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大和さんの異世界漫遊譚 第二部【未完】  作者: 桒田レオ
《第一章・惑星バトル編》
3/15

第二証人「さすらいの辻斬り・碧(あおい)」



 拙者の名前は碧。

 旅をする辻斬りだ。

 此度は惑星バトルで開催されるアルティメットワンという大会に出場している。

 人間ということで馬鹿にされたが、予選での殺戮地獄で300名を斬り伏せた。

 おかげで、拙者を馬鹿にするものはいなくなった。


 しかしだ。

 夜な夜な襲撃者が現れるようになった。

 拙者の首が欲しいのだろう。

 手柄とするのか、それとも誰かからの依頼か。

 宿に泊まっていては部屋を破壊してしまうので、追い出された始末。

 夜は殆ど眠らず、襲撃者を斬り伏せていた。


 しかし、楽しいな。

 拙者は剣客だ。

 生き物を、強者を斬ることを至上の快楽としている。

 拙者、死ぬ時は戦場と決めている。

 この身体朽ちるまで、戦場で過ごす。


 今日も三名ほど刺客を斬って、どこかで仮眠をとろうとしていた矢先。

 路地裏から唐突にサムライが出てきた。


 褐色の肌、鋭い三白眼、鍛え抜かれた肉体。

 そして、深紅のマントに赤柄巻の大太刀。

 間違いない。


「大和殿……」

「ん? 誰だテメェは? テメェも俺の首が欲しい口か?」


 大和殿が出てきた路地裏は、血と臓物で溢れかえっていた。

 十、いいや、三十人ほどの死体が混ざり合っている。

 拙者は大和殿に向き直り、お辞儀をする。


「いいえ、拙者も首を狙われる身でございまして」

「ん、そうか。少し残念。テメェなら楽しく斬り合いができそうだと思ったんだが」


 一瞬で拙者の実力を見抜く慧眼。

 そして、纏う鬼神の如きオーラ。

 やはり、間違いない。


「大和殿、お会いしとうございました」

「どうしてだ?」

「拙者のような辻斬りにとって、貴方は神のような存在なのです」

「そうかい……ふぅむ、微妙な気持ちだな」


 大和殿は顎を擦った後、拙者に問うてくる。


「お前はアルティメットワンの予選を通過したのか?」

「はい」

「なら、何時か当たるかもな」

「そうですね……」

「……」

「……」

「他の奴にテメェをやるのは少し勿体ねぇ。今殺してやるよ」

「奇遇ですな。拙者も、今すぐ貴方と斬り合いたいと思っておりました」


 互いに唇を歪めて、得物を抜く。


「ふっ」


 まずは拙者から。

 本気で大和殿の首を飛ばしにかかる。

 しかし、大和殿は拙者の剣筋を読めているのか、最小限の動きで避けてくる。

 そして、滑り込ませるように鳩尾に突きを放ってくる。

 拙者は後退し、距離をとる。


「やはり、良質な剣客だな。いいぜ、いいぜぇ。久々に心から燃えてきた。お前、名は?」

あおいと申します」

「なら碧、楽しもうぜ、斬り合いを。テメェならわかってくれるだろう?」

「はい、無論ですとも」


 殺人剣を追求することのなんと甘美なことか。

 教訓など糞食らえだ。

 殺すための剣、誰かを守らない剣。

 それは、三千世界で最強の剣術だ。

 その剣術を極め抜いた御方が、目の前にいる。

 その御方と斬り合える。


 辻斬りにとって、これ以上の幸福など存在しない!!


「ははははは!!」


 拙者の獲物は長刀。

 身の丈以上の刀身を誇る物干し竿だ。

 対して大和殿の獲物は大太刀。

 リーチは拙者のほうが長い!!


 拙者は拙者の戦い方をさせてもらいますよ、大和殿。


 物干し竿の超リーチを生かした剣技を浴びせる。

 大和殿は苦い顔をしない。

 むしろ嬉々として捌いてくる。

 荒々しく、時に繊細に、全ての剣を捌きながら、距離を詰めてくる。


 ははは。

 その首、既に十三回は飛ばしているはずなのに、掠りもしないとは。

 やはり貴方は、我々の神だ。

 讃えるに足りる御方だ。


 見てください、大和殿。

 これが拙者が二十五年費やして極めた殺人剣です。

 誰に習うでもなく、ただ首を飛ばすことだけを考えてきました。

 防御などありません。

 回避すら、首飛ばしのための布石なのです。

 どうですか?


