよ!』
サヤの小声は聞こえないフリをした
「いらっしゃいツバメちゃん、今日も稼ぎに来たのかな?」
バーテンダーがパスタを片手に厨房から出てきた
「いい加減ちゃん付けはやめてくれないかしら?恥ずかしいんだけど」
「ははっ私からしたら二十歳だろうが三十路だろうが子供みたいなもんさ、あれ?新入り君お金置いて帰った?パスタ忘れてったかな?」
「さっきお金置いて去っていったわよ、お金置いてったからいんじゃない?」
「いや、パスタ代は入って無いなぁ・・・」
「・・・」
『今日のランチはパスタにするのがツバメの業であろうな』
ツバメにしか聞こえない位の小声が脇差しから聞こえたが頷きたくはなかった 間違ってはいない筈だがなんかムカついた がこのバーテンダーでありギルドの管理人であるマスターは出会った時から紳士な対応であり何かと気にかけてくれる優しい人であることはこの半年でわかっている事だ
「マスターそのパスタ行く宛無いなら私の昼御飯にするよ?」
「おや?ありがたいね、ならお礼にミルク一杯サービスしよう!」
「ジンジャーエールで!これ以上大きくなったら動きづらいじゃないのよ!」
「いや・・・しんちょ・・・」
「マスターも髪型一泊でイメチェンする?」
「はいお待ちどうさま~パスタにジンジャーエールにバケットだよ!沢山食べてお仕事頑張ってね!」
飄々と去ってくマスターの足取りはかつて何かの達人であったことを思わせる歩き方だと常々思う
「ま、別にいいけど」
他所様の事情を探るのも無粋だと考えを一蹴しフォークをくるくる
「ツバメちゃん丁度高額依頼入ったよ!」
依頼書を手にマスターが戻ってきた
「流れの盗賊を西の谷にて確認した
賊はかなりの数であり町の騎士団は町の防衛のみに徹する模様
これでは商売に支障をきたすので討伐隊の派遣ををギルドに依頼する
商人組合」
「ごくん・・・ご馳走さま、よしマスターこの依頼貰うよ!」
カウンターに代金を置き席を立つ
「よかった、なら噴水広場前に集合だから早めに行ってね」
軽く手を上げて返事をしてギルドを後にする
目指すは噴水広場前と逆方向
西門へ