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大和さんの異世界漫遊譚 第二部【未完】  作者: 桒田レオ
《第一章・惑星バトル編》
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第三証人「新人娼婦・ラビ」

 はわ、はわわわっ。

 こ、こんばんは、私、ラビと申します。

 娼館で見習いとして働いていたのですが、今夜、初お仕事となります。

 き、緊張でガチガチです。

 正直、怖いです。

 私、まだ男性と、そういった経験がないので……

 痛いと思うと、震えてしまいます。

 痛いのは嫌なので。


 で、でも、私、床に伏せているお母さんのために、一杯お金を稼がなきゃいけないんです。

 普通に働いているだけじゃ足りない。

 でも、剣闘大会に出る度胸もない。

 なら、せめて、娼館で……


 はわわわわわわ。

 駄目だー、自慢のウサギ耳がしおしおしてるよー。

 やっぱり怖いよー。

 痛いのやだよー。

 最初の人が乱暴な人だったらどうしよーっ。


 先輩曰く、剣闘士は皆乱暴で、優しいのは稀だとのこと。

 うわぁぁぁん、剣闘士とは寝たくないよーっ。


 一番最初は好きな人にあげる、なんて贅沢なことはいいません。

 でも、せめて、痛くはしないでください。

 私のささやかな願いです。


「きゃー! 今日も来てくれるって! あの人!」

「本当に!? やったーっ!」


 先輩達が全員黄色い声をあげていた。

 あの人? 何時も雑用をしていた私は、その人が誰なのかがわからなかった。


 と、思っていたら、やってきた。

 あ……あの人は。


「大和様よー!!」

「きゃー!!」


 艶のある黒髪を後ろで結い、獰猛な肉食獣のようにギラついた瞳。

 見事に鍛え抜かれた褐色の肉体を胸襟から覗かせながらやってきたサムライ。


 超越者、大和様。


 知ってる。

 いいや、今惑星バトルでは彼の噂で持ち切りだ。

 なにせ彼は三千世界最強の人間、超越者なのだから。

 その鬼神の如き強さから、今年のアルティメットワンの優勝最有力候補にあがっている。


「大和様ー!! 私を選んでー!!」

「私! 私を選んでください!!」

「大和様~! また寝ましょうよ~!」


 普段は艶やかな先輩達も、大和様の前では生娘のようにはしゃいでいる。

 た、確かに、そりゃあ、格好良いですけど……

 どうして、あんなに人気なのでしょうか。

 格好良いだけじゃあ、先輩達は靡かないと思うんですが……


「さぁて、今日はどの子にしようかねぇ」


 大和様は周囲に集まる美女達を見ていく。

 そして、ふと、私と目があった。

 私は慌てて目を逸らすが、大和様はニヤリと笑う。


「決めた。今日はあのウサギ耳の子を貸し切りだ」

「「「「え~!!!」」」」


 先輩達の大ブーイング。

 私はあわあわと慌てる。


「ああああああの、ややや大和様、私、その、まだ新人の中の新人でして、ああああなた様を満足させられるとは、とてもとても」

「いいんだよ。別にそんな難しく考えなくて。いいから来な」


 大和様は私に近寄り、お姫様抱っこする。

 は、はわわ~っ、お姫様抱っこされたの、何気に初めてですぅ……


「ずるーい!! ラビの癖に生意気!!」

「あとで覚えてなさいよ!! ラビ!!」

「ひぇぇぇぇ」


 先輩達の嫉妬と憤怒のオーラが痛い。

 痛すぎる。

 はわわわわぁ~、私、これからどうなっちゃうんでしょうか!?



 ◆◆



「~♪」


 大和様がシャワーに入っている間、私は頼れる先輩の一人にコソコソと通信をとっていた。


「どどどどどどどうしましょう!?」

『せいせいせい、まずは落ち着きなさいラビ。はい深呼吸』

「すー、はー、すー、はー」

『落ち着いた?』

「は、はい……」

『まず、これはチャンスだと思いなさい』

「どう考えたって罰ゲームなのですがそれは」

『何でよ? 相手はあの大和様よ? 三千世界の女達が恋いに恋い焦がれる益荒男、最強の雄。凄いわねぇ。ねぇ、私と代わってくれない?』

「なんなら今すぐにでも!」

『冗談よ』

「そ、そんにゃ~」

『何アンタ? 大和様が嫌いなの?』

「そ、そんなわけじゃないですけどぉ」

『ならなんでそんな嫌がるわけ?』


 そ、その……


「大和様って、上手ですか? 戦士なので、その、乱暴かなって」

『…………』



『あっはっはっはっは!! 何あんた!! 痛いのイヤなわけ!? それだけ!? それだけであの大和様と寝るとイヤなわけ!? ぶふぅ!! あーっはっはっはっはっは!!』



