第四証人「戦神・ハルス」
さて、遂にこの時がやってきたな。
超越者と戦える日が。
ふふふふ。
暇つぶしで出た片田舎の大会であるが、まさかここまでの大物が紛れていようとはな。
超越者、黒鬼、大和。
超越者随一の剣の使い手にして、殺人剣を極めしもの。
その強さは超越者の中でも上位にランクインしている。
先の赤修羅との戦いも制してみせ、更には白羅刹、金獅子の二人がかりでも止めることはできなかった。
ふふふふふ。
とある外宇宙で主神と戦神を兼任している俺は、強者に飢えていた。
ずっと戦ってみたいと思っていた。
超越者と。
負けるは必定、もしかしたら手も足も出ないかもしれない。
だが、それがどうした。
強者に挑むことこそ我が生き甲斐。
戦士として最上級の誉れ。
悠久の時を無駄に生きながらえるのであれば、いっそのこと派手に散ったほうがいい。
ああ、どうしてこんなことに先日まで気づけなかったのだろうな。
馬鹿馬鹿しい。
俺は主神をしているうちに、戦神として、戦士として一番大切な情熱を忘れていた。
さぁ、超越者よ。
闘争の時だ。
貴様を思う存分楽しませてやる。
我が命にかけてな。
◆◆
「さてさて、この剣闘大会も今日遂に決着がつきます! 東の門よりー! 超越者、大和選手の入場です!!」
『ワァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!』
褐色肌のサムライ、大和が現れる。
相変わらずいいオーラを纏っている。
戦士として、理想のオーラだ。
何時如何なる時でも戦闘できる、二十四時間臨戦態勢。
俺も、お前を見ていて、思い出したんだよ。
お前に感謝しなければな。
「お次は西の門から、とある外宇宙で主神をしております! 戦神ハルス選手の入場です!!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!』
さて、俺も既に準備は整っている。
何時でもいいぞ。
「大和選手とハルス選手、超越者と神、果たしてどちらが強いのか!? 決着を皆で見届けましょう!! それでは、試合――開始!!!!」
銅鑼が鳴り響く。
大和は……消えていた。
「!?」
俺は瞬間的に腕をクロスさせ、ガードする。
するとすぐに両腕が斬り飛ばされた。
目の前にいる大和は、既に刀を二本持っており、口元を半月に歪めていた。
「なぁ神様よォ!! テメェなら多少力を出してもいいよなぁ!!」
「……ふっ、はははは!! 無論だ!! 楽しませてやるとも!! 命をかけてな!!」
俺は両腕を再生させ、地面を踏み抜く。
すると、闘技場が崩壊を始めた。
「み、みなさん!! 危険ですので一時撤退してください!! ひゃー!! マジぱねぇ!!」
観客たちが慌てて逃げ出す。
大和は気にした素振りを見せない。
いいや、コイツは俺しか見えていない。
周囲のことなんて、微塵も気にしていない。
完全にスイッチが入っている。
そうでなくてはな!!
俺も周囲を気にすることをやめよう!!
ありったけの神気を両手に集中させ、解放する。
有形無形問わず全てを消滅させる破壊の閃光だ。
威力は惑星バトルを百個ほど破壊する威力。
食らうがいい!!
放った瞬間、閃光は二つに割れた。
大和が斬り裂きながら突貫してくるのだ。
むぅ!! やはりこの程度の技では足止めすらできないか!!
割れた閃光は大陸を焼き尽くし、宇宙に消えていく。
既に闘技場の面影はなく、瓦礫の山となっていた。
「……脆い。テメェとやるには、惑星じゃ脆すぎる」
「そうだな、ステージを変えよう」
俺は指を鳴らし、自分と大和を外宇宙へ転移させる。
星、銀河、銀河団、超銀河団、宇宙、多次元宇宙、超多次元宇宙。
その先の世界が外宇宙だ。
ここでなら、俺は全力を出せる。
だが、大和。
お前はこの世界でも、ほんの少ししか力を出せないのだろう?
知っているとも。
であればこそ、せめてお前を愉しませなければならないなぁ!!