「うぅむ、見事。独学だろう? それでここまで仕上げるとは、日々鍛錬に努めると同時に、相当な人数を斬ってきたな」

「恐縮です」

「俺も見たことない、未知の剣捌きだ。勉強になる。ワクワクするぜ♪」


 大和殿は拙者の剣をじぃぃっと見つめていた。

 照れますな。

 その首、飛ばしたくなる。


「ふむふむ、ほぅほぅ、なぁるほど」


 大和殿は暫く観察していたかと思うと、構えを変えた。

 あれは……


「拙者と、一緒?」

「よし、行くぜ」


 大和殿が突撃してくる。

 ……!? これは!! 

 身体捌き、軸足、踏み込み、剣の角度。

 全て私の剣だ。

 完璧に模倣されている!?


「昔から色々な剣術の良いところだけを取ってきたんでね。こうして相手の剣技を盗む癖がついちまったんだよ」

「!!」


 そんな、拙者が二十五年費やした剣技を、この短時間の間に!!


 ……ふ、ふふふ。

 流石です、大和殿。

 そうでなくては!!

 あなたはそれ程の御方でなくてはならない!!


 しかしですね!!

 模倣は所詮模倣!!

 オリジナルには敵わない!!

 そして、その剣技を一番知っているのは拙者だ!!

 弱点も知っている!!


「……さぁて、ここからが本番だ」


 大和殿の剣技が徐々に変化していく。

 こ、これは……!?

 変化ではない、洗礼されている。

 無駄がどんどん削ぎ落とされていく。

 拙者の理想の剣技に、近づいていっている。


 まさか……


「お前の剣技を今ここで完成させる」

「……」


 馬鹿な……

 まさか、ここまでとは。


 数合打ち合って、拙者は距離をとる。


「なんだ、あともうすぐで完成だってのに」

「……では、最後に我が秘剣を堪能ください。それで、私の剣技は完成するはずです」

「おお、見せてくれ♪」


 大和殿は嬉しそうに笑う。

 ふふふ、そう笑っていられるのも今の内ですよ。

 我が秘剣、一度見たら最後、生きていたものはいません!!


 必殺――――燕返し


 ほぼ同時に三回斬りつける。

 斬り下ろしと斬り上げ。そして突き。

 身体の遠心力と鍛えぬいた手首のスナップから放たれる、拙者の持つ究極の斬撃。


 一の太刀が防がれても、二の太刀を防ぐことはできない。

 二の太刀を避けたとしても、三の太刀は避けられない。

 つまり必殺。


 大和殿は一太刀目を防ぎ、二太刀目を避け、三太刀目を……



 ガキン!!



 歯で噛み止めた。


「!!!?」

「みごと、まさしく必殺技。これがこの剣技の真髄か」


 ぺっと大和殿は切っ先を吐き出して、獰猛に笑う。

 そして、拙者の燕返しと同じ構えをとった。


「いくぜぇ」


 大和殿のオーラが跳ね上がる。

 ……くる!!


「秘剣・七剣抜刀」


 刹那、拙者の肉体はズタズタに斬り裂かれた。

 拙者は血飛沫を撒き散らし、倒れる。


 見た、見たぞ……

 あの瞬間、大和殿は七人いた。

 それぞれの大和殿が袈裟斬り、右薙、右斬上、逆風、左斬上、左薙、逆袈裟をしてきた。

 それも、全くの同時に。


 ほぼ同時ではない。

 全く同じタイミングでだ。


 あまりに卓越した剣技故、時間軸すら超越したのか。

 なんと、出鱈目な……


 大和殿は血糊を払い納刀し、拙者の横に座る。

 そして、瞼を優しく閉じてくれた。


「安心しろ、お前の剣は俺と一緒に生き続ける。お前の剣技を三千世界に知らしめてやるからよ。安心して逝きな」

「……我が剣、託しました。ご武運を」


 我が人生、修羅道であったが。

 悔いは、ない…………



 ◆◆



 思わぬ収穫だった。

 それに、久々に剣客同士の斬り合いを楽しめた。

 やはり、同じ鬼と斬り合うのは燃えるな。


 ……コイツの剣技は、俺が預かった。

 コイツはこれからも、俺と一緒に戦い続ける。


 クックック、だからかねぇ。

 そんな子供みてぇな寝顔しちまって。


 でも、満足して逝ったか?

 それならよかったよ。

 本当に……

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