「笑いごとではないですよぉ!! 重要です!! 私、はじめてなんですから!!」

『あーそういえばそうだったわね。そうねぇ、はじめてで乱暴な人と当たっちゃうと、酷い目に合うからねぇ。私も実際そうだった』

「ッ」

『でも安心しなさい。大和様、滅茶苦茶巧いらしいから』

「ほ、ほんとうですか!?」

『ええ、大和様と寝た同僚が全員「最高だった」って言ってたんだから。中には骨抜きにされて三日くらいぽけーってしてた奴もいたし。だいじょーぶよだいじょーぶ!! 頑張りなさいよ!! じゃ! 私も客が入ったから!!』

「あっ、ちょ、まっ……!!」


 プツンと、通信は切れてしまった。

 ううう……


「なんだぁ、お前、処女だったのか」

「!!?」


 大和様は腰にタオルだけを巻いていた。


「き、聞いていらしたの、ですか?」

「まぁ、あんな大声で喋ってたら、意識せずとも聞こえるわな」

「~っ」


 私はうさ耳を抑える。

 どうしよう、どうしよう~。


「ふぅむ、まぁ、予想はしていたがな」

「へ?」

「お前が未経験だって、初対面でなんとなくわかった。俺ぁこういう場所によく通うから、纏う空気でなんとなくわかるんだよ」

「……あの」

「?」

「大和様って、初物が好きだったりするんですか?」

「違うわ、勘違いするな」

「あぅ」


 うさ耳をおさえる。

 大和様はやれやれと溜息を吐いた。


「ま、そうさな。適当に時間潰そうぜ。お前、俺と寝なくていいから」

「……へ?」


 大和様はベッドに寝そべり、欠伸をかく。

 私は彼に問うてみた。


「あの、どうして……? 寝ないと、仕事にならない」

「俺が金を払えば済む話だろう?」

「でも、それじゃあ、割に合わない」

「……はぁぁ」


 大和様はため息を吐いた。


「お前にどんな事情があるのか知らねぇけど、まずは処女くらい捨てておけ。好きな人にでも捧げろ。一生で一度なんだぞ。俺なんかにくれてやるほど、安いもんでもなかろうに」

「……でも」

「じゃあなんだ? 俺と寝るか?」

「それは……」

「じゃあおとなしくしてろ」


 大和様はごろんと寝返りを打つ。

 私は顔を真っ赤にして、うさ耳をぴょこぴょこさせた。


「大和様、優しいんですね。少し安心しました……」

「勘違いするな。これは人間だった頃の名残だ。戦闘になったら周囲のことなんて一切考えない。戦闘していない今だから、こんなこと言ってるんだ」

「それでも、嬉しいです」


 私は大和様の隣に座る。


「……お前、名前は?」

「ラビです」

「ラビ……お前はどうして娼婦なんてしている」

「……」

「話したくないなら話さなくていい。ただ、下手な理由であれば、娼婦はやめろ。お前は向いてねぇ。娼婦ってのは、男と寝ることが楽しいって女がする仕事だ。向き不向きってのが明確にあらわれる」

「でも、私にはこの仕事しか、ないんです。この仕事が、一番お金を稼げるから」

「……」

「私、母が病に犯されていて、床に伏せっているのです。治療には莫大な費用が必要で。それも毎月。そのためには、普通の仕事では足りないんです。幾ら掛け持ちしても。かといって、剣闘大会に出れるほど、私は強くありませんし、度胸もありません。だから、せめて、こういう場所で身体を張ろうと……」

「そんなこと思ってる奴を抱いたって、ちっとも気持ちよくねぇよ」

「!!」

「セックスってのは互いに気持ちいいって思って初めて成立するもんだ。仮初でもいい、互いのことを本気で愛するんだ。それがお前には絶対にできねぇ。だから、無理だよ。向いてねぇ」