俺は瞬時に距離を詰め、肉弾戦に突入する。
戦神として、格闘、武器術は極めている。
「俺に近接戦闘で挑むってか? その度胸は認めるが……愚策だぜ」
「生憎、これが一番得意でね! しっくりくる!」
「ククク、そうかい」
剣、刀、槍、槌、斧。
数々の武装を一気に顕現させ、怒涛の攻めを見せる。
しかし大和はそれぞれの捌き方を熟知しており、完璧に対処してくる。
武具を一つ一つ破壊され、最後は丸腰になってしまった。
であれば、格闘で決める!!
俺は素手のほうが強い!!
「ほぅ、流石戦神だ。いい強さだぜぇ。燃えるねぇ」
大和は特殊なオーラを身に纏う。
あれは……
『疾きこと風の如く』
あれは……気か。
森羅万象を司る生命エネルギー。
ここまでの密度のものは初めてみる。
流石は超越者だな。
観察したところ、身体に纏っただけだ。
身体能力や五感の強化、治癒能力の促進をはじめ、毒耐性も高くなっているな。
ふむふむ……
「単純なステータスアップか、しかし、厄介だな!」
回し蹴りを放つと、大和は肩で受け止め、威力を別方向へ流す。
知っているぞ! 合気だろう! 力のベクトル操作!
それがある限り、俺はお前に傷を付けることすらできない。
ぶっちゃけ、もう詰みだ。
どれだけ策を巡らそうとも。
どれだけ修練しても。
お前を超えることは、できない。
であれば、心。
心だけは、決して負けない。
俺はお前に勝つ。
それだけを信じて、突き進む。
前進あるのみ!!
全身全霊、戦神ハルスの全てを受け止めてみせろ!!
「いいねぇ!! いいねいいねぇ!! その目!! 最高だぜぇ!! 諦めてない目だ!! そういう目、大好きだぜ!! 諦めてない奴ってのは、どんなに弱くても、芯があるんだ!! 最後まで俺を愉しませてくれる!!」
喜んでもらえて何よりだ!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
ラッシュラッシュラッシュ。
無我夢中に攻撃を加える。
それしかできない。
それしか、ない。
大和は嬉々として突撃してくる。
合気もロクに使わず、全身を殴打されながら、ただ俺の首めがけて突っ込んでくる。
とらせはせん!!
とらせはせんぞォォォォォォォォ!!!!
「大和ォォォォォォォォォ!!!!!」
一瞬の交差。
俺達は時が停まったかのように動きを止めた。
「……ふっ、やはり、無謀であったか」
大和の日本の刀は俺の首元でクロスされていた。
大和は満身創痍で微笑む。
「満足だ。テメェは確かに弱かった。だがその魂は、強く滾っていた。俺も思わず熱くなっちまったよ。防御なんて考えないで、ガチンコで勝負しちまうほどにな」
「……ありがとう、大和。俺に戦神としての本質を思い出させてくれて」
「礼を言うのはこっちだ。ありがとうな。本当に、楽しかった」
大和は悲しそうに瞳を細め、そして俺の首を飛ばした。
ふは、ふははははははは!!!
ああ……最高に幸せだ。
楽しかったぁ……
◆◆
アルティメットワンが終わってから数日後。
私、ラビは娼館で雑用をしながら、母親の看病に勤しんでいた。
娼館の仕事は、雑用オンリーにしてもらった。
給料は大分下がるが、他の仕事と掛け持ちすれば、どうにかなる。
私は……大和様以外に抱かれたくない。
そう、強く想うようになっていた。
アルティメットワンの優勝者は大和様だった。
私もスクリーン映像で見ていたけど、大和様は、やはり超越者だった。
強い、なんてものではない。
私の少ない語彙力では、彼の強さを表現しきれない。
闘技場はほぼ全壊、北の大陸には壊滅的なダメージが残ったが、幸い、あそこは森だけしかなかったので、被害者は出なかった。
あれから大和様は別の世界へ旅立ってしまった。
せめて、一言かけてほしかった……
そう思っていると、私宛に手紙がやってきた。
大和様からだった。
アルティメットワンで貰った賞金、いらねぇから全部やる。
母親の治療代になるだろう?
だから、無理して娼婦なんてすんなよ?
大和より。
「大和様の……ばかっ、こんな、私……っ」
後に私は母親と一緒に森の奥深くに引っ越し、ひっそりと、平和に暮らし始めた。
お金に不自由しないから。
大和様……
また、アルティメットワンに参加しようと思ったなら……
いいえ、他の剣闘大会でもいい。
惑星バトルに来た時は……
私、会いに行きます。
私は今でも……あなたのことを、お慕いしていますから。