第二証人「黒鬼・大和2」
というわけで、魔獣界へやってきた。
万葉にバレるとかなーり面倒なことになるので、流派風林火山陰雷の一つ、『知りがたきこと陰の如く』を発動している。
森羅万象と一体化し、気配を極限まで薄めるという技だ。
本来であれば如何なる存在であろうが認識できず、たとえ触れられたとしても気付かないレベルなのだが……
ギリギリのレベルで調整して、二葉にだけは認識できるようにしている。
それでも本当にギリギリなので、なるべく人目に付かず移動している。
目指すは二葉の母親がいるという場所だ。
というわけで、着いたのだが……
目の前にあったのは、墓だった。
「これ、ママ」
「あのー、二葉さん、これってお墓なんですけど」
「ママ、最近死んだ」
「マジかよぉ……」
ちょっと待ってぇ……
えええー。
そんなオチってありですかー?
「困った。本気で困った。これじゃあ、真相が聞けない」
「……?」
「……よし、とりあえず、アイツの元へ行こう」
「アイツ? 誰?」
「琴音……またの名を大禍津童子。魔獣界に君臨する伝説の魔獣の一角。東区で万葉ともう一名を含め三強と謳われている」
アイツなら、真相がわかる。
何せアイツは確率操作の異能を持っているからな。
この子が俺の子供である確率を占ってもらえばいい。
よし、そうとなればレッツゴー。
忍び足で。
◆◆
琴音の屋敷は万葉と正反対の方向にある。
琴音は万葉と仲が悪いからな。
今は少しでも万葉から遠ざかりたいから、ありがたい。
「で、何の用だ。大和。お前が私を頼るなんて、相当なことだろう?」
おかっぱ髪に長い角を二本、額から生やしている。
十代半ばほどの少女は、妖艶なオーラを纏いながら、桃を齧っていた。
「琴音。この子が俺の娘でないか、その確率を出してほしい」
「ほぉぉ、遂に娘ができたか? まぁ、お前ほどのプレイボーイだと、そういう問題は出てくるよなぁ」
「頼む」
「嫌だ」
「何故だ?」
「私に利益がない。それに面倒くさい」
「そこをなんとか! 頼む!」
頭を下げる。
琴音は眉間に皺を寄せながらも、やれやれといった様子で溜息を吐いた。
「……条件がある。それをクリアできれば、見てやってもいい」
「何だ」
「……お前、万葉と避妊無しで寝たんだってな?」
「………」
俺は二葉の耳をすぐに塞ぐ。
「私もそれだ。そうさな、十回くらいで手を打とうじゃないか」
「おい、子供がいるんだ。配慮しろ」
「知るか」
「はぁ……。なぁ、それ以外の方法は」
「じゃあ他を当たれ」
「ぐぅぅ」
くそう……
「わかったよ……そのかわり、絶対妊娠の妖術とかは無しだからな」
「話が早い。お前のその物分かりのいいところは好きだぞ、大和♪」
琴音は蠱惑的に微笑みながら、指先をクルクルと回す。
俺はここで、二葉の耳から手を離した。
「ふぅむ……ほうほう」
「……」
「なぁるほど」
「……」
どうなんだ。
結果は……結果は!?
「大和、その娘は……」
「ごくり」
「お前の娘ではない」
「はぁぁ……」
なんだぁ。
よかったぁ。
「大方、母親がホラでも吹いたんだろう」
「ったく、迷惑な話だぜ」
あー安心した安心した。
俺は二葉のほうへ向く。
「俺はお前のパパじゃねぇ。……どっか行きな」
「っっ」
二葉はとてとてと屋敷を去っていった。
俺は少々罪悪感に苛まれる。
が、違うことは違うとはっきり告げなければならない。
「……はぁぁ」
俺は重い溜息を吐いた。