「……あなたにッ、あなたに何がわかるんですか!!? 超越者で全てが思うがままのあなたに、私の何が!!!」



「…………」

「……すいません、私……っ」

「いいんだよ。確かに今の俺は全て思うがまま……とまではいかないが、大抵のことは叶っちまう。そんな俺にどうこう言われたって、ムカつくだけだよな」

「……」


 大和様は振り返り、私を抱きしめる。


「ふぇ!? 大和、様!?」

「俺にはこうすることしかできねぇ」

「……っ」


 大和様の肉体が、直に……

 ほのかに百合の香りがする。

 私は顔を真っ赤にし、プルプルと震えていた。


「緊張するな、リラックスしろ。何もしねぇ。大丈夫だ」

「……っ」

「せめて、男の肌に触れることくらいは慣れておけ。俺にできるのは、これくらいだ」

「……!!」

「お前が少しでも楽できるように、な?」


 大和様、もしかして、私のために……?

 こんなの……

 こんなのって……っ


「ずるいです。大和様……」

「何がだ?」

「もっと嫌味な言葉をかけてくればいいのに」

「……」

「こんな素朴な優しさに触れたら、嬉しくないはずがないじゃないですか……っ」


 こんな小さいことで一喜一憂してしまう。

 感情の起伏が激しい。

 私の弱点だ。

 大和様は微笑みながら私のうさ耳を撫でた。


 数時間ほど、そうしていると、身体の奥がジンジンと熱くなってきていた。

 身体が、熱い。

 どうしてしまったんだろう、私。


「ん?」


 大和様の顔を見ると、トクンと胸が高鳴る。

 私は思うより先に言葉に出していた。


「大和様……私、大丈夫です」

「?」

「あなたになら……はじめてをあげても」

「……おいおい」


 大和様はため息を吐く。


「雰囲気に流されるのはよくねぇ。っていうか、お前、俺のフェロモンにあてられたな。お前はある程度耐性があると思っていたんだが、やはり至近距離での接触は駄目だったか」

「大和様ぁ……」

「落ち着けラビ。理性を保て」


「大和様、私は大真面目です。……大和様の素朴な優しさに触れて、あなたなら、はじめてをあげてもいいと、思ったのです。これは本能ではありません。フェロモンのせいなんかではありません」

「……」

「それに、私、今まで異性のことを好きになったこと、ありませんから。……こんな気持ち、大和様が初めてですっ」


 私はそう言って大和様に抱きつく。

 大和様は瞳を細めると、私のうさ耳で甘く囁いた。


「そんなこと言うと、本当に奪っちゃうぞ。お前のはじめて」

「~っ」


 恥ずかしいのと嬉しいのがごっちゃになって、私は身もだえする。


「あの……不束者ですが、よろしくお願いします」

「ああ、痛くないように、優しくしてやるからな」


 大和様と視線が合う。

 私達はそのまま、唇を交えた。

 ……何気にこれが、私のファーストキスだった。

 ファーストキスは、深く情熱的なキスだった。



 ◆◆



 朝。

 起きると大和様が、隣で微笑みながら頭を撫でていた。


「おはよう、ラビ」

「……おはようございます、大和様」

「痛くないか?」

「少しジンジンしますが……大丈夫です。大和様、優しくしてくれましたから」


 昨夜、私は初夜だとは思えないほど激しく乱れ、大和様を求めた。

 大和様が非常に上手だったのもあるだろう。

 正直に言うと、セックスに溺れそうだった。

 今は正気に戻っているが、思い出すと、頬が熱くなる。


 あれが、セックス。

 ……セックスって、あんなに気持ちのいいものなんだ。

 想像以上だった。


「今日はあまり激しい運動はしないほうがいい。食事も軽めのをとれ。……じゃ、俺は先に出るぜ」

「あっ……」


 大和様は何時の間にかサムライ装束に着替えていた。

 もう出ていく準備はできていた。

 私は反射的に、大和様の袖をつかんでしまう。


「どうした?」

「あの、その……っ」


 言え、言うんだ私……


「もう少しだけ、一緒にいて、いただけませんか?」


 勇気を振り絞って出した言葉に、大和様は微笑む。


「少しだけな」

「~っ」


 ずるい……

 ずるいよ、大和様。

 こんなに格好良くて、逞しくて、優しくて。

 こんなの、惚れない女がいないはずないじゃん。


 ずるいよ……っ


 私は大和様に胸板にすりすりと頬をすり寄せていた。

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